GG02『デリシャスデザート』

第2話 葛藤の砂漠

ガタン...ガタン...


宇宙空間を往く列車に乗った僕は、

いつの間にか、2号車の自室で寝ていた。


色々、疲れた。


サーバルと出会った。彼女は、僕の記憶を探るとか言い出し、

何でも願いを叶えてくれると言う星プリズムへ向かう為の

銀河鉄道の切符をくれた。そしてSSEに乗り込んだ。



「かばんちゃん」


サーバルの声で、僕は起き上がった。


「こんな辺りが真っ暗じゃ、時差ボケしちゃうよね」


彼女はいつもと変わらぬ笑みを浮かべた。


「今は、標準時間で朝7時だよ。

最初の駅を出たのが、22時だから、もう9時間立ってるね」


もう9時間もたったんだと、溜め息が自然に出た。


「かばんちゃん、お腹空いたよね。食堂車に行こう!」


僕はサーバルと共に、食堂車に向かった。




オムレツとトースト。質素でありながら、美味しい食事だった。

僕達が食事をしていると、


「失礼スルヨ」


カタコトの日本語と共に、車掌さんが歩いて入って来た。


「マモナク、"デリシャスデザート"ニ、到着ダヨ。

停車時間ハ、7時間。暑イノデ、水分補給ヲ忘レズニ」


デリシャスデザート。

直訳すると"美味しいデザート"・・・?


僕がふと、そんな事を考えていると


「デリシャスデザートは、美味しい砂漠・・・

地中から石油とかの沢山資源が取れた事から名付けられたのよ」


トキさんが話してくれた。


「日中は40度近くなるから、体調を崩さないようにね」


彼女はガラスの器に盛られた、冷たいアイスクリームを卓上に置いた。


「...デザートのアイスクリームよ、フフッ」


僕は暑い砂漠デザートよりも、冷たいデザートが好きだ。






列車は、どんどん惑星に近付いた。

黄金色をした綺麗な星だ。そういえば、僕の星の色は、

一瞬見た限りだと、青かった。



デリシャスデザートの駅に付き、ホームに降り立つと

その豪華絢爛さに驚いた。


「す、すごい・・・」


駅構内の床、柱はす全て金ピカ。奥を見ると、噴水。

そして冷房だろうか。少し肌寒い。


「みんなここの人たちは石油をほかの星に輸出して、

大金を稼いだんだよ。海水の量より石油の量の方が多いって

言われてるからねー。昼間は暑いけど、夜はものすっごーく

寒いから、SSEも日中の間しか止まらないんだ」


サーバルも多少そう言った知識があるみたいだ。


「外は暑いから、殆ど室内で生活できるような街の作り

になってるんだ」


「へぇ・・・」


駅の外は彼女の言った通り、完全室内になっている。

窓の外はその名の通り、水平線の向こうまで砂しかない。






(あれは・・・、銀河鉄道の乗客・・・)





サーバルと僕は、ショッピングモールの中に入った。


「ここは銀河最大級って言われてるからね。

売ってない物は無いし、ここの店を全て見て回るだけでも

20時間位は掛かるよ」


「石油って・・・、凄いんですね・・・」


筒状の透明なエレベーターに乗った。

大勢の人が乗り込む。

外は暑いし、観光できるところといえばここくらいしかないのだろう・・・。



(・・・?)


僕はふと左に目をやる。その乗客は不思議だった。

観光客の様な見た目でもなければ、オシャレな金品も身に着けていない。


買い物客の様には見えなかった。


12階でエレベーターが止まる。


僕もその階で降りる。

隣の乗客もそこで降りる。


降りた所で、サーバルがこう声を掛けた。


「あっ、かばんちゃん。切符取られないように気を付けてね」


そう言われ、ポケットを確認する。


(あれ・・・)


ない。

入れていたのに入っていない。


「かばんちゃん・・・、その顔はもしかして・・・」


僕は黙って肯く。


「ホント!?あっ、でも私が名前書いておいてよかったね。

仮にそれで銀河鉄道に乗ったら銀河鉄道旅客法で切符の不正利用で

使った人は殺されるんだよ」


僕は思い出した。エレベーターで一緒に乗った、

あの乗客だ。


急いでエスカレーターの方を見る。

足早に長い長いエスカレーターを駆け下りている。


「サー、サーバルさん!ちょっと待っててください!

