GG05『桜の都』

第5話 桜の都の物語

『次ハ、"さくらみやこ"。停車時間ハ、3時間9秒...』


車掌さんがそう言って、去って行った。


「・・・かばんちゃん、正直に教えてほしんだ」


「な、なに?」


彼女は珍しく、じっと見つめてくる。真剣な眼差しで。


「"銃"持ってるよね。見せてよ」


「え...」


「・・・嘘つかないで。

私だって銃持ってるし、何も訓練しないと怪我しちゃうよ」


確かに、明日からの星で貰ったことは貰った。

しかし、彼女も持っていたとは・・・。


「かばんちゃんを殺したりしないから!ね?」


彼女の声はつとめて明るかったが、どこか威圧的なおものを感じた。

僕は心のどこかで、それに屈してしまった。


ケースを取り出し、丁重に蓋を開けた。


カバから貰った"ギャラクシードラグーン"


「これ・・・」


「ギャラクシードラグーンじゃん...」


彼女の声はなにか悍ましい怪物でも見た様に、恐れをなしたような声だった。


「え、知ってるんですか?」


軽く息を吐き、落ち着いて話し始めた。


「この宇宙には3人の銃の名工が居てね...。

その3人が作った銃の中でも最高傑作が三種の神器とかって呼ばれてるんだ」


「じゃあ、僕の銃は・・・」


「ギャラクシードラグーンは、

"キッタ"っていう人が作ったんだ。彼の別名は"金属の魔術師(メタリックマジシャン)"

3人の中ではかなり若く、近代に生まれたんだけど、

その技量は決して侮る物じゃなくてね。とにかく名品だよ。

こんなものよく手に入れたね」


そんなすごいものをタダで手に入れたのかと、僕も説明を聞いて改めて驚いた。


「私の奴も見せてあげるよ」


彼女は荷物の中からケースを取り出した。

黒く、光沢のある銃だ。


「"コスモライフル"って言うんだ。

"キーラム"が作ったこの銃は、旧式銃なんだけど

その殺傷能力は抜群で、SSEの車両の中で撃とうものなら、

2両は貫いて破壊できるよ」


そんな怖いことを言う。

あの銃にそんな威力があるとは...。

自然に息を飲んだ。


「銃って、携帯した方がいいですか?」


「一応は・・・ね。けど、今まで比較的平和な星がほとんどだったから、

私も持ち歩いては無かったけど」


「次は桜の都って言ってましたよね」


「あそこは本当に平和な星だよ。武器なんてそんな物、

持ち込む方が無礼に当たるよ」


いつもの笑顔で手を縦に振った。


「ちょっと、水飲んでくるね」


引き戸を開け、外に出て行った。







「ギャラクシードラグーンをまさか彼女が持っているとはね...

