GG07『スカイシティ』

第8話 プリンスオブブルースカイ

「あれ、トキさん?」


かばんがすれ違ったのは乗務員室から出てきたウェイトレスの姿ではないトキだった。


「ああ...、どうも」


「どうしたんですか?」


「次の星で休暇を取ったのよ。その準備」


「じゃあ、一緒に降りられるんですね!」


「ええ」


彼女は頷いた。しかし、どこかあまり楽しみではなさそうな様子だ。


「でも、私は私で用事があるから、ずっと一緒ではないわね」


「あっ、そうなんですね...。次の星って...」


「スカイシティ、停車時間は10時間よ」




ヒィーーー


長い警笛を轟かせて、SSEはスカイシティに近付いていった。


かばんは自室に戻りサーバルと、降りる支度をしていた。すると、


「かばんちゃん、銃持っていってね」


サーバルはいきなり物騒な事を言ったので驚いた。


「えっ?」


「スカイシティは軍事惑星で宇宙で5本の指にはいる程の強い軍隊を持ってるの。だから、治安はいいんだけど、最近その軍人がクーデターを起こすんじゃないかって噂があってさ。

まあ、念には念を入れてって事で。...あと、かばんちゃんに教えないといけないからね」


「そ、そうなんですか...。ちょっと降りるの怖いな...」


そんな会話をしていると、SSEが停車した。


「あれ?サーバルさん、こんな上空で止まっちゃいましたよ?」


窓の下に地面はない。空中で止まっている。


「平気平気!降りられるよ!」


サーバルはそういうと、出入口へ向かった。

扉は空いているが、やはり地面はない


「しゃ、車掌さん、ここ本当に駅なんですか?」


「ソウダヨ」


「だから、大丈夫だって!」


次の瞬間、サーバルが自分の背中を押した。


「た、たぇっ!?」


落ちると思い目を閉じた。

しかし...。


「あ、あれ...?落ちない...?って...、浮かんでる!?」


サーバルは慣れたように空中で立っていた。


「すっごーいでしょ!」


「このスカイシティは地面大きな穴になってて、その穴から強力な上昇気流が発生してるの。わかりやすくいうと、こうして空中に立てるのは地面から吹き上げる強い風のお陰ね。

それで飛ばされないのは、多少の重力があるから。この星はそうやってバランスを保ってるのよ」


トキはそう説明した。


「まずはこの星に慣れないとね」


サーバルはクロールするように、動きながら言った。


「あ、待ってくださいよ!」


「....」

(あの子達に迷惑掛けないようにしなきゃ)





この星の特殊な環境に悪戦苦闘しながらも、

彼女についていった。


しばらくすると、球体状に浮遊する建物が見えた。


「何ですか、ここ?」


「国営の射撃場。軍人もトレーニングするんだよ?」


「えぇ...」


あまり乗り気はしないが、彼女に連れて行かれるがまま中に入った。



雲の上の雲までを突き抜ける灰色の塔がシンボルの大きな城。

その入口にトキはいた。


『何者ダ』


機械の門番がそう尋ねた。


「私よ...」


『...王室ノサーバーニ、該当データガ、アリマセン』


(消したのね...)


「じゃあ、国務大臣のイエイヌを呼び出してくれる?」


「ワカリマシタ」


そう言われ、門の前で数分程待った。


「あっ」


奥側から走ってきたイエイヌに気付いた。


「おおっ!お久しぶりですトキ様!今開けますね!」


大きな門が横に開きやっと地に足を着けることが出来た。


「久しぶり。あんな後になって気付くなんて、予想外だったわ。貴女を命を脅かす状況にさせてしまって、本当に申し訳ないわ」


「いえ、そんな。私は王家に支える者として、トキ様のご要望に従ったまでです。命なんて、捨ててもいいですよ」


「そんな事、軽々しく言っちゃダメよ。

でも、本当に感謝してるわ。ところであの人はどう...?」


「もう、次期後継者を決められました」


「ショウジョウでしょ?」


呆れて溜め息を吐いた。


「しかし、クロスファイアベガが無いのに、

どうやって継承するのかって、議会を開いても殆んどそればっかりで...。

会議は踊る、されど進まずってヤツですよ」


「私は、そんな彼らの考えが気に食わないのよ。確かに国防は重要よ。けど、人を道具として扱うあのやり方には疑問を抱くわ。

王家の為に、星の為に、命を散らしていくっていう特攻精神がね...」


「お気持ちはわかります。どうされますか?

王に拝見しますか?」


「あまり人に見られたくないし、一度落ち着きたいわ。あなたのところじゃダメ?」


「全然構いませんよ」


頷くと、トキと共に城内に入った。



バァン!


