第4話 青春というか何というか

 中間テストが終わり、落ち着いた頃、俺たち空想生物研究部は小原先生によって召集されていた。

 小原先生は俺たちが全員いることを確認すると、ホワイトボードを反転させる。そこには、プール掃除と書かれていた。


「やるぞ」


「空想生物関係ねぇ!?」


「まあそもそもそれらしいことすらしてないけどね」


 我が部部長である六月一日さいぐさが机にぐでぇっとしながら呟く。事実だが、それを言ったら終わりだ。


「だからいいだろ?掃除が終われば遊んでいいから」


「じゃあやる」


「おい部長」


「いいじゃん、やろうよー」


「私もしたいです」


 華凛が手を挙げ目をキラッキラに輝かせる。


「よしやろう。今すぐやろう」


「鮮やかな手の平返し!なんか釈然しゃくぜんとしない!」


「唯葉はどんどん天川に甘くなってるな……」


「私としてはやる気を出してくれれば結構。プール掃除は明日だ。学校指定の水着を持ってくるように」


 そう言い残し、小原先生は満足げに部室を去っていった。その直後、華凛がくいくいと服の袖を摘んで引っ張ってきた。


「水鉄砲は持って行っていいです?」


「いいけど、使っていいのは掃除が終わってからだぞ?」


「やたっ!」


「やっぱり甘いぞ」


「そうかな」


 いやまあ、自覚してるけども。でも仕方ないと思う。可愛い子は甘やかしたくなるよ。孫に激甘なおじいちゃんおばあちゃんの気持ちが分かっちまったぜ。


「それはともかく、今日は何するんだ?」


「コスプレしてよ九重」


「何度嫌って言ったら伝わるの?」


「何度言っても伝わらんよ」


「そうかじゃあもう無視するしかないな」


 俺は視線を落とし、空想生物論の文を目で追う。なんか言ってるが、無視だ無視。


「ちょっとー!一回!一回でいいから!」


 書物に集中できないが無視だ無視。


「唯葉先輩、私も、見てみたいです」


「よし、仕方がないな。一回だけだぞ」


「くそぉ!やっぱ釈然としない!」


 六月一日は机を両手でバンと叩いて、悲壮感を漂わせながら叫ぶ。


「どうした六月一日、早く衣装を出すんだ。一人で多分着れるから」


「はいはい……これね」


 俺は衣装を受け取り、とりあえずブレザーを脱ぐ。何故か出て行こうとしない女性陣。


「いや出て行けよ」


「大丈夫ですよ。ちゃんと見てます」


 華凛が代表するようにこっちをガン見みしながら言う。


「いや、あのさ」


「着替えていいですよ?」


「……」


 どうやら、頑として出て行かないつもりなのだろう。千里先輩はこちらを見ないようにしてるけど。


「わかったよ。後悔すんなよ。女の子の前でも俺は着替えられる男。小原先生きたら確実に俺が死ぬけど気にしないからな?いいんだな?いいんだなわかったやってやらああああああああああああああああああああ!?」


 俺はカッターシャツとその下に着ていた半袖の服を脱ぎ、床に叩きつけた。


 ***


 タキシードの上にマントを羽織り、カラコンによって目を赤くした、世間一般らしい吸血鬼の姿となった。六月一日らの方を見ると何故かうわって顔をしてた。華凛は一応は顔を手で覆っているものの、指の隙間からバッチリ見ていたようだ。


「まじで脱ぐと思ってなかった。でもまあ、かっこいいね。見てくれはイケメンだから当たり前か」


 そう言って一眼レフカメラでパシャパシャと撮影していく。華凛もスマホのカメラでパシャパシャと。


「唯葉先輩超かっこいいです」


「おう、ありがとう」


 適当にポーズをとってみる。すると六月一日と華凛が興奮気味に飛び跳ねる。


「いいよ九重かっこいいぞ!」


「うん、唯葉先輩かっこいい」


「君らボキャブラリー少なくない?」


 さっきからかっこいいとしか言わないじゃん。でもまあわいわいと楽しそうにしてるし、いっか。俺はチラと陸の方を見てみると千里先輩と話しながら、俺というより、この光景を写真に収めていた。きっといい思い出となるだろう。

