第2章 再来の血牙
第1話 転校生がやってきた
秋の深まったある日の放課後、ホームルームが終わり帰り支度を済ませ立ち上がる。部活があるので家に帰る訳ではないと、一応言っておこう。
「あ、
「呼ぶ前に投げたらダメだろ」
「とか言いながらちゃっかりキャッチしてるんだよねぇ。流石九重略してさすここ!」
「はいはい、んでこれは?」
「部室の鍵だよ。私ちょっと
「了解だ、先行ってるよ」
適当にひらひらと手を振り、教室を出て上の階に行くと
「悪い、待たせたか?」
「うんん、大丈夫ですよ。六月一日先輩と式部先輩は?」
「六月一日は野暮用があるって、
「そうなんですね、なら少しの間二人きりですね」
……どうしてそう意味深に聞こえること言うかな。照れながら言うもんだからおや?って思っちゃうよ。まぁ、キスくらいいいかな!!!もう存分にイチャイチャしてやるぜ。
二人で部室に向かい、鍵を開けて中に入る。そして何故か中にいる人物に斬りかかる。
「やあユイハ久ぶぎゃぁぁぁぁああああ!?」
「ん?なんだリヲンか」
「何だ、じゃないよ!殺す気か!」
「いや、気配感じたから
俺は華凛に入っていいぞと合図を送り、もう一人のブロンド髪のやや長身の女性を見た。
「お前も久しぶり、ヴェラ」
「はい、お久しぶりです。師匠」
***
それから数分後、部のメンバーが揃ってから自己紹介が行われることとなった。小原先生も部屋の
「こんにちは、ボクはリヲン・セフェレア。ユイハやリクの友人で、明日からこの高校の二年生になります。どうぞよろしく」
「ヴェリエスラ・セフェレアです。リヲンの妹で、唯葉さんとは昔馴染みです。明日からこの高校の一年生です。よろしくお願いします」
「ようこそ、二人はこの部のメンバーのこと、調べたか?」
「ああ、だから知っているよ。そしてボクらが吸血鬼だということも言っていいんでしょ?」
リヲンの言葉に、六月一日と千里先輩が驚いた表情になる。まあ無理もないことだ。この場に吸血鬼が三人もいるんだ。
「へぇ、吸血鬼なんだ。見えないね」
六月一日近くからまじまじと見て首を
リヲンは六月一日の視線から逃げるように目線逸らし、わざとらしくこほんと咳をした。
「まあそういことだからリクには住む場所を、ね?」
「って言われてもな。とりあえず上に話すとして、用意されるまで住む場所をどうするか」
「俺の家は?大抵は華凛の家にいるし」
「そういう事情があると思うとなんか嫌だな」
リヲンは微妙な顔をしてあははと乾いた笑いを浮かべた。そりゃそうか。
「それなら私の家を貸してやる」
小原先生が、あくびを噛み締めて言う。有難い申し出だ。
「いいんですか?」
陸が聞くと、小原先生は軽く頷く。その後あーでも、と付け加えた。
「泊まれるのは一人だけだ。二人は広さ的にきつい」
「一人だけでも十分です。だけど、どうするか……」
陸が
「いいのか?小原先生か六月一日のどっちかがリヲンを泊めることになるが」
「んー、嫌じゃなければ、私んとこでもいいけど」
むしろウェルカムな感じが見て取れる。その様子に驚く中、リヲンだけふっと笑った。
「それじゃあ、ミユのところでお世話になろうかな」
「うん、おっけーだよ」
「何かされたら、俺らに言うんだぞ?リヲンあからさまによからぬこと考えてるから」
「ちょっ!か、考えてないわい!!!」
「さてよからぬことを考えているリヲンは置いておいて」
おい!と、リヲンは俺の腕を掴んで揺するが俺は気にせず小原先生とヴェラを見る。
「なんか手伝いとかするんだぞ?」
「わかってますよ、師匠。リヲンとは次元が違います」
「おいおい、我が妹よ。ボクがヴェラに負ける要素なんてないだろ?」
「家事」
「それはお兄ちゃん、ぐうの音も出ない」
そのやり取りで部室内に笑いが生まれた。この後交流ついでにババ抜き等トランプで遊んで今日は解散となった。
***
「それじゃあまたねー、みんな」