眩い光が浮遊していたアンドロイドを破壊した。サーバルは的確に撃ち抜いたのだ。

その腕前は“すごい”という言葉しかでない程見事だ。


「さ、かばんちゃんの番だよ」


「えっ、僕は...」


「平気平気!浮いてる人形を落とせば良いだけだよ!」


簡単そうに口では言うが、動き回る上に複数出現するので、とてもじゃないが、素人には難しいと思う。


「とにかく、やってみてよ。

ギャラクシードラグーンレベルの代物は、撃とうって思って撃つんじゃなくて、銃が勝手に撃ってくれるって言う感覚に近いから」


あまり乗り気はしなかったが、渋々やることにした。


カバから貰ったギャラクシードラグーン。

コンパクトで5、60cm程しかないが片手で持つとずっしりと重量がある。


「...」

(銃が撃ってくれる...)


「肩の力抜いて!行くよ!」



「....!」


視界にターゲットを捉えて直ぐに、

バァン、という破裂音が聞こえた。


確実に自分は引き金を引いたのだろうか?

何が起こったかわからない。


立ち尽くしていると、サーバルが背後から


「ね、言ったでしょ?

これが3人の巨匠が作った、銃の“最高傑作”の威力なんだよ」


と言った。



貧乏のどん底から這い上がり、努力をして銃の名工になりその名を残した“キーラム”の

「コスモライフル」


生まれながらの秀才で誰にもその腕前を真似できなかった若き職人“キッタ”の

「ギャラクシードラグーン」


そして、銃工の礎にして、力の象徴とも言われた銃を作り上げた別名創造神の異名を持つ

“ミネ”の「クロスファイアベガ」


この3つの銃は元々とある惑星にて、神のために捧げられた代物。

しかし、大惑星戦争が勃発し、その3つの銃は広大な宇宙に散り散りになってしまった。




「もしかしたら、その伝説の三丁がSSEに集結しているかもしれない...。奇妙な縁ですね」


「ええ...」


「失礼ながら、トキ様。クロスファイアベガを持ち、何を致す気ですか?」


「私は残念ながら無駄にドンパチする訳でもないわ。ただ、あの人とケリを付ける。ハッキリとさせる」


「そうですか...。

私は止めませんが責任までは持てませんよ?」


「なんでも貴女には押し付けないから。安心して」


そう言って紅茶を一口啜った。



「これほど使いこなせるなら心配はいらないね」


サーバルはそう言いながら僕の肩を叩いた。


「あまり、使いたくは無いですけど...」


つい本音を漏らすと、彼女は、


「かばんちゃん」


真剣な顔をこちらに向けてきた。


「私にはあなたをプリズムまで無事に送り届ける義務があるの。誘ったのも私だし。

守らなきゃならない。だけど、万が一私の身に何かあったら...。その時は自分の身は自分で守らないといけないから」


「...サーバルさん」


やはり、彼女は不思議な方だ。

何故、自分を宇宙の果てに誘おうとしているのか。自分に対し、このような事を言うのは何故か。疑問しか浮かばない。


だけど、謎に包まれているからこそ、魅力を感じるのかもしれない。


「そろそろ、行こうか」


サーバルはそう言った。



一方その頃。


『国王陛下にお会いしたいと申している者が

いるのですが...』


警備員からの電話だった。


「ん~?誰ぇ?」


『実は...、その...』


唐突に扉が開いた。


「...お久しぶりです」


「にぇっ!!」


「お元気ですか?スリ国王陛下」


「...もぉとっくに縁を切られたぁって思ってたよぉ。トキぃ...」


椅子に座るアルパカは足を組み直した。

見下す様にトキを見る。


「私はあなたに忘れられたと」


「...」


その答えに怪訝な顔をして見せた。


「今更なぁによ。正式な後継者にしてぇって、

言いに来たのぉ?」


「いいえ」


「何だぁ違うのかぁ...、ペッ

でもまあ、後継者は決まっちゃってるからにぇ~。いくら懇願されてもぉ、無駄なんだけどねぇ」


「それは知ってる。遠い星に留学してるショウジョウでしょ。

だけど、残念ながら彼女にこの星の統治は難しいと思うわ」


「どういう意味ぃ?」


「この星で国王になる為に必要なのはクロスファイアベガの継承。今、それは何者かによって盗難されてるんじゃないの?急遽、模造品を取り繕ってって所かしら」


彼女は少し口元を緩めた。


「私が言っていた事、覚えてますか?」


「何よぉ.....」


「もう、誰も束縛に苦しまない世界を作るの。強制徴兵を廃止するわ」


「トキはさぁ...、自分の家が無くなってもいいのぉ?何のための軍隊よお。桜の都が攻撃を受けぇ、同盟を結んでるシンフォニアと協力してネオに総攻撃しかけるっていう重要局面なんだよぉ?」


「それで無理な特攻をしかけて老若男女、国民が何人死んだと思ってるわけ?」


声を震わせながら言った。


「責任転嫁はやめてぇよぉ。特攻はシンフォニア軍の総司令官が言った事だよぉ。あたしゃ無関係さあ」


「知ってるのよ?あなたがこの星から兵を一人送る度にシンフォニアからお金を貰ってたのよね。この星は空中に浮いてるから、ロクな産業が出来ない。金欠状態だった。そんな時に舞い込んできたのがシンフォニアからの要請だった。あなたは国民の尊い命と金を変えたのよ。

通りで人を見かけないと思ったら...、人口の殆どの住民を送ったのね」


「それのどこが悪いのぉ!」


「人を武器としてトレードしていたのが私は気にくわないの!

