GG04『惑星雪月(プラネット・スノームーン)』
第4話 儚き雪国
このSSEには本棚が6号車にある。
そこで本を読んでいると車掌さんが来た。
「次ノ停車駅ハ、“
停車時間ハ30時間20分10秒...」
「
「
「そうなんですか。
じゃあ、暖かくしていかないとですね」
『SSE乗務員、応答セヨ。
コチラ銀河鉄道管理局!』
唐突に声が聞こえた。
「ゴメンネ、失礼スルヨ」
車掌さんは前の車両へと向かって行った。
(忙しそうだな...、車掌さん)
無線を受け、SSEの機関車GE510の中へ来た。トキもいる。
「惑星雪月の政府がまた核実験を強行した」
GE510のコンピュータが話した。
「まだやってるのね…、あの星」
トキは呆れた声で言った。
「タビ重ナル核実験ノセイデ、元々弱イ地盤ガ破壊サレテ大キナ穴ガアイタ」
「実験の衝撃でマントルまで破壊されたら惑星が消滅するじゃない。管理局は警告を送ったの?」
「もちろん。だが政府は、
『それは考えている。安全に問題は無い』と、その一点張りだった」
「GE510、SSEノ停車時間繰リ上ゲ、
及ビ、惑星雪月ノ住民救済ヲ行イマスカ?」
「時間繰り上げはダイヤを乱す恐れがある。それに、停車時間中に惑星が爆発することは無いかもしれない。一応、乗客に
惑星消滅の恐れがある事を伝えろ。
住民についてはこちら側も呼びかけるが、政府が伝達しないようにするかもしれない」
「了解...」
(あの子たち...、大丈夫かしら...)
「サーバル様」
車掌はサーバルに先程の事を伝えた。
「わかった。ありがとう!かばんちゃんには私が伝えておくから。車掌さん、気を付けるよ」
頭を下げた。
厚い白い雲に覆われた惑星雪月。
その見た目から“銀河系の真珠”とも言われている。
一つの不安を抱きながらSSEは雪積もる
惑星雪月のホームへと滑り込んだ。
ホームは既に雪でまみれていた。
しんしんと雪も降る。
傘をさし、歩くとキュッと靴が鳴った。
サーバルもコートを着用している。
「かばんちゃん。
もしかしたら、少し早くSSEに戻った方が良いかもしれない」
「え?何でですか?」
サーバルは迷った。車掌さんに伝えるとは
言ったが、改めて思えば、星が消滅するかもしれないと言って、彼女は安心出来るだろうかと。
ここで話して、変に騒がれたらそれはそれで支障が出るかもしれない。
「...SSEがちょっと遅れ気味なんだって」
「そうですか」
(私が付いていれば、大丈夫だよね...)
「かばんちゃん、外は寒いから何か温かい物でも食べ行こ!」
「あっ、はい」
2人は雪積もる市街地へ向かった。
一面真っ白な町中は人通りも多い。
しかし、この行き交う人々の中に、この星の政府が危険な核実験を行っていることなど知る者は殆どいないだろう。
「あ、ラーメンなんかどう?」
サーバルは看板を指さした。
「いいですよ」
(ラーメン食べたことないな...)
1軒のラーメン屋に入ることにした。
年季の入ったドアをガラガラと開けた。
「いらっしゃいい...」
細目の茶色い髪をした亭主が出迎える。
カウンターの赤い椅子に座った。店内は自分達以外誰もいない。
「うち、ラーメンしかないけど、いいかい?」
2人は黙って頷いた。
亭主はお冷ではなくお湯を出された。
この星では寒すぎるあまり冷たいものとは、縁がないのだろう。
かばんもサーバルも、厚着を脱いだ。
「...お客さん旅行の人だよね」
「ええ」
かばんは短く答えた。
「やっぱりねぇ...。この星じゃ食材が
ほぼ全て他の星からの輸入だから、原価が高いんだよお。ここで外食する人は金持ちか、旅行者ぐらいだもん。
もうすぐ店じまいかなぁ...」
「やめちゃうんですか?」
「代々のカピバラ一族がやって来たけど...、子供は他の星へ行って後継者がおらんし、赤字続きだからねぇ...」
愚痴を言いつつ、料理を作っていると...