ミユは大きく手を振って、ユイハたちと別方向に歩き出した。ボクはその背中を追うようについて行く。五分ほど歩くと駅が見えてくる。彼女は電車通学なのか。
駅の中に入り、ミユはボクの分の切符を買って渡してくれた。一枚しかなかったのは、彼女が電子マネーで改札を通ったから。
「どうしたの?乗り方わかんない?」
「失礼だな、電車くらい乗れる」
「そっか、なら早く。後五分で電車来るよ」
「あ、ああ」
言われるがままに急いで改札を通り、ミユの隣に立って電車を待つ。ミユの言う通り、五分ほど待つと各駅停車の電車がホームに入ってきた。
その電車に乗り、会話なく揺られること十五分。ボクには景色が何ら変わったように思った。微妙に高い建物が多いなと思いながら、ミユについて行く。
「着いたよ、リヲン君」
「ここ?」
目の前にあるのは、何も変哲のないアパート。スパイの生活は一般市民と同じらしい。まあ、派手なのも何か違うと思うだろうが。
部屋の中は、限りなくシンプルで綺麗だった。掃除が行き届いている。
「適当に座ってて。あ、紅茶飲む?」
「ああ、いただくよ」
「ん、おっけー」
ミユはキッチンでカチャカチャと紅茶の準備を始める。ボクはテレビのリモコンを操作してテレビをつけた。ニュース番組がやっていて、三十代男性が~とかどうでもよさげなものから物騒なものまで、色々だった。ぼーっと眺めていると、ボクが座るソファーの前のテーブルに紅茶が置かれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「リヲン君は着替えとかどうするの?」
「ああ、数日分なら着替えなり、必要なものはあるよ」
ボクはそう答えると、ミユはならよかったと言って俺の隣に腰かけた。そして紅茶を一口口に含んで、何か思い出したように立ち上がる。
「着替えてくけど、覗かないでね」
「覗かないよ」
特に興味もない。と言えば嘘になるものの、何かしでかせば寄ってたかってボクを殺しに来そうだし。
数分後、戻ってきたミユは色気や可愛らしさが微塵もないジャージ姿だった。ミユは残りの紅茶を飲み干し、空になった二つのコップを持ってキッチンに入った。
「リヲン君、嫌いな食べ物とかある?」
「生ものじゃなければ大丈夫だよ」
「おっけ、私もあんまりだから心配しないで」
どうやら、晩ご飯を作るようだ。ボクは本格的な居候と化してしまった。一応何もできない訳ではないのだが、彼女の手際を見る限りボクは邪魔になるだろう。
「なあミユ」
ボクは
「君は何者だ?」
その問いに、ミユは眉を一瞬釣り上げた。
「どういう意味?」
「ミユのこと、わからなかったんだよね。調べても何も出てこないし」
「それはないんじゃない?六月一日未由って本名だし、ちゃんと女の子だよ?証拠見る?」
「見ないから脱ごうとしないの。僕が言いたいのは、目に見えない情報が全部嘘で塗り固められてるんじゃないかってことだよ」
ミユは小さくふーんと言った。けれども料理を作る手は止まることなく、順調であった。
「まあ、私、超潜入特化のスパイちゃんだから。実際、学校に潜入なうなわけだから」
「まるで本当は学生じゃないみたいな言い方だな」
「うーん、一応ギリギリ学生って言えるんだけどね」
「正直言ってそれはどうでもいい、問題はあんたが味方なのか、敵なのかってことだ」
ユイハたちと協力したとか、陸と同じ機関の諜報部だとか、そんな肩書くらい彼女は簡単に手に入れられるのではないかとボクは思った。ユイハは一応ミユのことを警戒しているようではあるが、不十分ではないかとも。
「そうだなあ、
ミユはわざとらしく言葉を切った。そしてニッと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「少なくとも敵ではない、かな」
それを聞いて、ボクは思わずため息をついた。一番質の悪い返答だったからだ。その様子の何が面白いのか、ミユはけらけらと笑っていた。
「ミユ、ボクここに住んでいいかな」
「いいけど、なんで?」
「君が信頼できないから、監視したいんだよ」