人は人を殺す為に産まれたんじゃない...!

あなたを守る為に産まれたんじゃない...!

人は守るべきものを守る為に産まれたのよ」


そう力強く言い放つと切り札を取り出した。


「そ、それはまさかぁっ!!」


「本物のクロスファイアベガよ。

これが何を意味しているかわかるわよね。

今この星において統帥権と統治権があるのはこの私よ。惑星憲法でもそうなってるのは知ってるでしょう」


「うぐぅ...!!ペッ!!ペェッ!!」


悔しいさと怒りが混ざったのか、しかめながら唾を2回も吐いた。


「トキ様、こちらにサインを」


イエイヌは紙を持って来てトキに渡した。


「いい?これはこの星を民主化するという法律よ。私がこれにサインした瞬間、王室は消滅するわ。ついでに徴兵制もやめるわ」


「やめてぇよおおおっ!!!」


階段から降りてこようとした彼女にクロスファイアベガを向けた。


「邪魔しないで」


「....」


右手でサインを書き終えた。

紙を受け取るとイエイヌは、


「...トキ国王陛下」


「私はもう陛下でもなんでもない。

ただのウェイターよ」


「最後に言わせてください。...、どうかお元気で」


「ありがとう。あなたも...」


そう言うと、トキは部屋を出ていった。


「何でぇよぉぉ...。あたしがなにしたって言うのおおっ!!イエイヌ!!SSEをこの星から出さないでよぉ!攻撃をっ...」


「私は陛下以外の我儘には答えません。

それにSSEに攻撃でもしたら、こっちがやられ返されますよ...。もう終わったんです」


カチャッ。


「国王様はあなたが汚職をしていることを知っていました。その上、国民を武器として輸出していた。国王様が憤慨されるのもわかります」


「何をするきなのぉ...」


「トキ国王は最後に、こう私に指示しました。

私をスカイシティ暫定首相に任命すると。

そして一時的に選挙が行われるまで、統帥統治の権利を譲渡すると。王族の弾劾に限り議会の承認無しで実行できると...。意味、わかりましたよね」


「....」




僕はふとした疑問を投げ掛けた。


「あの...、クーデターがなんとかって言ってましたよね。その割には、人が少ないと思うんですけど...」


「....何でだろうねぇ」


しらを切ったようなそんな反応だった。


僕らは駅の方へ向かった。

すると。


「あら...」


「あっ、トキさん!」


偶々、彼女に出会った。

行きの時よりも、どこか清々しい顔をしているという印象を受けた。


「そういえば、トキさんここの出身でしたよね」


「ええ...。でも、月日が流れると、大分変わってしまうものだわ。スカイシティも今となっては、空のからのまちね」


「...どうしてこんなに人が少なくなったんでしょう」


僕は何気なく疑問を口にした。


「...何でかしらね。でも、いつかみんな帰ってくると思う。私はこの星が好き。

他の人だってきっと同じ思いのはずだわ」


僕はその事を聞いて、彼女の優しさの様なものを感じ取った。


「.....」



イエイエは宮殿から、走り去るSSEを見つめた。


「...貴女の志、大切に引き継ぎますよ」


一方、車内では。


「ねぇ、女王陛下」


「....」


「独裁をしていた国王を失脚させて民主化させるクーデターは大成功だったみたいね」


「...どこまで知ってるつもり?」


「んー、7割くらい」


「だけどもう、貴女には関係ないと思うけど」


「そうだねぇ。関係ないと言えば、関係ないけど...。何でクロスファイアベガを持ち出したの?」


「あの星にはあんなもの無縁だわ...。

悪い人の手に渡っても嫌でしょ」


「アハハ、確かにね!」


「何がおかしいの?」


「貴女がやった作戦の裏で、何があったか。

忘れないように。あと、自分が悪人にならないように精々気を付けてね」


「私が...、に悪人になったら?」


「...その時はその時だよ。生きるか死ぬか。

単純な話じゃん。まあ、今後ともよろしくね」


サーバルはそう言うと、食堂車を出て行った。



(私があの銃を取る時...。私は大切なモノを守りきれるかしら)


自分の背負った宿命の重みが、明瞭になった。


ーーーーーーーー


【次回予告】


星思う故に我あり。終わりのその日まで戒めを紡ぎ続ける常夏の星で、旅人は何を思うのか?


次は、『沈没都市のメモリー』に停車致します。

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