第19話十五、海幸彦・山幸彦の海宮神話(海佐知と山佐知)

十五、海幸彦・山幸彦の海宮神話(海佐知と山佐知)

 ●ホデリ神(海幸彦)は海の魚などを獲って暮らしていた。

またホオリ神(山幸彦)は山の動物などを獲って暮らしていた。

そんなある日の事、海幸彦のホオリ神が山幸彦のホデリ神に向かって

「互いに道具を取替えて山・海の仕事を交換しよう」と提案した。

兄のホオリ神は三度言っても受け容れなかった。

それでも言ってきたので兄のホオリ神(山幸彦)は交換することに同意をされた。

そこでホデリ神は海の道具を持って魚を釣りになった所、一向に魚は釣れず、その上に釣針を海中に無くされてしまった。

互に成果が上がらず、元通り道具を戻そうと兄のホオリ神が言った時「兄さんの釣針では釣れず、釣針を無くしてしまった」と告げられた。

しかし大切な釣針と言って許さず、責め立てた。仕方なく弟のホデリ神は身に付けている大切な十拳の剣を潰し、五百本の釣針にして差し出された。

けれども兄のホオリ神(山幸彦)は受け取らず、釣針千本にしても受けとられなかった。

「あの元の釣針を返せ」と言って許されなかった。

思案と途方に暮れた弟のホデリ神は泣き暮れた。

ある日、海辺に行った時にシオツチ神が来て、「何の分けあって泣いていられるのか」と問われ、ホデリ神は事の次第を打ち明けた。

そこでシオツチ神が「私があなた様に善いように計らいましょう」と言ってシオツチ神は籠の小舟に造った。

その船にホデリ神を乗せると押流し

「しばらくこのままお行きなさい。きっと良い道が有りましょう。そこには魚の鱗(うろこ)のように並び立つ宮殿に着かれるでしょう。宮殿の門に着かれたら近くの井戸の畔のカツラの木の上に来られたら、海の神の娘が来て善きに計らうでしょう」と言った。

ニニギ神はシオツチ神の云う通りに事が進んで行った。

そしてカツラの木の上で下を見ていると、海の神の侍女がやって来て立派な器で水を汲もうとすると、器に映った人影に上を見上げると、端整な青年がいて不思議に思った。

青年のニニギ神は、その侍女を見て「水が欲しい」と言われた。

そこで侍女は水を汲み立派な容器に入れて差し上げた。

すると首飾りの玉を解き口に含み、器に吐き出された。

玉は器にくっついて離れずそのまま、侍女はトヨタマヒメ神に差し出した。

その器を見て侍女に尋ね「誰か門に居るのですか」侍女は事の次第をトヨタマヒメ神に知らせた。

トヨタマヒメ神は不思議に思い、外に出てホデリ神を一目見るなり、目を交わして感じ入り父に申した

「私たちの宮の門の前に立派な青年がいます」そこで海の神が外に出て見るなり

「この方は天孫の御子である大切にもてなすように」父の海の神は伝えた。

宮殿に招き入れて、アシカの皮を幾重にも敷き詰め、その上に太絹の畳を敷きつめてお坐り頂、飾り立てた品々の台上に御馳走を並べて、そこで娘のトヨタマヒメ神に娶せた。

三年半に及ぶまでホデリ神は住まわれた。

 しかし時折ホデリ神はため息をついて何か思い出されている様子に、トヨタマヒメ神は父に溜息の事を知らせた。

「夫は三年余りお住まいですが、時々溜息をなさいますが、何かわけが有っての事でしょうか」と不安げに父に申した。

そこで海の神はホデリ神にその訳を聞かれた。

そこで兄ホオリ神の釣針を無くし、兄から厳しい責めを受けていることの次第を述べられた。

それを聞いた海の神は、海の大小の全ての生き物を集め訪ねて「もしこのような釣針を取った魚がおるか」と尋ねられた。

すると多くの魚が「このごろ喉に小骨が刺る病気に食事が出来ないと困っております」そこで鯛の喉を調べると喉から釣針が出てきた。

その釣針をホデリ神に献上すると大喜び、しかし海の神はホデリ神に教えて渡された。その釣針には呪文が懸けられていて、兄のホオリ神に渡し方の手解きを受けた。

「この釣針は四種類あります、ぼんやり釣針、よろめき釣針、貧乏釣針、うつけ釣針と言って後ろ向きに渡しなさい。また兄さんが田作りで、低い田を作ると言われたら、あなたは高い田を作りなさい。