「男の子に全部見られるの恥ずかしいけど、頑張って耐えるね?」
「言い方が悪いんだよなあ」
そんなこんなで、ボクとミユの同居生活の幕開けとなった。
***
華凛の家にて、俺はソファーに座る華凛の前で正座をしていた。尚、これは語られていないものの、一度体験した構図。決戦が終わった数日後にセシラとの関係を根掘り葉掘り聞かれた時と。
「えっと、華凛?」
「ヴェラさんと、どういう関係なんですか?師匠なんて呼ばれて」
「呼ばれた通りの関係としか言えんな。俺が百歳の頃にヴェラが近所で生まれて、それから二、三十年後に俺が槍の扱いを教えたんだ」
「男の?」
「急に下ネタだね!?どうした華凛!?」
華凛は物凄く顔を真っ赤にしてふるふると震えていた。恥ずかしいなら言わなければよかったのに。
「とにかく、俺が好きなのは華凛だけだから。俺が華凛のことが好きなんだっていう証拠だって」
「じゃあ、見せてください」
そう来るのは予測済み。何なら狙ってたまである。俺は片膝をソファーに乗せ、頬に触れ、キスをする。軽い奴じゃなくて、深く、舌を絡めるようなキスだ。
「んっ……れろ、んぁっ、ゆい…ん…はっ……だ、め……めっ!」
唇が離れた一瞬に華凛は俺の股間を蹴り上げた。股間に激痛が走り、俺は無残にも床を転げ回る。痛みが引くのは人間より早いだろうが、痛いもんは痛い。そしてマジで痛い時、声が出ない。
「あの……華凛さん?」
「もう十分ですから……」
「そ、そっか。ならいいんだが」
俺は華凛の隣に座って、華凛に手を伸ばす。華凛は少し警戒しつつも、特に嫌がるそぶりを見せない。俺は少し強めに頭を撫でて手を握った。
「とにかく、信用してくれたようで何より」
「なんか、すいません」
「いやあ、下ネタをぶっ込んできたのはビビったよ」
「それは忘れてっ!」
「断る」
ニッと悪戯めかせて笑うと、華凛はぷくっと頬を膨らませてポカポカと叩いてきた。あー、可愛い。俺は辛抱ならずぎゅっと抱き寄せた。
「唯葉先輩?どうしました?」
「んー、もふみを感じてる」
「馬鹿なこと言ってないで早くご飯の支度しましょ」
「えー、華凛が食べたいなあ」
「それは寝る前にです。ご飯作りますよ」
「ふっ、了解だ」
二人揃ってキッチンに入り、二人で料理を開始した。火とか刃物を使うので物理的なイチャコラはご法度。動揺させるようなこと言うのもご法度としているので、俺は華凛と会話しながらせっせと手際良く進める。
早く触れたいが為に必死であった。
翌日、いつも通りの朝を過ごした後にホームルームの時間になった。そこでリヲンの紹介がされた。なぜならリヲンが俺のクラスに来たからだ。
女子から凄くちやほやされているのを俺と六月一日と陸は遠巻きにその様子を眺めていた。
「人気具合やべえな」
俺がぽつりと呟くと、六月一日がこくこくと頷いた。
「かっこいいしねえ、そういえばさー式部、リヲン君の住む場所なんだけどさー」
「おお、何か宛とかあったか?」
「うんまあ、私の家にこのまま置いてもいいよ」
「ああ、そりゃよかっ……はっ!?」
陸はがたりと立ち上がり、あり得ないと言いたげな顔をしていた。その様子を見て、六月一日がニッと微笑んだ。
「リヲン君がどうしても一緒に住みたいって言うからさ」
まあまあ大きな声で言うとクラスが先程よりもざわざわとざわめく。一番多いのは
「ちょっと!?こんな大勢いるところで言うか!?」
俺はあちゃーっと思う。そう言うのは
「あのな、ミユ。誤解を生むようなこと言わないでくれるかな」
「誤解ってこともないでしょ?一緒に住んでるのは本当なんだし」
「そうだけど」
リヲンは若干冷や汗をかいて引き
「おいお前ら、そういうのは次の休み時間にやらんか。授業がもうすぐ始まるからな」
それだけ一応といった感じで言って教室を後にした。
***
薄暗い闇の中。
絶望、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます