GG06『嫁入り星』
第6話 涙のジューンプライド(前編)
サーバルは呑気に寝ている。
僕は、暇だった。
トキさんとお喋りしてもいいし、読書をしてもいいけど、
特にそれをする気になれなかった。
真っ暗な宇宙、車窓もつまらない。
コンコンという音の後にドアが開いた。
車掌さんだとわかったが、一体車掌さんはどこでこの扉を叩いているのだろうか。
「失礼スルヨ。次ノ、停車駅ハ、
停車時間ハ、66時間6分6秒。折リ畳ミ傘ヲ持ッテ行クノヲ、オススメシマス...」
変な名前の星だ。
車掌さんはそれだけ告げて、ドアを閉めた。
SSEは嫁入り星の大気圏内に入り、景色が見えてくる。
晴れているのに、窓に水滴がつき始めた。
サーバルは大きな欠伸と伸びをし目を覚ました。
「ふぁぁー・・・、よく寝た・・・」
彼女も車窓を見る。
「あっ、もう嫁入り星なんだね」
「変な天気ですね...。晴れてるのに雨だなんて...」
「天気雨だね。別名、狐の嫁入りっていうんだよ。
この星はそれが発生しやすいから、そう呼ばれてるんだって」
「へぇ・・・」
降り立つと、微かに雨が降っている。
コンクリートのプラットホームは湿っており、水溜りが出来てる。
晴れてるのに雨が降る。スッキリしない星だ。
石造りの駅舎が出迎える。
景色は60年代を思わせる建物が立ち並んでいる。
レトロチックだ。
「かばんちゃん、とりあえず宿に行こう」
「あ、うん」
歩き始めた時だった。
「...ねえ!あなた!」
いきなり後ろから声を掛けられた。
「は、はい?僕ですか?」
「あの...、私の旦那さんになっていただけませんか!」
「えっ...?ええっ!?」
「か、かばんちゃん?」
近くの喫茶店に入り、事情を聞いた。
「ご、ごめんなさい...。突然...。
少し焦ってしまってて...。私、ジェーンって言います」
「僕はかばんです」
「サーバルだよ!それで、何で焦ってたの?」
「えっと...、まず、その理由っていうのが、
後3日以内に結婚しなくちゃいけなんです...」
気恥ずかしそうにそう答えた。
「ど、どういうことですか?」
だが、イマイチわからない。
「この星の風習...というか、法律で、
一定の年齢に達した女子は必ず結婚しなきゃいけないっていうのがあるんです...。
私も丁度それに引っかかってしまって」
それからさらに詳しく説明した。
嫁に行かなければならないらしく、婿を探していたという事。
だけど、この法律に性別の決まりはないらしく、
彼女の両親は同性同士で結婚したという。
彼女は親族から養子に出されたそうだ。
だが、この次が問題だった。
同性同士で結婚した場合、その子に当たる者は、
必ず異性と結婚しなければならないという事が法律で決まっているのだ。
「その結婚までに期日が決まっていて、もし結婚しなかったら...」
「しなかったら...?」
「住民の中から抽選で選ばれた人と結婚しなきゃいけないんです」
「そんなの別れれば?」
サーバルが軽々しく言った。
「ダメなんですよ...。最低3年間は一緒に過ごさなきゃいけないし、
そもそも、この星に離婚っていう制度が無いんですから...。
そのせいで、相手の人を殺しちゃって、逮捕されるって事件も後を絶えないんです」
ハァー、と重い溜息を吐く。無理もない。
だが一つ理解できない事がある。
「後、何で僕に...」
「私、本当に好きって思える人と結婚したいんです。
だから、抽選だけはどうしても避けたくって...。
その、とりあえず呼びかけて振り返った人を...」
「でも、かばんちゃんは女の子だよ?」
「えっ...?本当ですか...?」
申し訳なさげに小さく肯く。
サーバルの一言で場が凍てついた。
「ご、ごめんなさいっ...!!失礼お許しください...!」
急に赤面になり謝罪した。
「いや...、別にそんな謝らなくたって...。
随分と焦ってたし、恋愛観とかよく分かりませんけど、
何となく、お気持ちはわかります。
僕でよければジェーンさんの力になりますよ」
「だけど結婚は出来ないんじゃ...」
落ち着かせる為か、喉が渇いたのか、
ジェーンは水を飲んでから話した。
「いえ、この星の法律には抜け道があるんです」
「抜け道ですか...?」
「別々の所に住むことは出来るんです」
「あっ、そうか。
かばんちゃんと結婚してもSSEでこの星を出て行っちゃうし!」
ポンとサーバルが手を叩く。
「キッチリしているようで、キッチリしていないのが、この星の法律なんです」
といって、テーブルに本を置いた。
「この星の法律が書かれた本です。一応ご覧になられた方がいいかも...。
かばんさん...、旅行の途中にすみません。
改めて、私の偽装結婚に協力してくれませんか?」
ここまで話を聞いて、力になりたいと言った上で、出来ませんとは言えない。
"はい"と、肯き作戦を始めた。
「まずは私の両親に挨拶しないと...」という事で、
彼女の家に行くことにした。
サーバル曰く、"かばんちゃんはそのままで男の子っぽいから平気平気"だと。
あまり言われて喜ばしくはない。
が、文句は言えない。役を演じ切らなければ。
「ただいま戻りました」
「おい、後期日まで残り少ないのにどこをほっつき歩いていた!
