GG03『明日からの星』

第3話 明日からの星

僕はどうして、この列車に乗ったのか。

サーバルに不思議なモノを感じホイホイ付いてきてしまった。

車窓を流れる星々は、僕を惑わせるだけだ。


「ハァー...」と、溜息がこぼれる。

僕みたいな訳の分からない人間がSSEに乗って良いのだろうか。


フェネックさんの様な...、明確な夢を持った人が乗った方が有意義ではないか。


そんな事を自分に問い続けていた。


「大丈夫?」


浮かない顔をしたかばんにトキは優しく語り掛けた。


「...えっと、まあ」


彼女は一度僕の顔を確かめる。


「...そうね」


一々尋ねる事を省略し直に口を開いた。


「SSEに乗るお客さんは、

大抵何かしら悩みを持ってる。

ずっと、乗ってるからわかるわ...」


「あの...」


「...ん?」


「トキさんは何でSSEで働いてるんですか?」


かばんは思い切って尋ねた。

ふと思った疑問を、そのまま口にした。


「...そうね。暫くすればわかる。

それより、私はあなたが気になるわ」


「僕ですか...?」


「あなたの悩み...

この宇宙で悩みは、時として命を奪う

かもしれない」


真剣な眼差しで僕を見た。


「失礼シマス。次ハ、明日あすからの星。

停車時間ハ、24時間...」


車掌さんがひょこひょこと、食堂車を通り抜けて行った。


「...かばんちゃん」


唐突に名前を呼ばれたのでハッとした。


「次の星、あなたの悩みが消えるかもしれないわね」


最後に、彼女は口元を緩めた。

それは期待なのか、それとも。








「かばんちゃん、

もうすぐ次の星に着くね」


彼女は変わりなく笑ってみせた。

その笑顔は厚く、その裏側は読めない。


ゆっくりと頷く事しか、僕は出来なかった。



明日からの星。

木造の建物が立ち並び、地面は未舗装。

まるで...


「せーぶげきみたいな所でしょ?」


西部劇と、言いたいのか。

名前は聞いたことあるが、実際は僕も知らない。


人が一人もおらず、不気味な雰囲気だった。


「発車は明日の7時だからね。

取りあえず、宿に行こうか」


彼女の方が旅には詳しい。はずだ。

僕は彼女の後について行った。


トキさんがこの星で悩みが消えるかもしれないと言っていた。

しかし、消えるどころか、

逆に、悩みがたわわに実りそうだった。


ホテルに着いても、僕は落ち着けなかった。

色んな事で自問自答をする。

どれが正解かもわからない。


ベッドから天井を見上げるが、

得体の知れない悩みが僕を小馬鹿にするように、嘲笑っている事しか、わからなかった。


「かばんちゃん、シャワー浴びたら?」


サーバルに言われた。

もう、そんな時間なのか。


「私、ちょっと用事があって出掛けてくるけど...」


「...うん」


用事?

こんな何も無い所で?


適当に返した後で疑問に思ったが、

既にサーバルは出掛けてしまい、確認する術を失ってしまった。


仕方なく、僕は全てを一時でも忘れようと、服を脱ぎ、シャワーを浴びた。









「うーん...」


眠から覚めた時、部屋の中は真っ暗だった。いつの間にか、日が暮れて、夜になっていた。


「サーバルさん...?」


呼びかけるが応答はない。

まだ、帰ってきていないのか。


窓を見ると、建物にちらほら明かりが灯っているが、外に出歩く人の姿はない。


「...」








人気なの無い夜の街に1人繰り出した。

しかし、サーバルはどこに行ったのか。

全くもって見当もつかない。


(どこ行ったんだろう...)


聞こえるのは微かな風の音と土を踏む音だけ。




(もう...、戻ろうかな...)