あの銃を持っていたのは宇宙革命運動のリーダー、カバだった。

明日からの星で接触したんだと思う・・・。

まずいってことはないよ。まだ知らないもん...。

あと、スカイシティの国防軍が持っているっていう

"クロスファイアベガ"だけど、盗難されたらしいね。一体どこの誰が盗んだんだが・・・。

反旗を翻されたら、勝てるワケないけど...。

多分、そういうことはないと思うよ...。堪だけどね。

じゃあ、そういうことで...」


ピッ


引き戸を引き、食堂車に入った。


「トキ、お水貰える?」


「ああ・・・」


「そう言えば、トキってスカイシティ出身でしょ?軍事機密が持ち出されたとかで。

あそこは軍事政権だから、大パニックだよね、きっと」


「ええ...、そうみたいね」


関心無さそうな言い方だった。


「休暇は何処で取るの?」


SSEの乗務員は好きな駅で休暇を取得する事が出来るのだ。

それを唐突に尋ねた。


「・・・まだ考えてないわ」


「そうなんだ」


聞いてきた癖に、素っ気ない返答であった。


「桜の都はいい星だよね」


「確かに良い所だわ・・・。けど・・・。

美しすぎるが故に、目の敵にされているかも」


「嫉妬か何か?」


「世の中には美を好まない者もいるわ...。

あなたなら、何を言っているのかわかるでしょう」


「・・・フフッ」


コップの水を一杯口に含んだ。







SSEは桜の都に到着した。


ホームはピンク色の花弁で覆われていた。


「綺麗ですね」


実直な感想を述べる。駅舎も木造建築のレトロ調だ。


「星全体に桜の木が自生してるんだよ。

気候もずっと春だから、枯れることはない。

環境保全もしっかりしているから、停車時間が3時間しかないんだ」


「地球時間の3時間?」


「そう!だから、乗り遅れないようにしないとね!」




2人は、整備された散策道を歩き赤い傘の目立つ茶屋で、休むことにした。



「SSEのお客さんっすね!どうぞ!」


ハツラツとした様子の和服を着た店員がお茶と三色団子を持ってきた。


「あれ...、まだ何も...」


「サービスっすよ。SSEのお客さんの為の。

いつも、この桜を綺麗って言ってくれるんで、そのお礼っす」


サーバルが美味そうに団子を頬張るのを横目に話を続けた。


「この桜、結構植えてありますけど元々この星に?」


「いえ、元々は不毛の土地だったんっすよ。

自分たちの祖先がこの星にやって来た時、

故郷の桜を植えたら、土が良かったみたいで。

それから代々、植え続けて自分とプレーリーさんで守り抜いてきたんっすよ」


話を聞いていたその時だった。


「ビーバー殿!ここら辺の整備が終わったであります!」


「あ!お疲れさまっす!お茶入れますね!」



凄く信頼しあっているという印象を強く受けた。

のんびりとした空気、そして、綺麗な桜。

随分と充実していていいなと、思った。


「後1時間かぁ~、あっという間だね」


サーバルが言ったことが、俄かに信じられなかった。









「SSE乗務員に告ぐ!

桜の都成層圏内に所属不明の無人宇宙戦闘機5機を確認」


「GE510、ソレハ、危害ヲ加エル恐レガアルカイ?」


「真意はわからないが、怪しいのは間違いない」


「彼の言う通りだわ。核も無い桜だけの公園みたいな星に、

戦闘機だなんて。どこの輩が飛ばして来たか知らないけど」


「最近暗黒星団と名乗るテロ組織がシンフォニアの先で暴れまわっているらしい。

その類かもしれない」


トキがハァ、と重い溜息を吐いた。


「交響惑星シンフォニアはスカイシティを上回る軍強都市...。

あそこが、1部隊を派遣すれば惑星一つは消滅するというのに。

その近くで暴れまわるというのは、大胆不敵よね」


「真意ハ、ワカラナイケド、モシ、テロ集団ダトシタラ、

コノ星ヲ狙ウ理由ハ...」


「"嫉妬"かもね...」


「...トモカク、管理局ハ、何ト言ッテイル?」


「『状況に応じ、臨機応変に対応しろ』と...」







「お世話になりました」


かばんが頭を下げた。


「また桜を見に来てください」


「お待ちしてるであります!」


そろそろ戻ろうと思い、立ち上がった時だった。

サーバルがふいに空を見上げた。


「あれ...?あれは...」


「...ん?」


かばんも見上げると上空に何機かの飛行機が見える。

刹那、何か物体を投下し、爆発音が響いた。



「うわっ...!?」


思わぬ衝撃に怯む。


「なにが起きたんすか!?」


「あ、あの黒煙はまさか...!」



「急いで列車に戻ろう!あなた達も来て!」



状況が分からず、列車に戻った。

慌ただしく、列車が発車した。


「オ客様、一時コノ駅カラ、列車ヲ退避サセマス!」


ラッキーさんが焦燥としている。

一体どういう事なのだろうか。


サーバルが機関車に行けば何かわかると言ったので、

先頭に急行した。


その場にはトキもいた。


「GE510、どういうことなの?」


サーバルが尋ねる。


「先程、銀河鉄道管理局本部から緊急通告があった。

無人機は惑星ネオ政府所持していたものだと判明した」


「ネオ...?」


かばんが呟く。


「テクノロジー惑星ネオ...、その昔は高い技術力でその名を全宇宙に響かせた星。

だけど、数年前に惑星全体のエネルギーを供給していた原子力発電所が事故を起こして、

星全体が高い放射能で汚染された。それで生物は星を捨て散らばって行った...。

この銀河鉄道もネオを通っていたけど、そのせいでルートが変更されたの」


トキはそう説明した。


「そんな死んだような星の無人機がここに飛んでくるってことは、

ネオを何者かが占拠している?」


サーバルが憶測を口にする。


「恐らくは、宇宙テロ組織『暗黒星団』」


「ちょっと待つであります!