 青春らしいというか、なんというか。結構いいなと思う。ずっと一人でいいと、誰も側にいなくていいと思っていたが、これも悪くない。

 夏になればもっと楽しくなるんだろう。俺はいつまでポーズをとり続ければいいんだろうと考えずに済むように現実逃避をした。

 翌日。朝はいつも通りの日常と化した時間を過ごす。まず華凛を膝の上に座らせ髪を結び、聖戦を繰り広げ、その間に六月一日や陸、千里先輩が来て駄弁る。四時間授業を受けて屋上で華凛と飯食って昼寝して、残りのニ時間授業を聞き流し放課後、男子更衣室にて俺と陸は水着に着替え、陸は体操服を、俺はパーカーを羽織った。


「授業の時はすげぇ混むけど、二人だとすげぇ広いな」


「静かだしな」


「お陰で向こうの声、薄っすらと声聞こえてくるぜ」


 今、六月一日が華凛ちゃんの胸マシュマロって言った。華凛の悲鳴も聞こえるなぁ。


「唯葉、先に始めようぜ」


「そうだな、始めとくか」


 俺はプールに繋がる扉を開けると眼前には水がほとんど抜かれたプールがあった。


「女子がいないとプールは映えないな」


「激しく同意」


 冷めた目をしながら人数分のブラシを用具入れから取り出し、蛇口にホースを付け、放水準備を整える。

 そして二人で適当にプールの底を擦った。女子早くこないかなーと思いつつ。だが。


「……遅くない?」


「ああ、遅いな」


 そう、女子が遅いのだ。確かに女子は着替えるのに時間がかかるだろう。だが、それを差し引いても遅いのだ。わかりやすく言うともう三十分も待ってるのに出てこない。


「自分、更衣室突撃いいっすか」


「俺は死にたくないから遠慮する。自己責任で勝手にどうぞ」


「ヒャッホウキタコレ!」


 テンションが上がった俺は女子更衣室の前に行き、とりあえずノックをしてみる。しかし反応がない。そう反応がない!ないのである!


「はーい、遠慮なくお邪魔しま……あー、ええと、これはどうしたら、こうなるんだ?」


 目の前の光景に、散らかったパンツとかブラとかが目に入らない。


「なんで、六月一日と千里先輩の下敷きになってるんだ……華凛」


「唯…葉、先輩……」


「おお、意識はあったか」


 俺は気絶してる六月一日と千里先輩を丁寧にどかし、後悔した。華凛はまだ水着を着ておらず、ブラもしていないから。

 俺は人生最速の速さで男子更衣室に自分のタオルを取ってきて、華凛に被せた。

 何故自分のを取りに行ったのかというと、女子更衣室のロッカーを開けるのに抵抗があったからだ。


「ともかく、どうしてこうなってるんだ?」


「二人に襲われたから、撃破したら倒れかかってきて、動けなくなった」


 どうやって撃破したのかは聞かないでおこう。その方がいい気がした。

 俺は立ち上がって、着替え済みの六月一日と千里先輩の頬を軽く叩き意識を戻す。


「はっ、夢を見てた……」


「うぅ、頭が痛いわ……」


「とりあえず二人はもう掃除に行ってください」


「りょ、了解…」


「わかったわ」


 トボトボと歩いていく二人。よし、あの二人に関しては陸に丸投げしてしまえ。


「華凛も、着替えたら来いよ?」


「ま、待ってください!」


「ん?どうした?」


「ここに、いて?」


 やばい。何がやばいかっていうと、華凛の格好だ。今華凛は左腕で胸を隠し、右手で俺のパーカーの袖を摘んでいて、上目遣いでここにいてと言われた。

 正直言って、凄くいいです。


「わ、わかった」


「でも見ちゃダメですよ」


「もちろんわかってる」


 そう言って、俺は背を向けるすると華凛はごそごそと荷物の中を漁り、何かを取り出した。


「……水鉄砲は、まだ早くないか?」


「……うん、わかってますよ、出しただけです」


 その直後、何かを仕舞う音が聞こえた。俺はそれに対して、追及をしない。俺はただ、華凛の着替えシーンを思い浮かべるので精一杯なのだ。

 見える。まるで凝視しているかのように見えぞ!華凛の着替えシーンがァ!タオルで体を隠し、その中で服を全て脱ぎ、そして水着を着る。多分だけど、胸は一度持ち上がってからすぽっと入ると思うんだ。うん。