ガタガタガタ...と、突然古い扉が震え始めた。
「...ん?」
「みゃ...」
その揺れは、身体に伝わった。
「あー、焦んなくていいよぉ。じき収まるから」
亭主はいたって冷静だった。50秒程で揺れは収まった。
「今の地震?」
サーバルが聞いた。
「近頃多いんだよねぇ...。今のは4くらいかな?多すぎてもう慣れちゃったよ」
「え、こんなのが頻繁に?」
かばんは驚いた。
「1日1回はデカいの来るよ。
ホント、何でだろうねぇ。ラジオもテレビも何も教えてくれないんだ」
(これも核実験の影響なのかな)
「はい、おまたせ」
醤油ラーメンから湯気が立ち上っていた。
サーバルは割り箸を綺麗に割り、
「いただきまーす」
と、麺を啜り始めた。
僕も人生初のラーメンを口にした。
「アカギツネ大統領」
「オオミミ、核実験は成功した?」
「あっ、はい...、ですが、もうこれでおやめになっては?」
そう持ちかけるといきなり席から立ち上がった。
「やめる?バカじゃないの?
今この国は多額の負債を抱えてんのよ。
質の良い核兵器を他の星に売り付けて経済を立て直すの」
「しかし、地質学者もこのままでは惑星が消滅しかねないと言っておりますし、銀河鉄道から何回も警告が...」
「うるさいわねぇ...。
消滅するならしてもいいわ。借金チャラになるし」
「そ、それはいくらなんでも横暴すぎませんか...」
「トップでもないクセに偉そうにしてんじゃないよ。この雪月のリーダーは私よ。
それに従わないんなら、クビでも反逆罪で死刑でも...」
「わ、わかりました!もう何も申しません、大統領...」
深々とオオミミはアカギツネに頭を下げた。
雪の中を歩き、銀河鉄道指定のホテルへと向かった。外観は先程のラーメン屋同様古かった。しかしながら、趣を感じた。
「ようこそ...」
正座したまま頭を下げた。
「本日はSSEでお越しくださり、ありがとうございます。
当館の女将のギンギツネと申します。
お部屋へ案内させていただきますね」
2階の客室へと案内してくれた。
「雪しかない退屈な所ですが、ごゆっくりお過ごしください」
「かばんちゃん、後で温泉入りに行こ」
「あ、うん...」
「...どうしたの?」
「ちょっと下の階を見てきてもいいですかね?」
「うん?まあ、外に出ないなら...。
部屋にいるね」
「はい」
かばんは1人登ってきた階段を降りて玄関に戻った。
少し気になった物を見つけたのでじっくり
見たかったのだ。
花の飾られたテーブル。その上に、壁にはめ込まれる様に飾られている一枚の写真があった。
電灯が無く、薄暗く見にくかった写真を間近で確認したかったのだ。
色が抜け、綺麗とは言えない写真だ。
雪降る旅館の前に小さい狐の耳と尻尾を持った少女が3人座っている。
真ん中は見覚えがある。先程見た...
「お客さん...」
ふっと振り向くと、そこには先程出迎えてくれたギンギツネの姿があった。
「あっ...、ちょっと気になっちゃって」
「...」
一瞬目線を下に落としたが、再びかばんと同じ写真に目をやった。
「私の家族ですよ。この宿を立て替えた時に撮ったもので、真ん中が私です」
「三姉妹...、なんですか?」
「ええ...」
冷たい息を吐く様に呟いた。
「姉のアカギツネ、妹のキタキツネ...
あの頃は...、良かった」
「あの頃?」
思わず、聞き返してしまった。
「この宿の跡取り...、普通ならアカギツネが継ぐべきなのを、彼女が拒否して。
それで私と色々揉めたの。
それから、仲が拗れた...」
寂しそうにギンギツネは言った。
「色々...、あったんですね」
「まあ...」
「ところで、アカギツネさんは今...?」
「彼女は宿を継ぐより、
この不便な星を変える事を願ってた。
勉強に没頭して、今はこの星の大統領」
「えっ...、だ、大統領?」
「そう...。だけど...」
彼女は急に小声になり口を噤んだ。
「あ、ごめんなさい。
ちょっと急用を思い出して...」
今思いついた様な言い訳をしてギンギツネは去って行った。
(仲が拗れた姉妹...)
