第40話三十六、大日下王の事件の神話

三十六、大日下王の事件の神話

●允恭天皇(いんぎょうてんのう)の御子の、穴穂御子は石上の穴穂宮において、天下を統治された。

天皇は、同母弟の大長谷王子のために、坂本臣らの祖先の、根臣を大日下王の家に派遣し「あなたの妹の若日下王を大長谷王子と結婚させたいと思う。それ故献上して欲しい」と言われた。

この仰せに大日下王(おおくさかおう)は四度拝礼し「もしかしたらこのような御下命もあろうかと思っておりました。そのために妹を外にも出さずにおりました。誠に恐れ多い事でございます。」と申した。

その妹のために贈り物として、樹枝状の冠を根臣に持たせ献上を致しました。

所が、根臣はその贈り物を王の冠を盗み取り、天皇には、大日下王に讒言(ざんげん)して「大日下王は御下命を受けずに『自分の妹を、同じ血族の末席に置くわけにはゆかない』と太刀の柄を握って怒っておりました。」と申し上げた。

天皇はたいそうに怨みになり、大日下王を殺して、王の正妻の長田大郎女を奪い取ってきて、皇后とされた。●


☆大日下王の事件説話・允恭天皇の皇子のアナホノ皇子(安康天皇)は石上の穴穂宮に於いて政治を取られた。

その安康天皇の起きた事変の二つは”大日下王事件と目弱王の事件の説話は関連性があって、何れも熾烈で反撃の応酬と残虐性のある描写である。

皇位を廻る妃の日向系の御子と葛城系の御子との仕返し合戦と、允恭系の皇位継承の争いと言ってもよい。アナホノ御子は石上の穴穂宮で天下統治されたが、同母弟のオオハツセ王の妃にオオクサ王(大日下王)の妹を嫁がせようと使いを出した。

オオクサ王は快く受け容れて、妹と様々な贈り物を付けて献上した。

ところが使者の贈り物の品々だけ奪い取って、天皇には「私の妹は同族の者下敷きになんかなるものか』と言っていると嘘を報告した。

天皇は恨みになって、オオクサ王を殺して、その妻ナガタノ郎女を奪って来て皇后にした。

オオクサ王の『讒言』がこの事件の元となったがそれを見抜けなかったこと、またオオクサ王の妻を奪ったことが、倫理的にも問題があった。

その後の波乱の局面を迎えるが、小説以上の奇なる物語である。嘘、告口は『古事記』の中によく出てくるが、騙す方と騙される方の両方の罪が重なった時に悲劇が起こる。

☆安康天皇の使者根臣が天皇の遣いの言葉を偽って伝えたが天皇がその根臣の策略を見抜けず、罪もない者を殺してしまった所に悲劇が有った。その上天皇はオオクサ王妻まで皇后にしてしまった二重の過失を犯してしまった。

しかもオオクサ王は父允恭天皇とは異母兄弟である。また叔父にも当たる、オオクサ王を討つことはその後の王政に波瀾を残すことになった。

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