GG09『重力峠』

第11話 重力峠

「あれ...、ここは...」


何といえばよいのだろうか。

ダイヤモンドの中に自らが入ったような、

そんな綺麗な空間の中に僕がいた。


その空間の中に一人、見覚えのある後姿があった。


「...サーバル...さん?」


声を呼びかけたが、振り向かない。


「待っててね...。もうすぐだから...」


誰かと話してる...?

隙間から、何か。


「...アレは?」


何か透明なケースの中に人影が見えた。

三角の耳を持った...。サーバルに類似した...。


「今から、助けるね...」


サーバルが呟いた、次の瞬間だった。

彼女は風を切る様に振り向き、目の色を変えてこちらを睨んだ。

右手には、コスモライフル...。


「...さよなら」


「...えっ!?」




....。




「はっ...!」


僕は目が覚めた。


「かばんちゃん?大丈夫?イヤな夢でも見た?」


サーバルが心配そうに尋ねた。


「あっ...、いえ、大丈夫です...」


「そう?」


彼女は不思議そうな顔をしていたが...。

窓に目を向け、ふと気になった。


「...あれ、ここどこですか?」


「ああ、ここは“重力峠”だよ。

一応駅なんだけど、ドアは開かないんだ」


「なんでそんなところに?」


「重力峠って名前の通り、ここから先、重力が弱くなったり

強くなったりして、まあ、要するに険しい道のりだから、ここで後ろに機関車を繋いで、

押してもらって通るんだよ。だから、ここは機関車を繋げるために止まってるんだ。

結構時間掛かるみたい」


重力の強弱が制御できない程にキツい区間になるという事だ。

補助の機関車が来るまで、車内でくつろぐことになった。


食堂車に行くと...。


「あ、かばんちゃん。来たのね。機関車が来るまで後40分くらい掛かるわ」


「結構待つんですね...」


「ねえ、暇だからなんかゲームでもしない?」


サーバルが珍しくそう提案した。



かれこれ1時間半。

サーバル、トキと一緒にカードゲームをやっていたが、


「...まだ来ないんですかね?機関車」


僕がそう言うと、トキは腕時計を見た。


「言われてみればそうね...。予定の時間より過ぎてるわ」


「でも1、2時間くらい遅れるのなんて、銀河鉄道じゃ当たり前でしょ?」


確かに、サーバルが言っていることは間違いではない。


「もうちょっと待ってみましょう」



気長に待つことにした。

だらだらと気が付けば、重力峠停車から3時間...。


「まだ来ないんですか?」


「ん...、流石に遅すぎるわね。車掌さんに聞いてみましょうか」


3人は車掌の元へ向かった。


「補助機関車カラ、連絡ハナイヨ」


「変ね...。何かの異常があれば、連絡はよこすと思うんだけど...」


「本部ニモ、連絡ハ入ッテイナイ様ダヨ」


「はぁ~、仕方ないか。もうちょっと待ってみよう!」


サーバルが言った。

それから2時間ほど、車内で過ごした時だった。


フィ――!!


遠くから、空笛が聞こえた。



「あ、来たんじゃない?」


サーバルと僕は、後ろの号車に行って様子を見る事にした。

最後尾車両の窓を除くと、向こうから、二つの光が見えた。



「あれが機関車...」



やっと待ちぼうけから解放される。

そう思っていた、矢先だった。


数十メートル、数メートルと近づいてくる。


その時。


「...!!危ないっ!」


サーバルは急に、僕に覆いかぶさるように、床に伏せた。


「たうえっ!?」


次の瞬間、ボカーンと破裂音がし、青白い光線のようなモノが頭上をかすめて行った。


「サ、サーバルさん...」


「この車両に外部から穴を開けるなんてね...。

コスモライフル並の威力...」


「何っ!?何の音!?」


トキが車掌さんを抱えて慌てて様子を見に来た。


「アワワワワ...!車両ガガガガガ...!!」


「大丈夫!?かばんちゃん、逃げよう...」


サーバルに支えられ、後方まで避難する。


「い、一体なんですか!?」


突然の急襲に驚きを隠せない。

コツ、コツと、固い足音が聞こえた。


先頭を歩く黒い衣装に身を包み、布で口元を隠した人物と、その脇には、

黒い一つ目のヒト型生物...?

