第7話 涙のジューンプライド(後編)
前回までのあらすじ
嫁入り星に降り立った、サーバルとかばん。
その星でジェーンという人物に出会う。
彼女はこの星の法律で、結婚相手を
見つけなければいけないと言う。
結婚を拒む彼女は、かばんに偽装結婚を依頼する。
しかし、彼女の親は条件を突き付け、素直に結婚を
認めさせてくれない。
唯一の条件が、"愛を証明する"という事だった。
かばんは、愛を証明する為に奔走するのだった...。
ーーーーーーーーーーー
喫茶店。
かばんは大きな溜息を吐いた。
「すみません...、ウチの両親があんなとは...」
気を悪く思ったジェーンが詫びた。
「いえ...。一度落ち着いて作戦を練り直しましょう...」
遅れてサーバルも来た。
「ごめんねー。なんとか書類は貰ったよ。
けどここ、面倒くさいよねぇ...」
「サーバルさん、愛を証明するにはどうすればいいと思いますか?」
腕を組み、顔を顰めて見せる。
「愛のカタチは人それぞれだからねー...」
天を仰いだりして、何か名案を出そうとしている。
「でも、どうすればうちの両親が納得がいくか...」
「親に直接僕達が親密な関係である事をアピールする必要がありますね」
「...あっ、そうだ」
彼女の手を叩く音が静かな店内で余計目立った。
「親も一緒に何所か連れて行けばいいんじゃない?」
「というと...、保護者同伴デートということですか?」
ジェーンの問いにサーバルは頷いて見せた。
「そう。親孝行にもなるし、同時にあなたへの気遣いを見せれば、
一石二鳥だと思うの」
「それは名案ですね」
かばんも賛同してみせた。
「車を借りて私が運転するよ!それでいいよね」
結局、運転手付きのドライブに決まった。
善は急げと言わんばかりに、直ちに行動に移した。
「お父様、お母様。一緒にドライブに行きませんか?」
かばんはそう提案した。
「ドライブとな?」
コウテイが言う。
「そうです。娘さんと一緒にデートをと思いまして。
でも、せっかく結婚するなら、ご両親にもお世話になるので、
まあ、なんというか。親孝行みたいな...。僕達の愛の証明もして見せますから」
「うむ...、まあ良いだろう」
何とか納得してくれたようで良かった。
車で公園に行くことにした。
車内ではまあ、なんとか無難に雑談をこなしながら過ごした。
降りる時、サーバルは自信ありげに親指を立てていた。
僕には不安しかない。
レジャーシートを敷き、ジェーンと両親2人で見合いの時の様になる。
ドキドキしながらも、飲み物を交わしながら、彼女の話を聞いてあげたり
丁寧に振舞った。
そんな宴会が30分くらい続いた。
アルコールも振舞ったので、特にコウテイは機嫌がよさそうだ。
「ナイスですよ、かばんさん」と、小声で言われ、少し安心した。
そのため、油断してしまったかもしれない。
「あの、ちょっと失礼します」
「ん?おい」
お手洗いに行こうとしたところ、コウテイに呼び止められ、後ろを振り返った。
「キミ、そこは女子用だぞ」
「えっ...、あっ...」
「お前っ、まさか...!」
剣幕な雰囲気を醸し出し足早でこちらに来る。
酒に弱く、酔っているのか?
いや、あれは本気の目だ。
「あなた!ちょっとやめて!」
ロイヤルが止めに入る。
「うるさい!この詐欺師めっ!!」
「たえっ!?」
首元を掴まれた。
「か、かばんさん!!」
「お前ッ!!許さん!!警察を呼んでやる!!」
「サ、サーバルさん!!」
助けを求めようとしたが、サーバルは車の影で
申し訳ないという顔を見せていた。
(どうしてこんなことに...!?)
非常にまずいことになった。
「おうおう、イワトビ巡査だ。
結婚詐欺の現行犯とか聞いたことねえよ!どこのどいつだぁ?」
何時の間に通報したのか、随分とチャラい刑事だ。
まあ、法律も滅茶苦茶な星だ。逆にまともなのがおかしい。
「コイツ、女なのに男のフリをして私の娘を奪おうとしたんだぞ!」
怒鳴り付けるようにコウテイが訴えた。
「何だぁ?わかんねーけど、犯罪者なんだな。
まあ、何かの法に引っ掛かるか。現行犯逮捕だ!」
「ええーっ!?」
「署まで来い!」
僕は無理矢理パトカーに連れ込まれる。
「ちょっ!!そんなっ!!」
ジェーンも想定外の出来事に焦った表情を見せる。
「サーバルさんっ!!ジェーンさん!!助けてください!!」
「黙っとれ!」
バンッ、と勢い良く扉を閉め、
そのままサイレンを鳴らし走り去ってしまった。
「...ジェーンちゃん!私ちょっと、行かなくちゃ!ご両親をお願い!」
「あ、えっ、はい!?」
イワトビ巡査は全く僕の話を聞き入れず、
勝手に書類を作り冷たい鉄格子の中に放りこまれた。
後、数時間でSSEも発車してしまう。
悠長にはしていられない。しかし...、連絡手段も、
持ち物も警察に取られてしまった。
肝心のサーバルはどこかに行ってしまうし...。
「誰か助けて...」
そう思った瞬間、掛けてくる足音が聞こえた。
「かばんちゃん!!」
「サ、サーバルさん!?」
「早くこんな所から出よう!」
「い、一体何が?」
「ちょっとアドバイスって言うか...、まあ色々!」
彼女は牢屋の扉を開けると僕の手を取った。
そして、外へと駆けて行った。
警察署の前に止めてある車に乗り込むと、サーバルは端末を僕に
手渡してきた。ネット配信の映像が流れている。
「こ、これ...!!」
僕はその映像を見て驚いた。
『この星の憲法を改正します!!今日からは自由の星です!