「終わりました」


 華凛そう言った瞬間俺はすぐさま振り返る。スク水姿の華凛は、なんというか、胸が強調され過ぎてエロい。


「あの……」


 消え入りそうな声が聞こえる。華凛は居心地が悪そうに身をよじり、目は潤んでいた。


「悪い、見惚れてた。掃除するぞ」


「見惚れッ!?……こほん、そうですね」


 顔を真っ赤にしながら俺の後ろを華凛が付いてくる。ともあれ、これで何とか掃除が始められそうだ。

 なーんて、そう思った時期もありました。六月一日がホースを独占及び暴走。それを千里先輩が止めようとするが、無駄に運動神経がいい六月一日はひょいひょいと避け続ける。側から見ればじゃれてるだけだ。


「なあ陸」


「何だ?」


「お前にとってあれが眼福なんだろうけど、そろそろ止めないとだぜ」


 俺は千里先輩の揺れる胸から視線が外さないでいる陸にそう言うと、やっと視線を外しこちらを見た。


「悪い、でもどうすんだ?」


「陸は六月一日にこいつを命中させれるか?」


 俺は悪魔のような笑みを浮かべ、ブツを陸に渡す。そのブツを見た陸も、同じような笑みを浮かべる。


「任せろ」


「おけ、タイミングは任せる」


 そう言って、俺はプールサイドに上がり、走る構えをする。そして陸が投げた刹那、ける。ブツは直線を描き六月一日に殺到さっとうし、見事に命中。


「痛あっ!?何……」


 六月一日は自分に飛んできたブツ、もといG(ゴキブリ)のおもちゃを視界に捉え、青ざめる。


「ふにゃああああああああああああ!?」


 六月一日は盛大に叫び、ホースを手放す。そこで俺の番だ。陸の投擲とうてきと同時に駆けた俺は、空中で踊るホースを掴み、着地する。そしてホースの口を六月一日に向けた。


「食らえ!【ウォーターキャノン】!」


 ホースの口を細め、水の勢いを強める。


「あべばばばば!?」


「ふっ、つっまんねぇもんに水かけちまったぜ☆」


「ぜ☆じゃない何すんの!」


「遊んでるやつを成敗☆しただけさ☆」


「さっきから星うざい!」


「まあどうでもいいから遊ばず掃除しろ。掃除してから遊べ」


「ぐ、わかりました、しゃーなし、やりますかね」


 六月一日がやる気を出した。これなら、何とか掃除が終わるだろう。

 なーんて、そう思ってた時期もありました。六月一日、プールの中でブラシを振り回しスケート開始。本当にこいつ、どう締めてやろうか。そうだ。


「華凛、今日持ってきた水鉄砲は?」


「改良した最高威力の物を持ってきました!」


「なら射撃準備に入れ。確実に当てられると思ったタイミングで放つんだ」


「唯葉先輩は?」


「タゲ取りしてくる」


「了解であります」


 華凛の言う最高火力がどのくらいかしらんが、覚悟しろ六月一日ァ!


