第13話九、「大国主神の試練の説話」
九、「大国主神の試練の説話」
●オオクヌシ神の意中のヤカミヒメを娶ること知った大勢の八十神の神々はオオクニヌシ神を殺そうと計画、伯岐国(ほうきのくに)の手間の山にオオクニヌシ神を連れて行き「この山に赤い猪がいる。我らが上から追い落とすので下で待ち受けて捕えよ、もし捕えなければお前を殺す」と言って、大きな石を火に焼き転がり落とした。
この時オオクニヌシ神は知らずに焼かれて熱を持った石を捕えて火傷で死んでしまった。
これを知った御母は声を上げ悲しん直ちに天上界に参上しカンムスヒノ神にお願いを申し上げた。するとキサカイヒメとウムカイヒメ(貝の神)を遣わして貝の粉を集め、自信の貝殻に入れて貝汁に入れオオクニヌシの体に塗って復活をさせた。
その後また多くの神々がオオクニヌシ神を騙して山に連れ去り大木の隙間に押し込めて押しつぶし殺してしまった。
これを知った母神は鳴きながら探し当て木を裂き救い出した。
母神はオオクニヌシ神に向かって「お前がここにいると大勢の神々に殺されてしまうでしょう」と言って、紀伊国のオオヤビコ神の元に人目を避けて行かせた。
母親の情愛でオオクニヌシ神は助けられた。所が途中大勢の神々の追手が迫ってきた。
そこでオオヤビコ神が木の俣の下を抜けさせて逃がしてやろうとオオクニヌシ神に「スサノヲ神の居る根之堅洲国に向かえば旨く取り計らってくれるでしょう」言った。
そこでオオクニヌシ神はスサノヲ神の許に行った所、その娘スセリビメが出てきて目と目とを合わせただけ一目ぼれになってしまった。
直ぐに結婚を言い交わし父に申した「たいそう立派な神が来ています」そこで大神は言うに「葦原色許男命(オオクニヌシ神)と言う神だ」直ぐに呼び入れて蛇の部屋に案内させた。
そこで妻になったスセリヒメは「部屋で蛇が噛みついたらこの領巾(魔物を払う布)を与えた。お蔭で蛇は静まり返り、その次の日の夜夷には蜈蚣と蜂の部屋に入れられたが領巾で振り払った。
次にスサノヲ神はオオクニヌシ神に鏑矢を野に放ち、この矢を捜し取ってくること命じた。その野に火をかけられて焼野原に逃げ惑うオオクニヌシ神に鼠が現れ「内はほらほら、外はすぶすぶ、外側はきゅーとすぼまっておる」と教えられ、その場所を踏み込むと小さな入り口から中は洞窟状の穴に落ちた。
そこに潜んでいるうちに、火はその上を通り過ぎ、鼠は鏑矢をくわえ持ってきてくれた。
おかげで鏑矢をオオクニヌシ神は献上をした。
夫が死んだと思いこんだ妻のスセリヒメは葬儀の用意をしながら大泣きをして野に出て見ると、オオクニヌシ神が鏑矢を持って現れてスサノヲ神に持参した。
今度はスサノヲ神の家に連れて行き頭の虱を取らせた。頭には沢山の蜈蚣がいて妻のスセリヒメは椋の木の実と赤土を夫に与えた。オオクニヌシ神は実と赤土を口に含みつばと共に吐き出すと、スサノヲ神は蜈蚣を噛み砕いて出していると勘違いをして、可愛い奴と思って寝てしまわれた。
その寝ている間にスサノヲ神の髪の毛を軒の幾本かの垂木に結び付け、五百人力でも動かせない大岩を部屋の戸口を塞がれた。
急いで妻を背負い、スサノヲ神の太刀、弓矢、天の沼琴を持って一目散に逃げられた。
気づいたスサノヲ神は葦原中国の境の黄泉比良坂まで追いかけてこられ「お前の持っている太刀、弓矢でお前の異母兄弟神を坂の尾根に追い伏せ、河の瀬に追い払い、お前が大国主神と成って、わが娘のスセリヒメを妻として、宇迦の山の麓に地中深く柱を立て、棟の千木を空高く建てて住め、こいつめが」と言われた。
スサノヲ神がオオクニヌシ神に与えた試練は愛情のこもった試練で、独り立ちさせる親の恩愛がにじみ出るものであった。
その度に母に妻に肉親の愛情で苦難を乗り越えることが出来た。
オオクニヌシ神の境遇には悪しき兄弟の神々を振り払って、逃げなければならなかった。
オオクニヌシ神はその太刀と弓矢で悪き神々を追い落とし、坂の尾根に追い伏せ、河の瀬を追い払って、国造りをされたと言う。
イザナミ神は夫のイザナキ神の願いも適わず黄泉の国から帰還はできなかったが、オオクニヌシ神は母の願いによって聞き入れられた。●
☆八十神の逆襲と大穴牟遅神の再生の説話・
オオクニヌシの説話はオオクニヌシの母の情愛と、根之堅洲国の試練を前篇の黄泉の国とは違った様子が描かれていて、黄泉の国との混同されるが違った描写になっている。
オオクニヌシには宿命的兄弟として八十神とは切り離すことが出来ない。結婚相手のスセリヒメとの争奪合戦で敗れた神々は容赦のなく追撃の手を緩めない。
稻羽の素兎後、八十神は快く思わず、オオクニヌシ神を殺そうと企てる。伯岐国(伯耆国)の手間の山の麓につれて行き「赤い猪がこの山にいる、我らが猪を追い下すので、「お前は下で待ち受けて捕まえろ。もしお前が待ち受け捕えられないなら、お前を殺す」猪に似た大きい石を火で焼いて、転がり落とした。大穴牟遅神は火に焼かれた石を捕えて焼きつかれて死んでしまった。