結婚したくないはここでは通用しな...」
「どうも...、初めまして」
「あ、あの、この人と結婚することにします」
目を見開き、驚いた様子だった。
「おおおおおっ!!是非上がってくれたまえ!
客間に案内して差し上げなさい!」
物凄い喜び様だ。
ジェーンに導かれ、和室で待つ。
彼女の親が真向かいに座った。緊張する。
5分程で、2人が現れる。話通りだ...。
「紹介します...。
両親の、コウテイとロイヤルです」
左、右と、小さく腕を動かした。
「はじめまして、えっと...、かばんっていいます」
「出身は?」
ロイヤルが尋ねる。
「ぼ、僕はSSEの乗客で地球から来ました...」
「まあ...」
質問してきた彼女が驚いた顔を見せる。
「SSE?もしかして君は終着駅に行くのかい?」
「一応、そのつもりです...」
2人は顔を見合わせた。
「ゴホンッ...、ジェーン、ちょっと来なさい」
「すみません。少しお待ちいただけますか」
ジェーンは一度こちらを見て、不安そうな顔を浮かべていた。
どこかで家族会議でも行うのだろうか?
僕は和室でひとりになった。
(こんなこと...、上手く行くのかな...?)
不安と緊張で、一刻も早くこの星を出たかった。
一方、サーバルは、役場にいた。
「結婚する為の書類が欲しいの!」
カウンターから身を乗り出し、声を上げる。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください...。
婚姻届は結婚されるご夫婦がいないとこちらもお渡し出来ない
決まりになっておりまして...」
「受取代理人証明書があれば、発行してもらえるんでしょ!?」
「そ、そうですけど、あなたの戸籍のある惑星が見当たらない...」
「消滅したんだから無いに決まってるでしょ...?」
鋭く係員を睨んだ。酷く恐縮した様子で、
「す、すみませんでした。これは失礼...。す、すぐにお渡しします!」
「全く...、書類やら確認やら多くて面倒なんだから...」
と、愚痴をこぼした。
15分程だろうか。
3人が戻って来た。全員神妙な面持ちだ。
「かばん君...、非常に申し訳ないが...。
この星でジェーンと一緒に暮らしてくれないか」
「え、ええっ!?」
思わぬ提案で驚く。すぐ様、片手を振った。
「い、いや、そ、それは、さ、流石に...」
「ほら、だから言ったじゃない。酷く困ってる...」
ロイヤルが言った。
「あなたが旅をするのなら、ジェーンも同行させたいけど...。
宇宙の旅は危険すぎるわ」
かなり過保護だ...。
「仕方ないか。なら、かばん君。
出来ればジェーンと子供を...」
「!?」
「い、いや、それは少し厳しいかもしれない...」
愕然とする僕の代わりにジェーンが口を開いた。
「だ、だって...、後数十時間でSSEが発車しちゃうし...。
こ、この際遠距離じゃ、ダメ?」
「さっきも言っただろう。
ダメだ。かばん君がこの星に残ってくれなければ、結婚は私も認められん。
孫を作るなら、なんとか妥協してやろうと思ったが...」
「うぅ...」
とんでもない状況になった。
結婚を認めてもらわないと、話が進まない。
(どうしよう...、サーバルさん...)
「後33時間かぁ...。書類は貰ったけど...
大丈夫かなかばんちゃん...」
「お、お願いします!!む、娘さんを僕にください!」
最後の切り札、懇願作戦に出た。
"お願いします"と頭を下げ続けた。
「・・・、なら、一つだけ条件を与えよう。
それを満たせば、娘との結婚を認めてやろう」
「条件・・・?」
「どれだけ愛し合っているか...。
2人がとても愛し合ってるようなら結婚を認めよう」
コウテイはそう条件を提示した。
「わかりました!僕達の愛の大きさを証明してみせます!」
僕はそう公言した。
この星から脱出するには、愛を証明するしかない。
隣のジェーンは、愕然としていた。
果たして、かばんは"愛の大きさを証明"して、
偽装結婚を成功させることが出来るのだろうか?
後編へ続く!!
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