第38話三十四、水歯別命と曽婆訶里(王権奪取)の神話


三十四、水歯別命と曽婆訶里(王権奪取)の神話


●この様な時に、天皇の異母弟の水歯別命(むずはわけみこと)が、天皇もとに参上をして、謁見を願い出てきた。天皇は言う言葉を伝えさせ「我は、お前が、もしか、墨江中王と同じ心かと疑っている。だから会うことはない。」と申し伝えた。

それに対して「私は謀反心など持ってはおりません。墨江中王と同じではありません」天皇答えて、「ならば、即刻難波に向かって、墨江中王を殺して、それから上がってきなさい。

その時に私は会おうぞ」と仰せられた。そこで水歯別命は難波に帰り、墨江中王の側近である隼人の、名は曽婆加里を騙して、「もしお前が、私の言うことを従えば、私が天皇になり、お前を大臣にし、天下を統治しよう、どうだ」と言われた。曽婆加里は答えて「仰せのままに」と申した。

そこで多くの品物をその隼人に与えになり、「それならば、お前が天皇を殺せ」と言われた。すると曽婆加里は、己が仕える王が厠に入る時を狙い、矛を突き刺して殺した。そこで水歯別命は、曽婆加里(そばり)を伴って大和に上がってお行きになろうという時、大坂の山の入り口まで行った所で、「曽婆加里は、我ために大きな功績はあったけれど、自分が仕える主君を殺してしまった。

これは大きな義に反する。だからと言ってその功績に報わなければ信が立たない。約束通りに完全に信を立てることは現実はできない。

その時の曽婆加里の心情を思うと恐ろしい。そこで、曽婆加里の功績を酬いるためにも、その後で殺してしまおう」と考えられた。

曽婆加里に「今日はこの所に滞在をして、まずお前に大臣の位を授ける儀を執り行い、明日、都に上げって行こう、」と言われた。

そして、その山の口に滞在し、仮宮を造り、にわかに嘘の大嘗祭の酒宴を催しされた。その隼人に大臣に位を授けて、多くの官人たちを曽婆加里に対して敬礼をさせになられた。隼人は喜んで,願望がかなったと思った。

水歯別命は、その隼人に「今日は大臣と共に一つ杯の酒を飲もう」と言われた。

その一緒に飲もうと言われた時には、顔面が隠れてしまうほどの杯に水歯別命にさし上げる御酒を入れた。

そして、水歯別命はまず飲みになり、隼人がその次に飲んだ。そして、その隼人が飲む前に、大盃が顔面をいっぱいに覆った。

その時に敷物の下に隠してある剣を取って隼人の首を斬りになられた。翌日には、そこから石上宮に向けて発たれた。

それでその地名を名付けて近飛鳥と言う。大和に上げって行かれて「今日はここに留まり、禊をし、穢れを払い清めて、明日参上して、神宮を拝もう」と言われた。

そこでそこの地を名付けて遠飛鳥と名付けられた。そこから石上神宮に参上して天皇に「仰せの任務は全部平定してまいりましたので参上いたしました。」と申し上げた。

そこで天皇は水歯別命を宮の中に呼び寄せて、語り合われた。

天皇はここの石上宮(いそのかみみや)において、阿知直を改めて任命し、田地を与えた。また天皇の御世に若桜部臣らに若桜部の名を授け、比売陀君らに姓を下された。比売陀君(ひめだきみ)に、磐余部を定められた。

天皇の御寿命は六十四歳。御陵は百舌鳥にある。●


☆水歯別命と曽婆訶里の神話・石上神宮に入られた天皇は、疑心暗鬼になられ、弟のミヅハワケノ命(反正天皇)が参上したが、謁見を申し出た。ところが天皇の言われるに「もしやあなたはスミノエナカツ王と同じ仲間ではあるまいか、だから会うことはできない」と言われた。

ミズハワケノ命は「私は反逆の心は持っておりません、スミノエナカツ王と同じではありません」と答えた。天皇は「それならば今すぐ難波に宮に下ってスミノエナカツ王を殺して戻っておいで、その時には合おう」と言われた。

そこでミズハワケノ命は直ぐに難波に引き返し、スミノエナカツ王に仕える隼人のソバカリを騙し「もしお前が私の言葉従えば、私が天皇になればお前を大臣にして天下を治めよう」と言われた。

ソバカリはすぐさま「仰せの通りにいたします」と答えた。そこでミズハワケノ命は隼人に多くの品物を与えられ、「それならばお前の主君を殺せ」と言われた。

そこでソバカリは自分の主人スミノエナカ王が厠に入っている時に、ひそかに潜んで矛で刺して殺した。

ミズハワケノ命はソバカリを連れて大和に向かわれた。大坂の山の入り口に着かれた時に考えられた。

“ソバカリは私のために大きな手柄を立てが、自分の主人を殺した大罪を犯した、それは人の道に背くことだ。だがその功績に報わなければ信義に反する。約束を守れば心情が恐ろしい、それより当人を亡き者にしよう”と思われた。

そこで一計を案じ、「まずお前に位を授けよう」と仮宮殿を作り、にわか作りの酒宴を設けた。隼人は「自分の願いがかなったと」と思いこませ油断させて「杯を酌み交わした。ミズハワケノ命が飲んだ後の杯を隼人に与えられた。

隼人が盃を腕が覆った時に、命の敷物の下から剣を出し、ソバカリ隼人の首を斬られた。

そして翌日大和に上がられ、天皇に謁見し事の次第を告げ、「御命令は終え、平定をしてまいりました」と申し上げ、話をされた。

厠で殺されるは、一番不用心である場所で、気を付けなければ討たれる説話は古来多い。倭健は兄を厠で握りつぶした。

幾ら論功行賞の為にとはいえ主君を出世の為にたやすく打つ者はきっと後々には自分も裏切られるに違いがない。そんな思いでミズハケノ命は考えたのであろう。

この説話に近い主人を討てば必ず取り立てる約束の伝説は日本の戦国時代などに見受けられる。

☆墨江中王の叛乱は落着した。今回の争いは弟ではなく兄の正統性が語られて、履中天皇の勝利に終わった。

この中で「近飛鳥と遠飛鳥」の地名の由来が解かれている。遠飛鳥は今の奈良県高市郡明日香村付近。近飛鳥は大阪府羽曳野市飛鳥を挿している。

この中で悪役のソバカリは隼人である。九州の先住民族で異民族として扱われている。

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