GG10『ベリーメタル』

第12話 気高いバラの特急

「...ん?」


僕は目が覚めた。


「あっ、隊長さん、起きましたよ!」


見たこともない茶色い髪の、サーバルに似た子が視界に映った。


「...あれ?」


僕は戸惑った。


「ああ、君、大丈夫?」


ゆっくり起き上がると、同じ茶髪の少し眉の太い人と、

三角の耳を持った、サーバルとよく似た子が隣り合って

純白のベッドに座っていた。


「こ、ここ...、どこですか!?」


「ここはRoyalRoseExpress、RREの車内だけど...」


彼が告げた言葉に驚き、二の句が継げなかった。


「SSEじゃ...ない!?」




一方そのころ。



「ねぇトキ、かばんちゃん見てない?」


「見てないけど、どうしたの?」


「私が寝てるうちにどこか行っちゃったみたいで...。

車内を見たんだけど...」


「え?じゃあ、ここで降りた?」


食堂車の窓から、ホーム側を見た。


ここは『惑星ベリーメタル』

鉄が名産の惑星で、銀河鉄道の車両の多くはここで作られている。

そして、路線が何路線か分岐しているターミナルだ。


重力峠でテロリストに襲われ、破損した車両を交換するためにSSEはこの惑星に

予定より長めに停車していた。


丁度到着が真夜中という事もあり、サーバルは寝ていたのだ。


「どうしたんだろう...」


サーバルが悩んだ顔を見せると、トキは思い出したように顔を上げた。


「...!もしかすると、駅に降りたかもしれないわ。

ほら、この車両今、水が全部使えないじゃない...」


「まさか、寝ぼけて別の列車に...!?」


そのタイミングで車掌さんが通りかかった。


「車掌さん、この時間帯にベリーメタルを発車する列車、わかる?」


「チョウド、30分程前ニ、反対側ノホームカラ、RREガ発車シタケド...」



「ええっ!SSEのお客さんなんですか!?」


茶色い髪の彼女は分り易く驚いた。


「寝ぼけててベリーメタルのホームの反対に止まってたこのRREに乗り間違えたと...」


「まさか...、こんなことになるなんて...」


「大丈夫だよ、協力するよ。なあ、ドール」


「はい!勿論です」


「あ、ありがとうございます」


僕は頭を下げた。


「自己紹介まだでしたね。私はドールです」


「ドールからはよく『隊長』って呼ばれてるから、そう呼んで」


「僕は、かばんです」


不思議なコンビに出会ったものだ。

まるで、僕とサーバルを彷彿とさせるコンビだ。


「じゃあ、まずはSSEに連絡を入れないとね。車掌さんに頼んで来るから。

疲れてるだろうし、君はドールとお喋りでもして、ゆっくりしていなよ」


隊長が立ち上がって、真っ先に動いてくれた。


「すみません...、なんか、せっかくの旅なのに...」


「いえいえ~。私達は全然困ってませんから!前向きにいきましょう~」


ドールはにこやかに言った。


「かばんさんは、SSEでどこに行くんですか?」


彼女は間髪を入れずに、質問した。


「プリズムっていう惑星です」


「へぇ~、プリズム!聞いたことありますよ。

とても綺麗な星で、噂だと何でも願いを叶えてくれるんですよね。

本で見た事ありますよ。何をお願いするんですか?」


「願う...って言っても、特に、これと言って決まってないんですけどね」


僕は苦笑いで答えた。


「そうですかぁ~。まあ、何でも叶えてくれるなら、迷っちゃいますよね」


「...ドールさん達は?」


「私の祖先が住んでたって言われてる、惑星ホワイトローズに!

