第8話 アフタヌーンティーの起こり

「お嬢様。本日のアフタヌーンティーは、ジャクソンのアールグレイで御座います。フードは、キューカンバーのサンドイッチにスコーン、ビクトリアンサンドケーキに致しました」

 執事がうやうやしく紅茶を給仕する。彼女は紅茶を一口含み、頬を緩ませる。

「相変わらず、貴方の淹れる紅茶は美味しいわ」


 そんな状況を連想したかも知れません。ですが、それは実際とは少しズレた風景かも。そんな訳で、今回はアフタヌーンティーについてです。






 まずアフタヌーンティーを始めたのは誰かという所から。

 まずイギリスで喫茶文化がまだまだ貴族のものだった1840年頃、ベッドフォード公爵フランシス・ラッセル氏の奥様である『アンナ・マリア』夫人が始めたのが最初と言われています。


 当時の食習慣では、昼食を12~13時くらいに食べた後、19~21時は観劇・オペラ観賞などの社交の時間帯であり、夕食を食べるのが21時以降になっていました。昼食と夕食の間がかなり開いてしまい、お腹が空いてしまうのです。

 そこで15~17時くらいに、「ちょっと紅茶と間食を持ってきてちょうだい!」と言って、クッキーなどの軽食と紅茶をメイドさんに持って来させたのです。

 そしてその紅茶の時間を独りで過ごすのは勿体無いと思い、友人である御夫人方を集めて、紅茶を飲みつつお喋りをする時間としたのです。

 これが、アフタヌーンティーの始まりです。







 食習慣の影響もありますが、当時のレディのマナーの影響もあるかと。


 貴族階級の男性は、晩餐の時間が終わったら、ワインを片手に政治・経済のお話をしていたらしいです。その会話が始まったら、女性陣は退席するのがマナーだったようです。

 そのため、女性同士でお話をする機会というものが少なかったようです。

 そこでアフタヌーンティーにかこつけて、それこそ旦那の愚痴ぐちから政治・経済に至るまで、お喋りに興じる。そういう場になっていたようです。


 どんな人でも、やはりコミュニケーションは必要なものなんですね。


 ちなみに、女性の主人に付き従うのは女性のメイドさんだったそうですので、男性の執事さんが紅茶を給仕するという事は無かったそうで。それから最初は、カップ&ソーサーに紅茶を入れてソーサーの上にクッキーを乗せる、そんな簡素なアフタヌーンティーが普通だったようです。





 現在のアフタヌーンティーでは、ホテルのラウンジで三段のケーキスタンドに紅茶は多種多様という、非常に豪勢でゆったりしたものになっています。


 ケーキスタンドは、本来は狭いテーブルを有効活用するために用いられているものですが、現在だとアフタヌーンティーと言ったらあのアイテム、という刷り込みになっていますね。


 食べる順番は、塩気があるもの→甘いものの順に食べていくのが基本だそうです。なので、サンドイッチ→スコーン→スイーツの順に食べるのが通常とされています。アッチを食べコッチを食べ、というのは、あまり良くないようです。


 ちなみに定番になっているキューカンバー(きゅうり)のサンドイッチですが、最初の頃のアフタヌーンティーでも定番で、きゅうりがあるという事は、それを育てる農夫をちゃんと雇っている・きゅうりを育てる温室があるという証明になり、富の象徴でもあった訳です。





 そういった歴史に思いを馳せて、美味しいアフタヌーンティーを頂く。そんな余裕のある1日を過ごしたいものですね。


 ちなみに筆者は、二段のケーキスタンドを持っており、それでアフタヌーンティーセットを出しております。良かったら、ご一服なされませい。

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