その写真ではとても仲良く写っている。
人生とは、何があるかわからない。
そう感じさせた。
電話のベルが鳴った。
「もしもし...」
『もしもし、久しぶりね。元気?』
「...アカギツネ!?」
ゴクリと唾を飲み込み、毅然とした態度で
受け答えした。
「宿を捨てたあなたが何の用よ...」
『まだ根に持ってんの?
まあいいわ。もうすぐこの星消えるかも』
「...はあ?それどういう意味よ...」
『近頃の地震、今核実験しててさ。
なんかもう地盤だかが崩壊寸前なんだって』
その口調は深刻そうでは無かった。
『一応、身内だから知らせただけよ。
私はSSEに乗って逃げるから』
「ふざけないでっ!!」
ギンギツネが鋭い声を出す。
「なに核実験って...。
宿を捨てた次は自分の星を捨てるの!?」
『さっきから宿宿って...
そんなにあそこが大事なの?』
「お母さんから代々引き継いできたもの!
唯一無二の思い出の詰まった場所なのよ!?」
『ふふっ、バカじゃないの』
嘲った笑いが電話口から聞こえた。
「...もういい」
ガチャッと電話を切った。
「あー寒い...!早くお風呂入ろっ...」
雪降る中露天風呂に入る。
「ふぅー...」
サーバルは心地良さそうな声を出した。
「...」
目線を左にやるとある人物がいた。
彼女は背を向け、ボーッと何かを考えている様だった。
「キタキツネさん?」
かばんがそう声をかけると
顔をゆっくりこちらへ向けた。
不思議そうな顔でこちらを見つめた。
「あ...、僕はかばんです。
写真で見て、ギンギツネさんに教えて貰って...」
ふと右に目を向けるとサーバルは目を閉じてる。寝ている?
30分くらいなら、大丈夫だとは思う。
「あっ...、お姉ちゃんか...」
ポツリと呟くと、湯に肩まで浸かった。
「今日は早く寝た方がいいよ…」
「えっ...」
その言葉に引っかかる物があった。
「サーバルさん」
肩を叩く。
「...みゃ?」
「部屋で寝たらどうですか...?」
「え?寝てないよ!目を閉じてただけだよ!」
変な所のプライドが高い。そう思った。
15分程度で風呂を出てから部屋に戻り、
2人は就寝した。寒いからか、布団は暖かく直ぐに夢の世界へと誘われた。
「お客さん!お客さん!」
その声で目を開けた。
声の主はギンギツネであった。
「急いでください。今連絡があって
SSEがあと90分で発車するそうです!」
「えっ...、90分?」
「かばんちゃん急いで!」
まだ夜も明けきっていないが、
サーバルは全ての荷物をまとめていた。
どこか慌てた様子だった。
「発車時間がもっと早まるかも...
行くよっ!」
僕は状況が何一つ理解できないまま下に降りた。
スノーモービルが玄関前に置かれており、
サーバルは慣れたように跨る。
かばんも急いで乗れと言われ、乗った。
「一体何が...」
「状況説明は後でするから!」
後ろを振り向くと、ギンギツネが
悲しそうな顔をして、
「また起こし下さい...」
と小声で呟いた。
スノーモービルが動き出し、大通りに出た直後である。ズシンと大きな音と共に、
揺れが始まった。動いているがそれは確かに揺れていると感じた。
「じ、地震!?」
「...っ」
駅に辿り着き、ホームへ駆け込む。
「早く乗って!」
トキが叫んでいた。
慌ただしく乗り込むと、直ぐにドアが閉まった。
「ハァ...ハァ...どうなってるの?」
かばんが服についた雪を払いながら言う。
「GE510、フルパワーデ、加速スルンダ!」
「銀河一の
SSEは慌ただしく、上空へと飛んだ。
数分も経たないうちに大気圏を抜けた。
最後尾の車両からかばんが惑星雪月を見つめる。
「こんな慌ただしく発車して...
一体何が...」
「それは...」
サーバルが説明しようとした直後、
ボカーン
その一瞬の出来事に目を疑った。
「雪月が...、砕けた...?」
「...惑星雪月は、地盤が弱いのにずっと同じ箇所で何回も核実験を行っていた。
あの地震はそれによるものだったんだ」
「それじゃあ、あそこの住民は...」
「銀河鉄道が警告を出したけど政府が情報統制して...」
「そんな...」
「何よっ!!」
急に大声が聞こえたので扉を開けた。
何者かが立ち上がって言い争いをしている。
「あっ!」
僕は彼女に見覚えがあった。
「アカ姉ちゃん...!