「六月一日、掃除」


「してるよ」


「何処がだよ!?遊んでるようにしか見えねえよ!」


「だって遊んでるからね」


「おい」


 こいつ、高火力光線食らわねえかな。今もう俺が光線撃つ?撃てないけど。


「私はね、ハイスペックなの、遊びながら掃除ができる子痛ッ!」


 突如、痛いと叫ぶ六月一日。何かと思えば、華凛が水鉄砲を構え、六月一日を撃ったのだ。そして、第二射を六月一日の胸めがけて撃ちながら華凛がぼそりと呟いた。


「貧乳」


「ぐはぁっ!」


「おい華凛!?さっ、流石に酷くないか?ほら!ひざから崩れ落ちて動かなくなっちゃっただろ!」


「…………から」


「ん?なんだ六月一日」


「ヘコんでなんかないんだから!」


「んなツンデレ風に言われても」


 それにすげぇ涙目だし、気にしてるんだろうなあ。胸の成長は基本的に十五歳で止まるらしいし。


「まあ、ヘコんでないなら掃除してくんない?みんなでやってパッと終わらせて遊ぼうぜ」


「……うん。わかった」


 そう言ってプールの底のブラッシングを始めた。すぐに千里先輩が駆け寄っていく。しばらくは千里先輩に任せよう。


「華凛、今度からそれ言っちゃダメだよ。……撃つのもダメだからな」


「わかりました。後で謝ってきます」


「それがいい。んじゃ、パッと終わらせよう」


 それから、プールの中を六月一日と千里先輩と陸が、プールサイド及び放水を俺と華凛が掃除し、1時間もかからないうちに終わった。プール及びプールサイドは綺麗になり、水を貼り直した。俺は小原先生から預かっていた塩素玉を指定された数を全体に散らばるように投げ入れる。


「唯葉先輩、私も投げたいです!」


「ん、どうぞ華凛は第三コースら辺を狙ってくれ」


「はい!」


 トプン、と音が響く度、なんだか楽しくなってくるが、入れ過ぎは禁物だ。


「塩素玉入れ終わりっと。んじゃ、シャワー浴びてから遊びますかね」


「いよっしゃー!」


 六月一日が一番に駆け出し、シャワーを捻り出す。良い子はプールサイドを走っちゃダメだよ。


「みんなはどうする?」


「唯葉先輩が遊ぶなら遊びます」


「俺はパス、着替えてそこらのベンチに座っとくよ」


「私も、着替えてベンチに座ってるわ」


「じゃあ行くぞ華凛!」


「はい!」


 早歩きでシャワーに向かい、ざっと水を被る。


「何して遊ぶ?」


「聖戦!クロール!」


 なるほど水泳対決ですね。にしてもクロールか。あまり得意じゃないんだが。


「ふっ、受けて立つ!」


 そう宣言し、飛び込み台に立ってしまった。華凛に悲しい顔はさせられないという使命感でも働いたんだろう。


「……唯葉、大丈夫なのか?」


 陸がいつの間にか着替え終え、こちらにきて、すんげぇ心配そうな顔をしてきた。もちろんちっとも大丈夫じゃない。本当のことを言えば水泳自体苦手な部類なのだ。

 だが、華凛がいる手前、弱音は吐けず。


「ふっ、大丈夫。とりあえず、スタートの合図頼めるか?陸」


「お、おう。んじゃ、行くぞー。よーい……スタート!」


 刹那、俺と華凛はほぼ同時に入水した。まあ、誰かとこうやってスポーツで競うのも、青春ってやつかな。ん?結果?五秒差で負けました。

 でまあそれからは俺が水上ビート板ダッシュ(二歩目で落下)やプール殺人事件(被害者役俺)を即興でやったり、浮き輪を二つ繋げて列車ごっこ(華凛と六月一日は浮き輪に座ってるだけで俺だけが泳いだ)をした。ねえ俺の扱い酷くない?

 そう思いながら、疲れた体を楽させるように水に浸かっていると、華凛が後ろから引っ付いてきた。


「ん?どうした?」


「おんぶしてください」


「まあ、いいけど」


 胸がいい感じに気持ちいいしね、人肌あったかいし、もう何故だとか、考えないようにした。華凛が俺に懐いている理由など、知るすべが無いのだから考えたところで無駄なのだ。ならばこの時間を、楽しむべきだろう。一瞬一瞬が限りある時間なのだから。

 俺が華凛をおんぶしながら適当に歩いていると、ギィと扉が開いた。現れたのは小原先生だった。


「お、ちゃんと掃除したみたいだな。感心感心、それはともかくもうすぐ下校時刻だ。上がりたまえ」


「了解です。ほら華凛降りて、流石に上がれないから」


「わかりました」


 背中から心地よい感触が離れる。別に名残惜しくなんかない。名残惜しくなんか……ない!


