第41話三十七、目弱王の復讐の変の神話

三十七、目弱王の復讐の変の神話

●その後、天皇は神の御心を知るために床に着かれ昼寝をされた。

その際に皇后に向かって、「そなたは何か気がかりなことがあるか」と尋ねられた。皇后は「陛下の厚いお恵みを頂き、何の気がかりがありましょうか」と答えた。

ところが。その皇后の先夫大日下王との間の子、目弱王が、七歳になっていた。この王がちょうど床下で遊んでいた。

それなのに天皇は、その幼少の王が御殿の下にいる事を知らずに、皇后に言われた「我には、ずっと久しく気がかりなことがある、何かと言えば、そなたの子の目弱王が成人をした時に、我が王の父を殺した事を知ったならば、謀反を起こすのではないかと」と言われた。

するとその床下で目弱王は、しっかりと聞いた。その後、そこで密かに天皇が寝ている所を狙っていた。

床の傍らの太刀を取るや否や、天皇の首を打ち斬り、都夫良意富美(つぶらおお)の家に逃げ込んだ。

天皇の御寿命は五十六歳であった。御陵は伏見岡にある。

そこで大長谷王子と言えば、当時は少年であった。この事件を聞かれ憤慨されて、大いに怒り、その兄の黒日子王の所に行き「誰かが、天皇を殺し申し上げた。どうしましょう」と言われ、それなのに兄の黒日子王は驚きのもせず、緊張感が見られない。

すると、大長谷王は、兄の黒日子王を罵った。「天皇であり、兄弟であるのにどうして頼りがいもなく、自分の兄が殺されても、もたもたしているのですか」と言われ、それを聞くと弟王が黒日子王の襟首を掴んで、引っ張り出し、太刀を貫き打ち殺されてしまった。

もう一人の兄の白日子王の所に行き、事情を前のように説明され、反応も黒日子王と同様であった。するとその襟首を掴んで、引きずって、小治田に来ると、穴を掘って、立たせたままに穴に埋めて、二つの目が飛び出して死んだ。

その後、軍を起こし、都夫良意美の家を取り囲んだ。

その前に予測をしていた、都夫意美も軍勢を整えて備えていた。大長谷王軍の発射する矢は蘆花のように飛び散った。

時は良しと、大長谷王は矛を杖として、都夫意美の屋敷の内部を見つつ「我が先に言い交わした乙女は最早この中に居ないか」と問われた。

すると都夫良意美は、この言葉を聞いて、自ら家を出て参り、身の回りの武器を解いて、八回拝礼し、申したいことは「過日求婚くださいました我が娘、訶良比売は、お手元に仕えもさせます。また五カ所の屯倉もお付け申します。

しかしその私がそちらに参りませぬ分けは、昔から今に及ぶまで、王子が臣下の家に隠れることを聞いたことがありません。この事から卑賤の私意富美が全力で挙げても、決して勝つこと出来まい。しかしこのような私を頼みとして、家に入られた王子を死んでも捨てきれません」このように申して再び武器を付けて家の中に入った。そして戦い、力尽きたのである。

意富美は目弱王に「もう私は全身傷だらけで、矢も尽きました。最早戦うことができません。如何いたしましょう。」目弱王は「ここまでくれば仕方がない。今直ちに私を殺してくれ」と言われた。

そこで太刀でその王子を刺し殺し、自分も首を切って死んだ。●


☆目弱王の復讐の変の神話・オオクサ王の変の忌まわしい悪しき余韻は解消されていなかった。

安康天皇(穴穂命)はオオクサカ王の事件があって、しかも殺した王の妻を自分の皇后にさせたが、その皇后ナガタノ郎女にお前は何か心配事がるのか、と言って尋ねられた。

二人の尋常でない結婚には良心の呵責が潜んでいた。

その皇后の前夫の間に生まれた御子マヨワノ王は七歳になっていた。

丁度この天皇と皇后が会話をしている時に、御殿の床下で遊んでおられた。

天皇は「いつも心配していることがある。お前の子目弱王マヨウノ王が成人した時に、自分の父を私が殺した事を知ったら、反逆を起こすのではないかと」ふとこぼした言葉を床下で聞いたマヨウノ王は傍らの太刀で直ちに天皇を首を切って殺してしまった。

天皇の弟王のオホハツセノ王子(雄略天皇)は少年のためにどうすることも出来なかった。そこでオホハツセノ王子は兄のクロヒコノ王は驚きも反撃もしないので刀を抜いて打殺をされた。

この事をその上の兄シロヒコノ王に事情を告げ訴えた。その兄も同じようにクロヒコノ王も態度ははっきりせず、即座に首を掴んで、穴を掘って立たせてそのまま腰まで埋まった時に両方の目玉を出して死んだ。

その事を知ったマヨウノ王はツブラオミの家に逃げ込んだ。オオハツセ王子は軍を起こし、ツブラオミの家を包囲し放った矢は風に飛ぶ芦の花のように飛んだ。

ツブラオミの矢は尽き、傷着き、マヨウノ王は仕方がないと、自分を刀で刺殺しように言って、返す刀で首を切って死んだ。

恐ろしい復讐の顛末物語である。こんな話は中国の王の后を我がものとして、その後殺された元王の子に復讐される場面があるが、殺された兄弟が仇討が出来ず二転三転し逃げた前王の子を討つ話はよくあるものである。

☆都夫良意富美は建内宿祢の曾孫である。

☆神床は夢に神意を受けるために斎戒して眠る所、不謹慎にもそこで昼寝に皇后と語らっていた。それは神罰に相当するかもしれない。

またオオクサ王の妻は長田大郎女は自分の妹で同母の兄弟結婚は禁断の結婚で神罰に相当する。重ね重ねの人道に反した報いだったと言える。

☆床下で遊んでいたマヨウノ王は高床式であったと思われる。

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