よくわからない。


「誰?」


サーバルが尋ねた。


「我は、暗黒星団のアムール...」


その名称を聞いて僕は思い出した。


「あ、暗黒星団って、あの、桜の都を襲った!」


「何しに来たの!?」


サーバルの質問に、淡々と答えた。


「SSEは光を運ぶモノ、我々の敵は闇に葬らなければならない」


「何勝手な事言ってるのよ...。器物損壊とキセル乗車しておいて!」


トキが声を荒らげた。


「乗員乗客も我々の敵だ。消えてもらおう」


指示と共に、両脇の黒い一つ目が襲い掛かった。


「っ!」

「!」


サーバルとトキが身構えた時だった。

更に、追い打ちをかける様にドカンと、大きな音がした。


襲い掛かって来た黒い奴は飛び散った。


「今度は何ですか!?」


アムールも後ろを振り返った。


「何者だ」


「やっと見つけた。宇宙の秩序を乱す愚か者。

今すぐここで射殺します」


後からやって来た彼女は腕を伸ばした。


「その腕章...、シンフォニア軍か。話が早い奴らだ」


「ど、ど、どういうことですか?」


この状況を全く理解できなかった。


「重力峠でSSEに繋ぐ予定の補助機関車を乗っ取り奇襲攻撃を仕掛ける。

SSEの停車駅で唯一乗客の乗降が無く、惑星ではない為警備も手薄。

狙うならここしかありません。バカでも3秒考えればここを襲うと思い付くでしょう。

すぐに、援軍が来ることでしょう」


「甘く見るな。我々の技術力はお前らなど比ではない...。

SSEごとき幾らでも沈める機会はある」


「それが負け惜しみですか?それとも遺言ですか?」


「...ふん」


次の瞬間、車内は煙で充満した。



「ゲホッ...、ゲホッゲホッ...」


噎せ返っているうちに、視界は晴れた。

見ると、あのテロリスト集団の姿は無かった。


「逃げ足の速い奴ですね。全く...」


先程まで銃を構えていた彼女はとても平然としていた。


「まずは、あなた方に謝罪をしなければなりません。

奴らが狙っているという情報はあったのですが、奴らの手下共の

処理に手こずりましてね」


「あ、あなたは...」


かばんが恐る恐る尋ねた。


「シンフォニア宇宙軍副司令官のワシミミズクです。以後お見知りおきを。

天下の銀河鉄道に多大な損害を与えてしまった。補機は証拠品として、我々の軍が調査します。

補機は我々の軍が用意しますので、少々お待ちください。

因みに、銀河鉄道本部には連絡済みですので、ご心配なく。

我々は忙しいので、これで失礼します」


彼女は軽く頭を下げると、直ぐに客車に後付けされた小型宇宙船に乗り去って行った。


「シンフォニア軍...、流石宇宙最強と言われるだけあるわね。完璧な後処理だわ」


トキは言った。


「かばんちゃん、大丈夫?」


サーバルはとても心配そうな顔をしていた。


「は、はい...」



騒動が一段落し、僕たちは自室へ戻った。


「ごめんね、もうちょっと危機管理しておけば...」


「いえ、そんな、サーバルさんが気にする事じゃないですよ。

あんな人達が絡んでたなんて、予測できませんから...」


「ここから先、シンフォニアを通る。あのテロ集団の本拠地の近くを通るかもしれない。

かばんちゃんは、心配しないで!危険な目に遭わせるわけには行かない。

絶対に...、絶対に守るからね」


彼女は僕の手を握りながら言った。

そこで僕は、ふと、夢の話を思い出した。


「サーバルさん、どうしてそこまで僕を守るんですか?

どうして、僕をプリズムまでそんなに連れて行きたいんですか?」


何か、裏があるのかもしれない。

そう、思ったのは杞憂だろうか。

彼女は、微笑みながらこう答えた。


「かばんちゃんの為だよっ!記憶取り戻そう!」


前向きに明るく言った。


だけど、彼女の言っていることが。


....。


『....さよなら』


彼女は、夢の中でそう言った。

夢の話だけど、僕は信じられなかった。

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