「唯葉先輩」


「ん?なんだ?」


「一緒に帰りましょうね」


「……ああ、もちろん」


 そう言って頭を撫でてやると、華凛は嬉しそうにはにかんだ。

 翌日、いつも通りの日常を過ごした後の放課後。突然小原先生が入ってきて言い放つ。


「書庫の整理を手伝うぞ!」


「ここ何部か知ってますよね」


「なんでも屋」


 俺が間入れず尋ねた質問に小原先生は即答する。


「部ですらねえ」


 可愛く首傾げられてわかんないふりされても困る。いい歳してそれは痛……おっと、心の中で言ってるはずなのに何故か寒気が。


「まあとりあえず最後まで聞きたまえ。手伝ってくれたら、書庫にある本を何冊か無期限貸し出しにしてもいいそうだ」


「それはなんか得かも?みんなやろう!」


 六月一日が突然やる気を出し、お前らも来るよねと言わんばかりの期待の目を向けられる。これには俺たちもやれやれと言った表情を浮かべるしかなかった。


「普通に嫌。書庫ってあの埃っぽい書庫だろ?嫌だよ」


「唯葉先輩に賛成です」


「俺も唯葉に賛成」


「力仕事になりそうなので遠慮したいわ」


「ちょっと!さっきのやれやれ仕方ないなあって表情はなんだったの!?私の期待返して!」


 六月一日は机をバンバンして激昂げっこうする。その様子に千里先輩は早くも手の平を返しそうな様子である。


「あのな六月一日、期待する方が悪いんだぞ?」


 陸がさとすように言うと、六月一日は更に強く暴れ始める。


「責任転嫁!」


「お、難しい言葉知ってるな、偉いぞ」


「ムキーーッ!」


 六月一日は堪えられなくなったようで、陸に飛びかかる。だから陸にどの技もかすりもしない。ああ見えて昔は柔道と陸上を掛け持ちするというバカなことをしたけど、どちらも優秀過ぎて周りに何も言えなくする奴だ。運動系に関して陸はハイスペックなのだ。

 今回は流石に無しになっちゃう流れだな、とフラグを建築。すると小原先生が何かを取り出した。


「手伝ってくれたら、いい特典があるんだけどなあ」


 そう言って、俺に一枚の紙を渡してくる。仕方ないので読み上げた。


「二泊三日の人魚捜索海合宿?」


「ああ。空想生物研究部ってだけあって、なんとか校長の許可を得たんだ。手伝ってくれたら、連れて行ってやる」


「いいじゃん!みんな手伝おうよ!」


「私手伝います!唯葉先輩は?」


「しゃーねーな、手伝うかあ」


「ちょっと楽しみだしな」


「ええ、そうね。あまり力になれないけれど手伝うわ」


「お前ら欲に忠実だな、引くわ」


 と、笑いながら小原先生は言う。餌を用意しておいてその言い草は無いだろうと思ったが。まあいいや。


「まあ、合宿に行きたいなら、手伝うのもそうだが、期末テストで赤点取るなよ。補習と日程被せたからな」


 その言葉に、俺ら四人は六月一日を見る。


「……何さ」


「いやお前、理系の点数はいいけど、文系苦手じゃないか」


「う、そうか。みんな頭いいんだったね!」


「まあそう言うこと」


「それじゃ、勉強会を開催すればいいんじゃないかしら」


 千里先輩は名案とばかりに手をパンと合わせ、提案してくる。


「ありですね。真面目に勉強できる人が四人もいれば、六月一日も騒ぎ難いでしょうし」


「否定しないよ、うん」


「二人もいいかしら?」


 千里先輩が華凛と陸にそう尋ねると、二人とも頷き、承諾した。


「なら決まりね。書庫の整理に行きましょうか」


「「「「おー!」」」」


「お前ら、その前に体育祭があるからな?」


 聞こえそうで聞こえない声で小原先生は呟き、部室を出て行った。

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