自分のルーツが知りたくて...。私と隊長さんは地球で知り合って、故郷を見てみたいって

お話したら、行ってみようって誘われて」


「そうなんですね」


他愛のない会話をドールとしていると。


「かばんさん、今SSEに連絡を取ったよ。電話代わってもらってもいいかな?」



『あ、もしもし!かばんちゃん、大丈夫?』


電話の向こうからサーバルの声が聞こえた。


「はい、大丈夫です。すみません、心配かけちゃって...」


『そんな気にしないで。SSEもすぐには発車できないって。

さっき聞いたけど、次の星で折り返して戻ってくれば間に合うから』


「ごめんなさい、ちゃんと戻るんで...」


『気を付けてきてね』


電話機を戻した。


「大丈夫そうだね」


「はい、ありがとうございます」


「困ったときはお互い様だからね」


優しい人がいてくれて、とても助かった。

次の停車駅である「野ばらの星」まで、小一時間程あるそうなので、

2人と喋って時間を潰すことにした。


ドールは故郷の話を僕にしてくれた。


「私が直接見たワケじゃないんですけど、ホワイトローズは

美しい花が咲き乱れる、楽園みたいな星って聞きました」


「地球にも、美しい場所はたくさんある。

だけど、宇宙にはもっともっと、僕らの見た事が無いような場所がいくつもある。

ドールの話を聞いて、僕もそんな所見てみたいなって思ったんだよね。

...確か、プリズムも綺麗な星って聞いたことあるね」


「そうみたいですね」


「へぇ~、ちょっと興味ありますね!」


「でも...、僕が今までで一番綺麗だなーって思ったのは、

やっぱり、惑星雪月プラネット・スノームーンですかね」


僕は、これまでの旅の思い出も交えつつ、話した。


そして...。



『モウスグ、野ばらの星ダ~ヨ』


SSEと少し違う、陽気な喋り方の車掌さんが告げた。


「短い間だったけど、すごい楽しかったです!またお会い出来るといいですね!」


「気を付けてね、かばんさん」


「はい、お世話になりました...、ありがとうございます」


2人に見送られながら、僕は野ばらの星で降り反対側の列車で、

ベリーメタルへと、戻って行った。





「色々、ご迷惑おかけしてすみませんでした...」


かばんが謝るとサーバルは、笑いながら


「いいよいいよ、気にしないで!」


そう言ってくれたけど、やっぱり心配かけてしまった。

今度からは気を付けないと。


僕はSSEに戻れた安心感から、眠たくなって、自室の寝台で寝ることにした。




「...RRE、“幻の列車”にうっかり乗っちゃうなんてね」


トキはそう言った。


「ベリーメタル周辺は、“そういう所”でしょ?」


「ロストローズ星団の最果ての星、ホワイトローズは、

通称、安楽死星あんらくしせいとも呼ばれる...。

あの星に自生するバラは極めて強い毒性を持ち、降り立った瞬間生身の人は死んでしまう」


「...終着駅が“特異な星”であるが故に、RREは大向けの時刻表には一切記載されないんだよね」


サーバルは水を一口飲んだ。



RREの車内...。


「ねえ、隊長さん」


「ドール、どうしたの?」


彼女は何処か、神妙そうな顔をしていた。


「もう、かばんさんとは会えないんですよね...」


「....会えないって言うのは、宇宙のルールの話で言えばそういう事になる。

だけど、会おうと思えば、会えるさ」


「...アハハ。もっと健康だったら良かったのになあ」


自分の感情を押し殺したような声で言った。


「.....」


「でも...、良いんです。

私の病気は今の宇宙の医療でさえも治せないし、お金も掛かっちゃいますからね。

終点に行けば、あの子の未来を...。少しでも、応援出来ますから...」


「...君は優しいね」


息を吐くように、彼は言った。


「それが、私に出来る事ですから。それに、あの子の思い出を聞いて、

いろんなところを行った気分になりました。その、恩返しです...」


「....ああ」


白とワインレッドの塗装のスタイリッシュで最新鋭の電車型の車両は、

ファーーーンと言う籠った音の警笛を鳴らし、星団の靄の中へと走り去って行った。

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