僕取り返してきます!!」


「えっ、ちょ・・・・」


(何かきっと訳があるはず・・・!殺されたら元も子もないっ!)






「はぁ・・・、はぁ・・・」


相手は体力が無いのか、少し足が遅くなった。

しかし、それは僕も同じだった。


いつの間にか外に出て、暑い砂の地面に足を取られ、

暑さも襲いかかり、体力を奪う。


結構な距離来た気がする。




「はぁ・・・、はぁ・・・」


暑さには慣れていない。


「はぁ・・・」








涼しい・・・?


僕はその冷たい感覚で薄目を開ける。



「・・・!大丈夫なのだ・・・?」


視界に飛び込んできたのは、灰色の髪をした少女だった。


「ここは・・・?」


「アライさんの家なのだ。フェネックを呼んでくるのだ」


そう言って、いったん外に出て行った。

その家は石造りで、贅沢と言った感じではない。

すると、クリーム色の髪をした、サーバルに似た感じの

耳を持った・・・、彼女がフェネックなのだろう。


「・・・あなたが、僕を運んでくれたんですよね」


「・・・そうだよ。

まさか、あんな灼熱の中を走って追いかけるなんて・・・、どうかしてる」


彼女の目は冷たかった。


「そこまでして、追いかけるなんて思ってなかった」


すると彼女は僕の枕元に切符をそっと置いた。


「・・・、どうして僕の切符を?」


彼女は一度、目線を逸らしてから、息を吐いた。


「アライさんの為だよ・・・」


「どう言うことですか...」


「見てわかるでしょ。貧しい暮らしから、逃げ出す為」


僕は息を飲んだ。


「デリシャスデザートは金持ちの星ってイメージが

他の所から来た人にはあるらしいけど、実際はそうじゃない。

金の力で私たちの様な存在を揉み消している」


貧富の差が激しいということだろう。

あの格好をしていたのにも納得がいく。


「失礼ですけど、どうやって生活しているんですか?」


「...お互いに親が居ないんだ。

あの子は元々体が丈夫じゃないから、私が代わりに働いてる」


「あの、どうして僕を?」


「だって、殺すつもりは無いし...」


「質問ばかりなんですけど、ここを出る為に、切符を盗ったのに返すのは・・・」


「アライさんのせいかな」


大きな溜め息を吐いた。


「やっぱり、彼女のことを思うと悪い手本は見せれないなって。

私の気が弱くて・・・、魔が差したんだ」


彼女の表情を見て、僕は何かをしてやれないかという気持ちになった。

彼女は完全な悪じゃない。

見た目も若いし、精神的にもまだ幼い所もあるのだろう。

それが引き起こした事だ。


「あの、何か欲しい物って、ありますか・・・?」


「欲しい物?」


驚いた顔をしてみせた。









「あっ、かばんちゃん!」


僕達はショッピングモールに戻った。

サーバルは金色に輝く噴水の前で待っていてくれた。


「ごめんなさい、いきなり飛び出てしまって・・・」


「あれ、その子達は・・・」


僕はサーバルに事情を話すと、彼女は快く了承してくれた。



フェネックの願いは、いつも我慢させているアライさんに

美味しい物を食べさせてやりたいという事だった。


「とても美味しいのだぁ!!」


ステーキを頬張る。

彼女の顔はとても喜ばしい様子だ。


「こんな、私たちの願いを叶えてくれてありがとうね」


フェネックが僕に呟いた。


「助けてくれたお礼ですよ」


照れ隠しに笑って見せた。






フェネックは最後に、

"いつか、この星を出てアライさんと幸せに暮らす"

と言っていた。


まだ僕と同じくらいなのに、具体的な夢を持っていた。






それに比べ僕は、まだふわふわしたままだ。

このままサーバルについて行って良いのかさえ・・・。


僕はこの先どうすればいいのだろうかと、

黄金色に輝く惑星を見ながら、そう問いかけた。



―――――――――――――――――


【次回予告】


“悩み”は時命取りとなる。それは大宇宙の掟と言われている。

しかし、悩みが無ければ幸せなのだろうか。

今それを、旅人に問いかける。


次は、『明日からの星』に停車致します。

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