好きな人が!好きな人と、付き合えばいい!お役所はあなた達の幸せを祝福します!!』
どうやらこの星の国会での様子だ。
「この星のマーゲイ大統領が方針を大きく変えたんだ。
だからもうかばんちゃんは罪に問われることは無いよ!」
「えっ...。もしかして、サーバルさんが?」
「.....この星も随分と古い仕来りに縛られてきたからね。
新しい時代を迎えたんだよ。この星の未来は明るいと思うな!」
サーバルはそう言った。
ただ、自分がやったとは明言していない。
そもそも、彼女に星の方針を360度転換させる力があるのかと
疑問符が付くが...。彼女がやってもおかしくはない。
映像をみながら、そう推測したが、答えは導き出せなかった。
駅に着くと、ジェーンが立っていた。
「本当にお2人にはご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
深々と頭を下げた。
「ううん、全然平気だよ。
私、あなたの思ってる“愛のあるべき姿”がカッコいいなって思っただけだから!」
「そうですか...」
少し照れくさそうに彼女は笑った。
「かばんさん。色々とすみませんでした。これ、受け取ってください...」
懐から出したのは、音楽プレイヤーだった。
「これは...」
「私、実は、恥ずかしくて言えなかったんですけど、
小さいころから歌うのが好きで。自分で歌詞を作って歌った曲です。
何時の日かこの宇宙で有名なアイドル、歌手になりたいなって」
「ありがとう。その夢応援してますよ」
「こちらこそ、ありがとう...」
三度ジェーンは頭を下げた。
「この星は変わっていく。未来を担う子たちが自由でないと。
もう結婚相手を探さずに済むね!」
「...はい」
「...ジェーンさん」
彼女は薄っすらと涙を滲ませていた。
「でも、正直に言うと、かばんさんみたいな素敵な人と
会えなくなるのは少し寂しいです」
「....また、地球に帰る時にこの星に寄りますよ!
だから、それまで、夢を頑張って叶えてください」
彼女の肩を叩きながら言った。
「運命の人と、会えますかね...?」
冗談っぽく尋ねられた質問に僕は、
「絶対に会えますよ!」
そう自信を持って、答えた。
SSEの真っ青な車体に水滴が沢山つく。
弱い雨に打たれながら、ゆっくりと発車して行った。
雨の様子がまるで、あの時見せたジェーンの涙の様だった。
やっと規則から解放され自由になれた感動の涙。
サーバルが窓を開けると、顔を出し、
「虹だよ!」と、子供の様に言った。
一時はどうなるかと思ったが、なんやかんやで丸く収まった。
しかし、サーバルは。
彼女は、一体、この星で何をしたのか。
余計な詮索はやめよう。
僕はジェーンからもらった音楽プレイヤーにイヤホンを刺し再生した。
(また、会える日が来るといいな...)
虹の向こうに消えるSSEを見送り、帰る時だった。
「...あっ」
何者かとぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
「ごめん、大丈夫?」
名刺が一枚落ちた。
「...あの」
「あ、わたし、フルル。
まだ、駆け出しだけど歌手なんだー」
「ごめんね。ちょっと騒ぎを大きくさせたら、色々めんどくさいし、
旅行に響かせたくなかったから。本当に悪いね。うん、でも必ず。
約束は守るから。はい、じゃあね」
ピッ
・・・・・・
「あなたがマーゲイ大統領?」
「な、なんですかあなた!?勝手に大統領府に入ってきて!
どこの誰ですか!?警備員は!?」
「これ見て」
「....えっ」
「今すぐ、憲法を変えて。
SSE発車1時間前までに議会を開いて改憲しなさい」
「は、はい!!!!今すぐに!!!」
・・・・・・・
「あれが正解だったか、わからないけど。
まあ、結果オーライだね!はぁ、お腹空いたなぁー」
独り言を呟くと、食堂車の方に向かって、最後尾の車両を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
【次回予告】
青い空の向こうに何があるのか。
青い空の果ての宇宙の終着駅には何があるのか。
巨大な天空都市、スカイシティに渦巻く物とは一体!?
次は、『プリンスオブブルースカイ』に停車致します。
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