第27話二十三、沙本毗古(さぼびこ)の反逆の神話

二十三、沙本毗古(さぼびこ)の反逆の神話

●垂仁天皇が、沙本毗売(さぼびめ)を皇后とされた時に、沙本毗売命の兄の沙本毗古王が、異母の妹に尋ね「夫と兄とどちらを愛おしく思っているか」と言った。

妹は答えて「兄さんが愛おしい」と答えた。

すると沙本毗古王は、たくらみ事を謀って「そなたが誠に私を愛しているなら、私と二人で天下を治めようではないか」と言って、鋭利な紐小刀を作り、それを妹に与え「この小刀で天皇が寝ている所を刺し殺せ」と言った。

そんな謀反のことを知らずに、天皇は皇后の膝を枕に眠っておられた。皇后は小刀で天皇の首を刺そうとし、三度振りかざしたが、どうしても刺せず、悲しみに心が耐えられず、涙が天皇の顔にこぼれ落ちた。

天皇は驚き目覚めて立ち上がって、皇后に問われた「我は不思議な夢を見た、沙本の方から激しい雨が降って、急に我が顔面に濡らした。また錦色の子蛇が我首に巻き付いた。このような夢は何の兆候なのか」と言われた。

最早皇后は申し開きが出来ないと思って、天皇に申し上げた「私の兄の沙本毗古王は、私に『夫と私とどちらが愛おしいか』と尋ねました。

面と向かって兄には勝てませんでした。わたしは「兄が愛おしいかも」と答えました。「そなたと天下を治めようと、そして天皇を殺せと」と言って鍛えぬかれた鋭利な紐小刀を私に与えました。そのような経緯で天皇を刺そうと思いましたが、どうしても刺せませんでした。

三度振りかざして、悲しみで涙がこぼれ落ち、お顔を濡らしました」と告白した。

そこで天皇は「我が、いま少しの所で欺かれるとこだったなー」と言われ、軍を起こして沙本毗古王を撃とうとされた。

その王は稲城を作って迎え撃った。その時に沙本毗売命は、兄を思う気持ちで耐えられず、宮廷の裏門から逃げ出し、兄の稲城に入った。

この時すでに皇后は身籠っていた。

天皇は、皇后が身籠っていることと、皇后を寵愛すること三年に及んでいたので、思いに耐えられなかった、そこで天皇は軍勢を稲城に包囲させたまま、攻めるのを躊躇された。

この対峙の間に、皇后は妊娠中の御子を産まれた。

そこでその御子を差出、城外に置き、天皇に申し上げた。

「もしこの御子が、天皇の御子とお思いであるなら引き取り育てください」申した。

天皇は皇后の兄を恨んではいるが、皇后への愛しい思いは耐えられないと言われた。

やはり皇后を取り戻したい思いがあって、軍人で敏捷で力強い兵を集めて「その御子を受け取る際に、母后も一緒に奪い取れ、髪であれ、どこでも掴めるものがあれば掴め稲城外に引っ張り出せ」と命じられた。

所が皇后も夫、天皇の心の内を見抜いていて、自分の髪を反り落とし、剃った髪を束ね直し、頭に飾り付けた。腕輪もすぐに外せるように工夫を凝らし、衣装も腐食させ、このように表面上は変わりない衣装で、御子を抱いて城外に差し出した。

即座に強力の兵士が、その御子を抱き取ると、一緒に母君を摑まえた。

そして髪を握るとポロリと落ち、手を摘まむと、腕輪の玉の糸も切れ、着物を掴むと、着物は破けて、結局の所、母君は得られなかった。

それを聞いた天皇は腕輪の玉を作った、玉作りたちの土地をすべて取り上げてしまわれた。

その後の諺に「土地を持てない玉作」と言う。

天皇は引き取った御子の名を母親が命名するのをどうすれば良いかと、皇后に尋ねられた。

皇后は答えて「今まさに稲城が焼かれる時に生れましたので、御名は「本牟智和気御子と名付けましょう。」天皇は皇后に聞き直した。

「どのように育てるべきか」皇后は答えて「乳母を決め、大湯坐・若湯坐を定め養育をすればよろしゅうございます。」と答えた。

天皇は問い返した「お前が結び固めた下紐は誰が解くのか」

皇后は「丹波の比古多々湏美智宇斯王(ひこたすみちうしみこ)の娘、名を兄比売・弟比売の二人の女王は清く行いの良い民であります。どうぞお召入れなさい」と申し上げた。

それから天皇は沙本毗古王を殺しになり、その後妹の皇后も死を共にした。●


☆沙本毗古の反逆の説話・この説話の場面は禁断の恋、兄妹愛に妹は兄に思いを寄せて最後まで愛情を貫き通す説話で、残された御子が次の場面で物語を作って行く話である。

垂仁天皇の后サホビメとしていた時に、兄サボビコが訪れて来て、この兄と夫である天皇とどちらが愛おしいと、尋ねた。

そこで皇后は兄上の方が愛おしく思いますと答えた。それを聞くと、兄が妹に天皇を殺害し計画し、鋭く鍛え上げた紐付き小刀を渡し、天皇の寝ている間に刺すように指示をした。ところが皇后は三度も振り上げたが、どうしての刺せない、いつの間にか涙が出て、天皇の顔にこぼれて落ちた。

天皇は悪夢でも見たのか目が覚めて見ると、皇后はこれ以上隠しきれないと、事の全てを打ち明けた。

危うくだまし討ちに遭う所と言われ、軍勢を出して討伐をされた。一方サホビコノ王は稲城を作り、応戦の用意をした。皇后は兄への思慕の念で宮廷から抜け出し、稲城の、裏門から入った。この時には皇后は天皇の御子を妊娠していた。そこで天皇は三年間暮らして寵愛していたので、皇后を直ぐには攻めず様子を見ていた所、御子を出産された。

后サホビメ奪還の作戦は中々込み入っている。出産したサホビメも御子も一緒に奪い取る手法で力持ちで敏捷(ぶんしょう)なものを選び御子を引き取ると見せかけて皇后サホビメも稲城の門外に引っ張り出せと天皇は支持されたが、前もって天皇の思惑を察知し、サホビメの頭を剃ってカツラの似たもので偽装し、衣装も腕輪の紐も酒で腐食させて正装のように見せかけた出立で、御子を抱いて稲城の門外に出た。

その時すかさず御子を引き寄せる手で一緒に母君も摑まえた。

すると衣装も髪の毛もポロリ、スルリと抜け落ちて、サホビメ皇后を摑まえることが出来なかった。

落城の寸前の御子を養育の方法と、名前のことを尋ねられ、皇后は丹波の比古多々湏美智宇斯王の娘、名を兄比売・弟比売の二人の女王は清く行いの良い民であります。どうぞお召入れなさい」と申し上げた。名前を問うた。「本牟智和気御子」と名付けて兄と共に死んでしまう。

☆沙本毗売命・沙本毘古王は日子坐王の子で、開花天皇の孫にあたる。

☆比古多々湏美智宇斯王はソホビメにとってお母兄にあたる。

☆まるで小説を見るような不倫愛の憎愛、情愛の物語が情緒深く[古事記]にあがかれている。



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