そうすれば兄さんは三年の内に貧乏になるでしょう。私は水の支配者です。貧乏を恨んで戦いを挑んでくれば、この玉を出せば潮に溺れるでしょう。

憐れ救い請うならば助けてやり「悩ましく苦しめてやりなさい」そこでホデリ神を地上に送り届けることのなった。

そこで全てのワニを集められて「今、天孫の御子を地上に上がられようとしている。誰がどの位の日にちで送り報告できるか」と海神は言った。

それぞれ体格に応じて申す中で一尋ワニが「私なら一日でお送りいたします」と申した。

海の神は「それでは一尋ワニが責任を持って安全に送るように」命じられた。

ホデリ神はそのワニの背に掴まって一日の内に送り届けられた。礼にホデリ神は腰の小刀を与えになり、サヒモチノ神と名付けられた。

帰ってからはホデリ神は、海の神の言われる通り進められた。また海神の言った通りに事が進み、兄のホヲリ神はだんだん貧しくなっていった。

やがて兄は挑発的になって攻撃をしてきたので、言われた通りその時に潮満玉を渡し、溺れた兄は憐れみを請うてきた「今日からあなたを昼も夜も守るものとなってお仕えします」と懇願(こんがん)をしてきた。

説話では、その子孫が九州は隼人であると記されている。●


☆海幸彦と山幸彦の海宮説話は海幸彦(火照命)と山幸彦(火遠理命)兄弟は兄海幸彦は海の魚を捕獲して日々の生業として暮らしていた。弟山幸彦は山で獲物を捕獲して日々の生業として暮らしていた。ある日の事、弟のヒオリが兄のヒデリに海と山の道具を取替え仕事の交替を提案をした。

三度目の提案でやっと承諾をした。そこで兄の釣道具でホオリは魚釣りに専念したが一向に魚が釣れなかった。おまけに大切な釣針を失ってしまった。

兄が戻ってきて「山の獲物も海の獲物も道具があってこそ、元に戻そう」と言ってきた。

兄さんの道具で一尾も釣れず釣針を無くしたことを説明をした。

兄のホデリはこれを許さず責め立てた。弟は十柄の剣を潰し釣針にして弁償したが受けたってもらえず、聞き入れらえなかった。

「あの釣針を返せ」と許されず、浜辺で泣き途方に暮れていると、塩椎神がやって来て、問い尋ねて「何の分けあって泣いているのか」問うた。

兄の釣針を海中に無くしたことを説明をした。

シオツチ神はあなたの良い方に計らいましょう。シオツチ神は元来た目の結んだ加護を作り小舟に乗って、教えて「この船に乗せて押します。その道を行くと、魚の鱗のように並び立つ海宮殿に着くでしょう。そこが綿津見神の宮殿です。そこの門にカツラの木が有って、その木の上がっていられると娘が来て取り計らいましょう」と言った。

しばらくその通りに行くと、シオツチ神の言った通りに木の上で待っていると娘豊玉毗売が来て言葉を交わす内、娘はただの青年ではないと感じ入り、その事を父海の神に「門の前に立派な人がいます」と言った。

そこで海神が「この人は天津日高の御子の虚空津日高おられる」と言って中に案内させて、足かの皮を敷き詰めて太い絹の畳を幾重にも、多くの品々の御馳走を台の上に並べて、また娘のトヨタマ姫を娶わせて三年間も海宮で暮らした。

その後、時々ヒオリ神は思い出してはため息を突く日々に父の海神に話すと父神は「娘が言うに昨夜溜息をつかれるのを聞きましたが何かあるのでしょうか」と尋ねると、そこで兄のヒデリ神の釣針を無くしたことを話しをした。

