銀河寝台特急SSE
みずかん
GG01『始まりの星(地球)』
第1話 始まりは突然に
僕には記憶が無い。
なぜ自分がここにいるのかさえも。
夜の都会を意味のなく歩く。
いや、意味はあるのかもしれない。
ドンッ
「ごめんなさいっ!」
「...っ」
それが、僕にとっての出会いでした。
「大丈夫?ゴメンね!わたしはサーバル!」
「あなた、名前は?」
出会っていきなり、名前を求められ困惑した。
だって、僕は...
彼女は笑って見せた。
その笑いはなんだろう。
「記憶がないの?」
僕は顔面に水を掛けられたような気分だった。
怖気付いて、言葉が出なかった。
彼女は僕の容姿を上から下へと見渡した。
「じゃあ、かばんちゃんで!」
無邪気に笑ってみせる。
彼女は僕に手を差し伸べた。
「ねえ」
「な、なんですか?」
「私と一緒に、かばんちゃんの記憶、
取り戻しにいかない?」
僕の記憶を取り戻す...?
困惑していると彼女は、ポケットからある物を取り出した。
「これは...」
「銀河鉄道の切符だよ!プリズムまでの!」
「あ、あの...、プリズムって?」
「...何でも願いを叶えてくれる星。
えへへ!」
そう言うと、腕時計を見た。
「発車まで後1時間30分...
どう、かばんちゃん。一緒に来る?」
僕は見ず知らずの獣の耳が生えた少女に
旅行に誘われた。
なにか、心の中で揺らぐものがあった。
なんだろう。この気持ちは。
この星にいても僕にとっての幸せは得られない。
僕の幸せ、僕の記憶、そのほか。
この不思議な少女に従って、プリズムに
行くのも...。
「...僕も一緒に行っていいですか」
彼女は黙って頷いた。
駅のホーム。
青色に金色の帯を巻いた列車が止まっている。俗に言う“ブルートレイン”
「これがSSE、SuperStarlightExpress
プリズムに行く寝台特急だよ!
見た目は古いけど、中はとってもハイテクだよ」
「サーバルさんは何で乗ろうと思ったんですか?」
彼女は足を止め、振り返り、笑った。
「内緒!」
一瞬、本当について来てよかったのか?
と不思議に思った。
機関車は、青色。側面には流星のマークが描かれており、SSEと斜体で書かれている。発車時刻に近づき、モーターを唸らせる
もう、僕はこの星へは戻れないかもしれない。A寝台の個室の窓から、
『はじまりの星』と書かれた駅名標を見つめた。
ここでやり残した事は無いだろうか。
ない。いや、ここに僕がいただけでどうなるとか、そういう問題じゃないだろう。きっと。
僕は宇宙から見れば、砂に混じった石。
意味無い。
けど、彼女は何なんだ?
瞳の奥に無限の銀河が広がってそうだ。
目を見続けると、引き摺りこまれそう。
そう言えば、彼女は何処にいるんだろう
ジリリリリリリリリリリ
発車ベルが鳴る。
「車掌さん!」
「サーバル、マタ行クノカイ」
「うん」
「彼女達ハ?」
「あの私は私じゃない。今の私も私だけど」
「...不思議ナ方ダ」
長いベルが鳴り終わり、ドアが閉まった。
ゆっくりと列車は動き始めた。
真っ暗な街の風景が通り過ぎてゆく。
個室の扉が開き、サーバルが入ってくる。
「もうすぐ、飛ぶよ!」
飛ぶ...
窓の外を眺めると街並みがどんどん遠ざかって行く。
僕が何処から来たのか。
何故生まれたのか。
上空から見下ろしてわかった。こんなちっぽけな場所でその答えを求めれるわけが無い。
サーバルは僕の向かいのベッドに座る。
何を考えてるかわからない顔をしていた。
「ゴ乗車、アリガトウゴザイマス。
切符ヲ拝見シマス」
サーバルが扉を開ける。
立っていたのは青色に制帽を着た、2つの耳...?青くふさふさした尻尾を持った小さなもの。
「車掌さんだよ。かばんちゃん、切符を出して」
彼女から貰った切符を僕は車掌さんに見せた。
「了解...、アリガトウゴザイマス。
良イ旅ヲ...」
そう言い残し、車掌さんは去った。
「かばんちゃん、車内を案内するよ
一緒に行こ!」
「はあ...」
彼女に連れられて車内探索をする事になった。
5号車
「ここは食堂車だよ」
オシャレな内装だ。行ったことはないけど、高いレストランというのは、こんな感じなのだろう。
「ようこそ」
落ち着いた声が聞こえた。
メイド服を着た彼女は白く美しい長い髪と赤色が特徴的だった。
「やあ、トキ!」
サーバルは気さくに挨拶をした。
彼女は遠慮しがちに、
「どうも」
と挨拶した。
2人が顔見知りなのはどうも、違和感だった。
「そちらはじめましてよね。
私はウェイターのトキ...。よろしくね」
「か、かばんです。よろしく...」
彼女は不思議なオーラを身にまとっている様に感じた。何だろう。
また言葉では形容し難い。
トキは何故か僕の顔を感慨深そうに見つめた。
「この列車お客さん少ないし、
私も暇だから...。気軽に来てね」
にこやかに微笑んだ。
この列車の乗客は何か“特別”な何かを持っている。そう感じた。
サーバルは僕を7号車に案内した。
ここだけ、ボックスシート。向かい合わせの席になっている。
車窓はすでに星が輝く宇宙空間になっている。
座った彼女に対して尋ねた。
「サーバルさん、この列車何回も乗ってるんですか?」
「まあね」
味気ない返事だ。
「どうして、僕だったんですか?」
「気まぐれかな」
背伸びをして、気楽そうにしている。
彼女は一体何者なんだろう。
プリズムに行けば、何かわかるのかな。
僕という存在の意味、サーバルの正体
一つ一つのピースをこの広い宇宙で見つけ当てはめていく。その先に、完成するモノは何か。
長い長い銀河の旅が、幕を開けた。
――――――――――――――――――
【次回予告】
時に人は、迷いを産む。時に人は、嫌気がさす。
心の中に真実を包み隠して。心の雲を取り除こうとする。
次は、『葛藤の砂漠』に停車致します。
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