仮にそうだとしてどうして、この星がっ!」


「理由まではわからないけど、

この星が彼らにとって、気に食わなかったんでしょう」


トキが言った。


「こんな綺麗な所が嫌いだなんて...」


世の中にはそう考える人もいる事に衝撃を受けた。

そう考えてみれば、僕は箱の中に閉じ込められていたのかもしれない。


「それより星は...」


ビーバーが窓から覗くと、そこには美しいピンク色の地面ではなく、

煤の匂いと灰だらけの土地が広がっていた。


「そんな...!火を止める事は出来ないんですか?」


「あそこは自然の姿をそのまま残す為に機械が無いんっすよ...。

こんなことになるなんて...」


「この星は月とほぼ同じ面積...。

燃やされた範囲が広すぎて完全に消火することが出来ないよ」


サーバルが外を見ながら言った。


「...SSE乗務員に告ぐ。銀河鉄道管理局から、指示。

『桜の都鎮火まで停車時間を延長せよ』とのこと。

また、『消火部隊を要請した』とのこと...」




・・・退避開始してからおよそ4時間後。

桜の都を包み込んでいた炎は弱まり、SSEは再び駅に戻った。


駅舎も焼け落ちており、少し焦げたにおいがする。

色鮮やかだった星は、灰色一色になっていた。


2人が言葉を失うのも無理はない。

ずっと積み重ねて来たものが、一瞬にして崩れ去ったのだから。


きっと、酷く落ち込んで...。


「仕方ないっすね...」


「一からやり直すでありますか...」


「えっ?」


予期せぬ台詞に思わず声を出してしまった。

悲しむ所か、平気そうな顔をこちらに向けた。


「悔しいですよ。それは。

ですけど、ここで悲しんだら、奴らの思い通りっすよ」


「それに、まだ樹は死んでいないっす...。

ちょっと来て見てください」


プレーリーに促されるがまま、ある一本の煤けた樹へ寄った。


「良く見てください、新しい蕾が咲いているでありますよ」


見上げてよく観察すると、枝の先に小さな膨らみがある。

燃えずに奇跡的に残ったのだろう。


「この地面の下には、桜がまだ咲き誇ってるっす」


「元に戻るのには時間が掛かるかもしれませんが...、

燃やされたって、風で倒されたって、この星がある限り、

この星の桜は、永遠に不滅でありますよ!」


彼女らの言う事は、とても希望に満ち溢れていた。


「...かばんさんって言ったっすよね」


「あ、はい」


すると、桜の花弁がラミネートされたしおりを懐から差し出した。


「プリズムに願うとか、そういうのは要らないっすから。

お土産として貰って行ってください!」


「またSSEで戻って来る時には、満開の桜をお見せするであります!」


「...ありがとうございます!」






結局、SSEは5時間の遅れで、桜の都を出発した。


「凄い...、驚きました。

あそこまで前向きな気持ちを持てるなんて。

ものすごく、長く時間を掛けてきたものがたった数時間で消えちゃったのに...」


「花っていうのは、何時かは、散る。

そして、また再び花を咲かす。そして、また散って行く。

その繰り返し。あの星もまた、花を咲かす...」


サーバルが容姿に似合わない事を言った。

やはり、不思議な存在だ。


「...にしても、許せませんよ。

テロ組織とか何かは知りませんけど...」


「かばんちゃん」


「...はい?」


「ギャラクシードラグーンを扱える様にならないとね!」


今度は、容姿に似合う、無邪気な笑いを見せた。

...よくわからない。




今回のことで、一つ胸に誓った。

僕も、あの2人の様に、強い心を持つようにしようと。


またあの満開の桜が見られるように...、僕は、終着駅へ向かう。





"ヒィ―――ッ!"


遅れたSSEは何時もよりモーターを唸らせ、足早に宇宙空間を駆けて行くのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


【次回予告】


晴れた空に雨が降るこの奇妙な星で、

習わしに縛られ、自由を求める者。

大空を飛ぶ鳥の様に、羽ばたくことが出来るのか?

そして、本当の愛とは何なのか!?


次は、『涙のジューンプライド』に停車致します。

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