第45話四十、一言主大神の神話

四十、一言主大神の神話


●葛城山と一言主大神(いちごんぬしおおかみ)

またある時に、天皇が葛城山に登って行かれた時に、多くの供の官人たちは、全員紅い紐を付けた青摺の衣を賜って着ていた。

同じその時に、峡を隔てて向かい合う山の尾根を山の上に登る人がいた。それは全く天皇の行幸に似ていた。その装束も有様も人数も相似ていて区別がつかない。

そこで天皇は向かいの屋根を望み見られて、尋ねさせて、「この大和国に、我のほか二人と天皇はいない。今のようにいくのは誰か」と言われた。

すると相手の答えが言うありのままに、天皇の言葉と同じであった。

そこで天皇はたいそうを怒って弓に矢を番え、官人たちもみな弓を番えた。すると同じように矢を番えた。さらに天皇は訪ねて「そなたは名を名乗れ。そしてそれぞれ名乗ってから矢を放とう」と言われた。

これに相手に答えて「自分が先に尋ねられたので、自分が先に名乗りしょう。自分は、凶事の一言、善事も一言、事を決めて選択をする神、葛城之一言主之大神である」と言った。

天皇がこれに恐れ畏まって申されるに「恐れ多くも、親愛なる大神よ、人の姿にしておいでなので、気付かなかったのです」と申して、天皇が身に着けている弓矢を始め御刀などを、また官人など着ている衣服を脱がせて、拝礼し献上された。これに応えて、その一言主の大神は、手拍子を打ち、その献上物を嘉納した。

それから天皇が帰られる時には、その大神は、山の端まで行列をいっぱいにして、長谷の山の入り口まで送り申し上げた。このように、一言主之大神は、その時に姿を現したのである。●


☆一言主大神の神話・まるで天皇の行列と一言主大神の行列が鏡に映したような錯覚に陥る設定は、『古事記』の説話でもユニークである。

この説話の場面は一地方の地主神一言主大神が天皇と対等に渡り合い、天皇が譲ると言う設定になって中々特異な場面である。

また天皇もこの大神に敬意を払う場面は何となく心憎い場面が描かれている。一言主大神は味耜高彦根命または阿遅鋤高日子根神とも言う。

悪事も一言、善事も一言で言い放つ神、凶事も吉事も一言で予言する神として葛城に一言主神社がある。

この説話もいち天皇は葛城山の上に登られた時に遭遇された出来事である。大きな猪が出てきて直ぐの鏑矢の猪に射られた。

猪は怒り襲い掛かってきた、天皇はその唸り声に恐れをなして、榛の木に登って逃げられた。

またある時に葛城山に登られた時、向かいの尾根伝いに、天皇の行幸と同じように、服装のも随行の様子も全く似ていた。御共の者に尋ねさせた。この国には天皇は一人、返ってきた返事はこちら同じ、天皇は怒り弓矢を構えて、最後に名を名乗れと言われた。

そこで「悪い事も、良い事も一言のヒトコトヌシン大神である」と答え、それを聞いた天皇は、恐れ畏まり、官人の着ていた服や武器を、拝礼し献上された。大神はそれを受け取り、天皇を山の頂まで見送られた。この物語の説話は葛城氏の強大な勢力と大和勢力の戦いの後に、贈り物を送って撤退した、なぞらえたものかも知れない。

☆葛城山は大和、河内の境界地。一言主の大神は葛城氏の氏神として、この地の豪族として朝廷に重きを成し発言力とその地位が有って、天皇が敬意を払い場面はまさしくそれを表わしている。

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