諦めて引き返そうと、後ろを向いた瞬間。


「えっ...?」


全く気付かなかった。

後ろに帽子を着用したロボットが

怪しく闇夜に緑色の目を光らせていた。


何か、嫌な予感がする。

その見立ては間違っていなかった。


「刑法第104条、夜間外出禁止条例違反デ、逮捕スル」


「えっ...、えぇ!?」


ロボット達は一斉に僕を捕らえに来たので、走って逃げた。

いや、もう逃げるしかない。


「たえないでくださいーっ...!!」


全速力で逃げる。が、ロボット達も速い。あの砂漠より走りやすいのが不幸中の幸いである。

道は真っ直ぐとしか続いていない。

まるで左右を壁で囲まれたようで、撒くに撒けない。

一体どうなっているんだこの星は、と

大声で叫びたかった。


相当走り続けたが彼らは追跡をやめない。


「ハァ...ハァッ...、誰か助け...」


刹那、後方で爆発音が聞こえた。

咄嗟に振り向く。


「...えっ」


青白い光線が追跡していたロボに命中し、爆発した。いつの間にか、ロボは一掃されていた。


「い、一体これは...」


「早く来なさいっ」


ローブを被った誰かにいきなり手を掴まれる。


「うぇっ!?」


「また追手が来るわよ」


落ち着いた声でそう忠告する。

僕はその誰かに引っ張られるままに、

ある建物へと連れ込まれた。


「あなた、この星の人じゃないのね」


「...」


僕を助けた人物がフードを取ると、

黒と赤の長い髪が顕になった。


「あ、ありがとうございます」


「礼はともかく...、日が暮れてからここを出歩くのはやめなさい」


口を酸っぱくして言われた。


「あの...」


「私はカバ。

長い間、この星に住んでる」


彼女は大きな溜息を吐くと、背中を向け、奥の部屋へと向かった。


「どうして僕は...、襲われたんですか?」


声を少し大きくして疑問を投げかけた。


「夜間外出禁止令に違反したから。

この星は日が沈んでから昇るまでは外に出ちゃいけないの」


「どうして...?」


カバはコップを2つ持ち、テーブルに置いた。


「とりあえず座りなさい」


そう言われたので、恐縮しながら座った。


「昔、この星は未開の地だったけど、

色んな星から人々が来て発展した。

けれども、ある1人の願いによって、

人々はやる気を失い、“明日からやろう”、と先延ばしにすることが多くなった。他のことは機械に任せ、自分達はお気楽に過ごす。

いつしか、“明日からの星”と呼ばれるようになった」


カバは一旦かばんの顔色を伺ってから、

話を続けた。


「この星を一日で作り変えたのが

今の大統領、シマシマ

彼女は、SSEに乗り込みプリズムへ向かった。そして、“時間に追われない星にして”と、願ったのよ。

そのせいで、この星は時間にルーズとなり、カレンダーと時計は全く見なくなった」


「そうなんですか…」


「ところで、あなた。

何処から来たの?何故、外を?」


「僕はSSEに乗って...

それで、同行者がどこかに行ったっきり、帰ってこなくて...」


カバは背中に針を無数に刺されたような

顔をし、かばんに詰め寄った。


「あなた、SSEの乗客!?」


「は、はい...」


「私の頼みを、聞いてくれないかしら?」


「何ですか?」


その内容は、とても衝撃的であった。


「惑星プリズムを破壊して欲しいの。

そして、この世界を元に戻してほしい」


「えっ...」


言葉を失い、絶句した。

彼女は立ち上がって、ある物を見せて来た。


「これはこの宇宙で3つしか無い銃の1つ...、“ギャラクシードラグーン”

あなたに託したいの...」


「そ、そんな事言われても...

僕はそんな...、

惑星を破壊するなんて...」


「ごめんなさい。

出来るものなら私の手で破壊したい。

けれど、それが出来ない...。

いや、破壊するかしないかはあなたに任せる。この銃はあなたに必要なものだと思うから...、あげるわ」


「銃なんて...」


僕は遠慮したが、彼女は執拗く、引き下がらなかった。


「この大宇宙では、自分の身は自分で守らなければいけないのよ…。

わかる?それと、あなたにもきっといつか...、“守りたいもの”が出来るはずだから」


「守りたいもの...」








翌朝


「あ、かばんちゃん...!

どこ行ってたの...?」


「ごめんなさい...」


サーバルはどうしようもないなという

顔を浮かべていた。


「サーバルさんを探していたら、親切な方にお会いして...。夜は出歩くなって言われたので、朝までその方のところに...」


「私もすぐ早く戻って来れば良かったけど...」


サーバルは目を逸らし、ポリポリとこめ髪の辺りを掻いた。


「親切な方がいて、本当に良かったです。サーバルさん、早く列車に戻りましょう...!」


僕は半ば無理矢理彼女の背中を押した。


朝7時、時間通りにSSEは発車して行った。


僕は最後尾の車両でハァーと重い息を吐いた。

あの銃を鞄から取り出し、見つめた。


カバに押し付けられたあと、連れ...

つまりサーバルの事を深く追求された。

仕方なく僕が話すと、


“念の為、疑心を持ちなさい”


と、助言をした。

更に彼女はこう、僕に言い残した。


“あなたの未来はあなたが決める事。

私はあなたの選択に従う。

でも、プリズムによって狂わされた星があるってことを忘れないで。

きっと明日から、あなたの何かが、大きく変わるはずよ”


と。


明日から、僕の何かが変わる。

いや、変わるのだろうか?


僕は...、僕は...。


未来は、自分が決めるんだ。


銃を携帯できる様に、しておこう。




ヒィーーー


長い機関車の警笛が宇宙に響いた。


ーーーーーーーーーー

【次回予告】

雪の奥に眠る物。それは悍ましい怪物。

人々は何も知らず、ただ、滅び行くのか

今、SSEが唸りを上げ、雪降る宙に舞い上がる。


次は、『儚き雪国』に停車致します。

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