第42話三十八、市辺之忍歯王の失脚の神話


三十八、市辺之忍歯王の失脚の神話

●この時より後に、近江の佐々紀山君の祖先の、名は韓袋(からふくろ)が「近江の久多綿の蚊屋野には、多くの猪や鹿がおります。

その立つ脚は、ヨモギの原と見粉うほど、頭上に戴く角はあたもかも、枯松の姿でございます。」と申した。

大長谷王は、この時に市辺之忍歯王(いちへのおしはおう)を一緒にともない近江に行かれた。

その時別々に仮宮で宿泊された。

そして翌朝に、まだ日が出ない時に、忍歯王は、何時もの平常の気持ちで、御馬に乗ったまま、大長谷王の仮宮の脇まで来て立たれたて、その大長谷王の共の者に「まだお目覚めになっておられないのか、早く申し上げるがよい。

夜は明けているし、狩場にお出でなさいますように」と言われ、馬を進めて行かれた。

その時に、大長谷王の御そばに仕える者が「尋常でない物言いをする王子でございます。

用心なさいませ。しっかりと身の回りをお固めください」と申した。

大長谷王は、衣の中に鎧を召され、弓を手に、矢を身に御付けに成り、馬に乗って出て行き、たちまち追い着き間に合わされ、馬上で並び、矢を抜き、忍歯王を射落とされた。その体を切り刻み、馬の飼葉桶に入れ塚も造らず、地面と同じ高さに埋められた。

この時に、市辺王の御子たち、意祁王(おけみこ)・袁祁王(おけみこ)の二人は、事変を聞いて逃亡した。それで山城の刈羽井(かりはい)に行き、持参の召し上がり物を摂られた時に、顔面に入れ墨をした老人が来て、その食べ物を奪った。

そこで二人の王子は「食べ物は惜しくない。しかしあなたは誰か」と言われた。

老人は答えて、「自分は山城の猪飼だ」と言った。それから二人の王子は、淀川の樟葉の渡りを船で渡り逃げ帰った。その国の在地の人で、名は志自牟と言う家に入り、身分を隠し、馬飼・牛飼として使われていらしゃった。●


◎市辺之忍歯王の神話・允恭系の皇系から履中天皇の皇子市辺忍歯王に移って行く。

近江の山君の祖先のカラブクロと言う名の者がオホハツセ天皇に「近江の久多綿の蚊屋野には猪や鹿が多くいてその立っている様は松の枝の如し」と言って誘うように申し上げた。

案内し近江の猪、鹿のいる所に案内した。その時イチノベノオシハノ王を伴って蚊屋野で仮宮に泊まられた。

翌朝オシハノ王はオホハツセノ王を仮宮に立ち寄り、共の者に、狩場にお出かけ下さいと促して、馬を進めて先を行かれた。

その言い方、態度に不信を覚えた共の者は、オホハツセノ王にご用心されるように進言をした。そこでオホハツセノ王は衣の下に鎧を付けて、弓矢を携えて馬に乗って行かれた。

たちまちオシハノ王に追いつかれたオホハツセノ王は射殺され、その場で体を切って飼葉桶に入れられた。そして地面の高さに埋められた。

それを知ったイチノベノオシハノ王の御子たちはこの変事に一斉に逃げ出した。逃げて山城の刈羽井で乾飯を食べようとすると、顔に入れ墨をした老人が来て、その乾飯を奪った。そこでその老人の名を聞くと、答えて山代の豚飼いだと告げた。

そこで二人は逃げて播磨の国に行き、その地のシジムと言う人の家に入って、身分を隠し、馬飼い・牛飼いとして暮らし、期を窺って復帰している。

見境もなく次々に殺戮する残虐性の裏には皇位争いに、相手を根絶やしに潰す、その厚意を殺し方を選ばない。

二人は一時身を隠すより方法が無かった。

☆市辺之忍歯王の説話・説話は説明不足で推測の息しか出ない部分があるが後継に絡んだ話が含まれているんではないかと思われる。

オホハツセ王が近江まで狩とはいえ誘われる、これはオシハノ王との王権争いで、オシハノ王は安康天皇が次期天皇にさせたい有力候補であった。

この様子見ていたオシハノ王王の御子二人の袁祁王、意祁王は異常な事変に逃げ出した。

☆市辺之忍歯王は履中天皇と葛城之曽都比古の孫で、皇位継承の一角を占めていた。その証拠に二十三代天皇に袁祁王)二十四代天皇仁賢天皇(意祁王)天皇(袁祁王)二十四代天皇仁賢天皇(意祁王)になっている。

このオシハノ王の殺害は皇継を廻り大きな政変であった。






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