どうしてあの星の皆をっ...!」
「アイツらは向上心がない!
新しい物にまるっきり興味がない。
古い物を受け継ぐばかり。そんなんだから生産性が向上しなかったのよ!
私はアイツらに変わって核兵器を他星に売り付けて経済を立て直してたの!」
「その言い方だと星が壊れたのはみんなのせいみたいじゃん!」
「実際そうよ!私はあくまであの星を豊かにしようとしたまでで...」
「バカッ!!自分の責任を擦り付けてるだけだよっ!!絶対に許さないっ!!
ギン姉ちゃんは...、ギン姉ちゃんはボク達の思い出と一緒に...」
涙ぐんで訴えた。
「...」
「...!お客さん...!」
キタキツネはかばん達の存在に気がついた。
「キタキツネさん...」
不安そうな目で彼女を見つめた。
「アカ姉ちゃん...、これを見なよ...」
徐ろに服を捲りあげ腹部を見せた。
「...!!それはっ...!」
アカギツネの顔色が変わった。
「ああっ...!」
サーバルも驚いた声を出した。
かばんも息を呑む。
「アカ姉ちゃんだけを...、生き残らせる訳にはいかない...。アカ姉ちゃんは...
殺人鬼だよ...!!」
「ま、待って...」
怯えた声で説得しようとする。
「キタキツネ...、自爆するつもりだよ!」
「は、早まらないでくださいっ...!!」
「ごめんね、お客さん...
折角の旅行を台無しにしちゃって...
迷惑をかけたくないんだ...。
車掌さんに言ってこの車両だけを切り離すように頼んでくれないかな」
「バ、バカじゃないの!?
そんな事出来るわけない!」
サーバルとかばんは急いで隣の車両へ移動した。
「ど、どうするべきかな...」
かばんはサーバルの顔を見た。
だが彼女は苦しそうな顔を浮かべているだけだ。
「なにっ、何あったの?」
「トキさん!」
「今からこの車両でテロを起こすとでも言って切り離してっ!!後3分で爆発する!!」
彼女はもう一度ハッキリと言った。
意思は固いようだ。
「バカ言わないで!私は死なないっ!」
抵抗するアカギツネの両腕をキタキツネは押さえつけた。
「アカ姉ちゃん1人で生きてたって罪を償うわけじゃないでしょ!」
「今、切り離しの許可が得られたわ。
後30秒で自動解結するわ...」
「お客さん...!」
「僕はかばんですっ!」
尋ねられていないが、口から勝手に出た。
「...かばんさん、プリズムに着いたら、
宇宙で1番綺麗な星がプリズムだとしたら
2番目に綺麗な星は
“銀河系の真珠”と呼ばれた美しいボク達の故郷を!ただそれだけでいいっ!」
ガチャッと連結器が外れる音がした。
「キタキツネさん...!!」
「かばんさん...!元気でね...」
その車両はどんどん離れていった。
やるせない気持ちになり、僕の目から涙が
零れた。
タイマーは後1分半だった。
「こうして2人になるのも久しぶりだね…皮肉かな」
「...」
そう語るキタキツネ。アカギツネは黙り込んだままだ。もう生き残れない事を彼女自身悟ったからだ。
「...もう何も言うことないの」
「...私は悪くない...。
私は悪くない...、私は...、悪くない」
壊れた機械の様に同じフレーズを繰り返した。
「...そうだね」
ふと、アカギツネは顔を上げた。
「アカ姉ちゃんは、1人じゃないよ...」
キタキツネが彼女に抱きついた。
抱きつかれた彼女の目に、涙が浮かんだ。
大きな爆発音が切り離された車両から聞こえた。
その瞬間はサーバル達も終始を見ていた。
かばんはこの時、
宇宙というこの場所の厳しさを知った。
ーーーーーーーー
【次回予告】
桜の咲き誇る楽園、人々の心を癒すもの。
しかし、人のエゴによって破壊される物があることを忘れてはいけない。
次は『桜の都の物語』に停車致します。
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