臨時停車駅『惑星ノウン』
第10話 知りたがり星
暗黒の宇宙を静かに走るブルートレイン。
中ももちろん、静かだった。
遅れていたダイヤもほぼ定時運行に戻っていた。
かばんは珍しく、機関車の方に来ていた。
一応、乗務員のトキさんに許可を貰っている。
「GE510さん、お話しても良いですか?」
「...機関車さんと呼んで構わない」
「じゃ、じゃあ...、機関車さん。
僕、知りたい事が2つあるんです。1つは、プリズムについて、知りたいんです。プリズムは本当に願いを叶えてくれるんですか?」
そう問い掛けると、
「...SSEの乗客の中で、プリズムまで行った乗客は数人しかいない。
そのほとんどは、途中の駅で引き返している」
「引き返した?何故?」
「そこまでのデータは、存在しない。
ただ...、プリズムに着くのは難しく、途中で運転中止になることが多かった」
「...本当に行くのが難しい場所なんですね」
「それ故に、私も願いが叶ったかどうかは、わからない」
「...そうなんですね。後、サーバルさんについて、何か知っていますか?」
「彼女の事については、私は知らない。
仮に知っていたとしても、彼女の個人情報を話す訳にはいかない....」
「す、すみません」
「知る事は良いことだが、時に、知る行為が自らを絶望させることもある」
「知らない方が良いこともあるって事ですか」
彼は黙っていたが、光の点滅が「そうだ」と言っている様に見えた。
「ありがとうございます」
そう言って立ち去ろうとした瞬間だった。
「....何かに掴まれ!」
「えっ...!?」
歯が痛くなる様な高音を響かせながら、列車が急停車したのだ。
幸い、近くに掴まれる場所があったので、自身には何事もない。
しかし、こんなことは初めてだ。
額の冷や汗を拭う。
「かばんちゃん!」
「何なのあの急停車は...」
「GE510、ドウシタンダ」
サーバルもトキも車掌さんも一同に機関車に集まった。
「何者かが銀河鉄道の軌道を変更した。
この列車が行くべきではないルートに誘導されている」
「誰かに線路を変えられた!?」
冷静そうなサーバルが珍しく驚いていた。
「銀河鉄道管理局本部に連絡は?」
トキが尋ねる。
「無線電波が妨害されている。一時的にこの先の区間から、指令所はこの列車が消えたと大騒ぎになるだろう」
「アワ...アワワワワワ....」
GE510の言葉に車掌さんは動転した。
トキもサーバルも難しい顔をする。
そんな中、僕は...
「...機関車さん、この先の線路は大丈夫なんですか?」
「一部区間が変更されているだけだ。他は大丈夫だ」
「じゃあ、もう腹を括って進んでみるしかないじゃないですか」
「...そうね」
「ここで止まってても仕方ないよ」
トキもサーバルも頷いた。
「わかった。SSEは最徐行で運転を再開。
詳細不明惑星に臨時停車する」
「アワワワワワ...次ハ臨時停車駅ダヨ。発車時刻不明...」
SSEは変更された線路をゆっくりと動き始めた。
*
発車して数十分、視界に薄いピンク色の小さな小惑星が見えてきた。
「サーバルさん、あの星何かわかりますか?」
「わかんない...」
「もしかしたら、人工的に作られた星かもしれないわ」
憶測を口にする中、車内に一本の無線が飛び込んだ。
『SSEハ停止信号ニ従イ停車シロ!
乗員乗客ヲ全テ『惑星ノウン』ニテ下車サセロ!
指示ニ背クナラ、SSEヲ爆破サセルゾ!!』
「た....、たぇ....」
「天下の銀河鉄道の軌道を変えたあげくに脅迫なんて、いい度胸してるじゃない」
「とりあえず、停車するしか無さそうだな」
SSEは仕方なく、その停車駅ではない
『惑星ノウン』に停車することになった。
*
「降りたくないけど...、降りなきゃダメなんですよね」
僕がそう言うと、
「癪に障るけど、仕方ないわ」
トキも呆れた溜め息を吐いた。
薄い赤く焼けた地面。
周囲に民家もひとつもない。
空は暗く、ただポツンと、即席の土で盛っただけのプラットホームがあるだけだった。
この星の住民は一体、何を考えているのだろう。
「ねえ、何だろう。アレ」
サーバルの指差す先にあったのはピンク色の
木の様な...
『知りたいな~、知りたいな~』
突然の声に全員が驚いた。
「な、なんですか!?今の声は!?」
『ボクだよボクボク。みんなボクの上にいるんだよ』
「もしかして...」
サーバルは下を見ると...
『そうだよ。ボクはノウン』
「えっ...、ま、まさかこの星が語りかけてるんですか!?」
僕は仰天した。
「落ち着いて、かばんちゃん。アナタ、気色悪いわね。列車は勝手に止めるし、勝手に話しかけてくるし」
トキはいつにもまして、気が立っている様だった。
『だって、知りたいんだも~ん』
「...あっ」
木の方を見ると大きな目玉がギョロっとこちらを見つめている。正直に不気味で、鳥肌がたった。
『もっとこっちに来てよぉ~』
「ヤダよ」
サーバルが言うと
『じゃあSSE爆発させちゃうよ~?一生帰れないよぉ~??』
ふざけた口調で脅しをかけてきた。
「こうしてもラチが明かないわ。
…行きましょう」
ゆっくりと、僕らは目玉の方へ近づいた。
トントンと、サーバルに肩を叩かれる。
「え?」
彼女はなにも言わず、目で何か訴えている様だった。
意味がわからず、指を見ると小さくジェスチャーをしていた。
(まさか...)