事の仔細を知った大神は海の魚の大小を集めて「もしこの中で釣針を取ったものがるか」と尋ねられた。

すると魚たちは最近鯛が喉に小骨を突き刺して物が食べられないと心配をしております。

そこで鯛の喉を見ると釣針が出てきて取り出し、ホオリに見せて「この釣針を兄のホデリに見せて、この針はぼんやり針、貧乏針、うつけ針と言って後ろ手で渡しなさい」他に田を作る選択にも低い、高いをを選ばせ水の、大神は支配をしているので必ず貧乏になるように仕組み、それを恨んで戦を仕掛けて来ても潮を満ち溢れる玉を出して溺れさせ、憐れみを請うなら悩ましくしめましょう」と兄のホデリの制裁の方法を授た。

ホオリが暮らしていた国に送る為に一尋のワニに一日の内にお返ししようと元暮らしていた国に帰された。

言われた通りホオリは兄のホデリに釣針を返された。兄のホデリは日々暮らしが貧乏になって行き、潮の溺れた時は助けてやり、額を地に付けて詫び誤った。

「今後、あなた様に昼も夜もお仕え申します」と言った。

この戦いに敗者となったのがヒデリの子孫が九州隼人と言われている。


☆海幸彦・山幸彦と海宮の説話は古来日本にある伝説、民話が点在する物語の原型になったと言える。

また浦島太郎の竜宮城も海宮に似ていて、これも日本の童話などに大きな影響を与え、東南アジアや世界にはこれによく似た伝説が残されている。

しかし『古事記』の海幸彦と山幸彦の説話はなかなか込み入っている。海幸彦のホデリ神と山幸彦のホオリ神の話は結果、弟を正しい生き方として描かれている。邪悪な心のホオリ神は最後は制裁を受ける。

『古事記』の場合より複雑に設定されているので、天孫の紆余曲折を国つ神と天つ神に天上と地上の意味合いを持たせながらの筋書きはまれに見る傑作である。敗者の兄のホヲリ神の子孫が九州は隼人となっている。

少なくとも先住民族の隼人に先祖は壮烈な戦いに敗北した。弟のホデリ神は勝つために強力な協力者がいたと事も考えられる。

勝者が弟で兄が敗者になっているが『古事記』の説話には弟が正当化されているのも特徴である。

この海佐知と山佐知の部分の物語の筋書きが長く解り難い部分で、『古事記』ではさほど重要な部分ではないかもしれないが、日向三代で宮殿と海底の世界とおとぎ話は、中国や東南アジアでの影響から挿入されたか、山の神の大山津見神に対して、海神(わたつみ)の娘の物語など、海と山の生業を登場させている。

海神の国つ神と天孫のニニギ神が婚姻することで融和が図れた。

☆この物語の筋書きは複雑に描かれている。日々の営みを交代を提案をしたホオリの海の漁でうまくが行かず失敗、おまけに大切な釣針を失う。代わりのもにも兄のホデリは許さなかった。途方に暮れた山幸彦は不思議なホオリはシオツチ神に出会って海宮に誘い込まれシオツチ神の娘と結婚する。しかし兄のホデリの釣鉤未だ見つからず、海宮で尋ね捜して鯛の喉に釣針を発見し、それをホデリの許にに持ち帰った。ただし釣針を返す前に呪文をかけてあった。その功が有って兄のホデリ不幸になった話である。

話の展開が海宮のシオツチを巻き込んで、鯛の喉に引っかかった釣針までの展開は古代の話としては優れた説話である。

☆登場者・

◇天孫の迹々芸命と天孫の御子

◇木花之佐久夜毗売は迹々芸命妻の間に生れた御子は三御子、火照命は(海佐知毗古)火遠理命は(山佐知毗古)

◇火照命は=(海佐知毗古)ニニギ神の子、母はコノハナサクヤ神。弟のホオリ神と幸を変えて、屈服し俳人(わさびと)として宮廷の宮門の守護になった。隼人の始祖とされている。

◇火遠理命=は天孫御子(山佐知毗古)別名虚空津日高

◇塩椎神=海の神、海彦・山彦の登場する。神武天皇が東方に統治に適した土地と奉じた神。

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