オオクニヌシ神の御母は声を上げ泣いて悲しみ、天上界の神産巣日之命に助けを求めた。天上界から二人の神キサカイヒメとウムカイヒメを遣わし二神の貝女神の身を削り、貝汁を練り合わせ、母乳のようにしてオオクニヌシ神に塗った所、見事に蘇生し甦った。
☆根の堅洲国(試練)の世界
大穴牟遅神は八十神の迫害に母神の救いの手に一生を得た。復活をした大穴牟遅神を見て八十神たちは、次の手口は旨く山に誘い込み切り倒した大きな樹にヒメ矢と言う楔を打ち込み、そこに出来た隙間にオオクニヌシ遅神を入らせるとヒメ矢を打ち外し叩き潰してしまった。
この時の母神はオオクニヌシ神を見つけ出し、木を裂き中から助け出した。そこで「お前はここにいると、終には殺されてしまうでしょう」と言って紀伊国に大屋毗古神(おおやびこかみ)の元に人目を避けて行かせた。
所が八十神たちは、何処までも追いかけてきて、大屋毗古神のもとにやって来て、引き渡すように押し寄せてきた。
大屋毗古神はオオクニヌシ神を密かに木の俣をくぐらせ「須佐之男神の居られる根の堅洲国に向かいなさい、きっと大神は取り計らってくるでしょう」と逃してくれた。
オオクニヌシ神がスサノヲ命の御許に行くと、その娘湏勢理比売が出てきてオオクニヌシ遅神と目を合わせ、一目見ただけで結婚を言い交わした。娘は父神に「たいそう立派な男が来ております」と告げた。
父神は「これは葦原色許男命(大穴牟遅神)と言う神だ」と言って蛇の室に招き入れた。
そこで妻の湏勢理比売命は蛇の領巾を渡し「室の蛇が噛みつけばこの領巾を三度振って下さい」言われるようにすると蛇は静かになった。
次の日の夜は、蜈蚣(むかで)と蜂の室に入れられた。妻のスセリビメは蜈蚣と蜂の領巾を与えこれを防がれた。次にスサノヲ命は鏑矢を大きな野の中に射込んで、その矢をオオクニヌシ神に持ってこさせた。
そこで野に入った時に、火を掛けると逃げ場を失ったオオクニヌシ神は鼠がやって来て「内はほらほら、外はすぶすぶ」内は穴が開き外は狭くなった洞窟状の穴に落ち、隠れている間に火の上を通り過ぎ助かった。すると鼠がやって来てあの鏑矢をくわえ持ってきたのを大オオクニヌシ神はスサノオ命に献上した。
夫がすっかり死んだと思っていた妻は、葬儀の支度をし、大声で鳴いている所に大穴牟遅神が現れた。
今度はスサノヲ命に柱の多くある部屋に入れられた。
そこで頭の虱を取らせた、ふと頭を見ると蜈蚣が群がっていていた。それを見た妻のスセリビメは椋の木の実と赤土を取って来て夫のオオクニヌシ神に渡した。
すると椋の実の皮をかじり、赤土と一緒に口に含み吐き出すと大神は勘違いされ蜈蚣を砕いているものと思い、可愛いやつ思って寝てしまわれた。
それを見てスサノヲ命の髪を掴んで屋根の棟木の椽(たるき)に結び付け、入り口に大岩を塞ぎ、妻のスセリビメを背負い、さらにスサノヲ命の武器を持って逃げられた、その時に天の沼矛が触れて太地が振るわんばかりに鳴り響き、スサノヲ命が目をさまし、椽に結ばれた髪を解く間に遠くに逃げられた。
スサノヲ命は葦原中国との境界線の黄泉比良坂まで追いかけて行き、遥か遠く坂の上を見上げて、大穴牟遅神に呼びかけた「お前が持っている生大刀と生弓矢で、お前の異母兄弟(八十神)大勢の神どもを、板の尾根に追い伏せ、また河の瀬に追い払って、お前が大国主神となって都志国主神となって、その娘湏勢理毗売(すさりひめ)を正妻として、宇迦の山の麓に、地中の岩盤に宮殿に柱を太く立て、棟には千木を空高く立てて住むがよい。こいつめ」と言われた。
大主国命のあの因幡の八上比売は、約束通り大穴牟遅命と結婚したが、正妻の湏勢理毗売を恐れて、自分の生んだ子を、木の俣に刺し込んで置いて稲羽の国に帰ってしまった。
スサノヲ神も息子神のオオクニヌシ神を国つ神として、出雲の国の未来を託す期待感と満足感と安堵であったろう。
☆オオクニシの妻と母親の献身的な助けによって、この厳しい試練を乗り越えられた。木の神紀州の大屋毗古神の支援を得て、また鼠までオオクニヌシまでてきて助ける。大国主神が鼠に助けられてた。鼠はその事によって良い大黒さんとは関係が残されている。オオクニヌシもスサノヲの試練から逃れるに策略を講じて難を越えることが出来た説話も面白くさせている。
◎根之堅洲国の試練はスサノヲが我子のオオクニヌシへの試練によて国作り神としての資格を認めたもので、スサノヲの後継者としてのお墨付きを当てたものとして、情愛の有る試練の場面である。
また根之堅洲国の入り口として出雲の国の比良坂まで追いかけてくる場面は、黄泉の国と同一視される所以であるが、あくまでも黄泉の国は死後の世界と考えた方が理屈に合い、根之堅洲国は地底の国ととらえた方が理解がし易い。そして根之堅洲国の主がスサノヲと考え、今もスサノヲが地底の国に住み続けているとすれば時限を超えて存在している。
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