心当たりがある。
僕は確か降りるときにギャラクシードラグーンを...。まさか、それであの一つ目玉を撃ち抜けということか。
いまいち理解できずにゆっくり進む。
『にへっ!にへへへへへへっ!!』
奇妙な笑い方をする。すると...。
『あっ、ストップストップ!』
「ん?」
『アブナイモノを持っていないか確認しないと!』
彼は思い出したかのように言った。
『そこでとまってぇ、服を脱いでこっちまで来るんだ』
「なに言い出すの?」
この要求は流石に...。
『命令に背くのか?この星ごと爆発させるぞ』
またもや、脅してきた。
「...仕方ないわ。私から行く」
トキは歩き近付く。
その時。
「...っ!」
かばんは咄嗟にギャラクシードラグーンを目玉に向けて、間髪を入れずに撃った。
「...!」
トキも足を止めた。
光線は命中し、目玉は煙を上げていた。
「やった...?」
そう思った次の瞬間。
「...っ!?た、たえっ!」
体にピンク色の木の枝のようなものが巻き付く。
「か、かばんちゃん!!」
サーバルが振り向くと、彼女は宙に浮いていた。
『お前...。よくそんなマネが出来たな!
SSEを爆破してやる!!』
怒り狂った彼はそう口走った。
「...っ、待って!」
サーバルは声を張り上げた。
「もう一度、確認するけど。あなたの望みはなんなの?」
『ボクは知りたいんだよ...。
ヒトのカラダが知りたいぃいいい!!!』
「...わかった。
私が何でも言うこと聞くよ。銃はほら」
彼女は自らのコスモライフルを地面に投げ捨てた。
『最初からそうすれば良かったのになぁ』
「お願い。SSEとかばんちゃんだけは助けて」
『まあ、いいよ。約束してあげる』
何とか彼は納得した様子だった。
(サーバルさん...、僕の為に...)
心中で不安を覚えつつ、固唾を飲んで行く末を見守った。
「...脱げばいいんだよね」
『そうだよ!にへっ!にへへへへへっ!!』
彼女は言われた通りに、服を脱いだ。
正真正銘、何も身に付けているモノはない。
トキも黙って、ノウンの反応を待つしかなかった。
『あぁぁぁぁ....!!!!!
コレだよぉ...!!ボクが知りたかったのはぁ...!!!』
「これで気は済んだ?」
『...もっと。
もっともっと知りたいぃぃいいいい!!』
興奮した様子でノウンは叫んだ。
『キミィ、かばんって言ったっけぇ。君の銃でコイツを殺してよ』
「え...」
『早く撃てよッ!!』
「そ...、そんな...。撃つなんて...」
「かばんちゃん!!私の事は気にしないでいいから!私を撃って!」
サーバルが叫び僕はハッとなった。
彼に奪われなかったギャラクシードラグーンを
サーバルに向ける。掲げた右腕がプルプルと震える。本当にこうするしかないのだろうか?
『早くしろお!!』
他の手段を考えている暇はない。
僕が無意識に引き金に指をかけた、その時だった。
バァン!!と大きな破裂音がした。
『あああああ!!!!!』
と同時にノウンの悲鳴も聞こえた。
するとトキが大声で叫んだ。
「みんな見てっ!!この中に...」
『うわああああああああっ!!!
やめろおおおおおおおおおおおっ!!!』
耳が痛くなるような彼の叫び。
その隙にサーバルは自分の銃を取り戻し、
追い打ちをかけるが如く、地面に向け銃を撃った。
「早く!!この星は持たないわ!SSEに戻って!」
僕は無我夢中でSSEに向かって駆け出した。
*
「久しぶりにあんな気色悪い星を見たわ...」
トキは深い溜め息を吐いた。
「あの星は...」
「恥ずかしさのあまり穴に入りたいか...、
もしくは...」
ゴォオン!と遠くの方で地鳴りの様な音がした。
「...あの音は!?」
「銀河鉄道本部がSSEのレーダー消失を受けて、消失した場所を探ってたのね。それで彼が見つかってミサイルが撃ち込まれたの。
世の中、知りすぎるのも良くないって事よ」
僕はトキの話を聞いて絶句した。
僕がサーバルのことを聞いて機関車さんが忠告したこと...。
「お待たせ~、ごめんね。かばんちゃんにあんなマネさせちゃって...」
「気にしないでください。
僕も...、もうちょっと強くならなきゃ...」
「...前に言ったこと、覚えてる?」
サーバルは真剣な目で尋ねた。
「この旅に誘ったのは私なんだから、責任くらい私に取らせて」
「...で、でも」
「その優しさだけで充分だから!
…身体が冷えちゃったね!トキ、何か温かいもの貰える?」
「ええ...」
何が知ってもよいことで、何を知ってはいけないのか。僕にはそれがわからない。誰も教えてはくれない。
知りすぎてはいけない事がある。
僕にはそれしか、理解出来なかった。
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