第15話「偽チャンプの正体」
古き神々の居城は今、
その中からは、絶え間なく
王国のはずれにある、魔王軍との戦争には全く関係のないダンジョン……
イオタは巨大過ぎる城門の前で、愛車のCR-Zを止めて降りた。
周囲には、沢山の
「あの、すみません……チャンプの偽物を探してるんですが」
いきなりの直球、一気に核心を
周囲の男達は、誰もが目元を険しくして振り返った。露骨に恐怖をあおるような殺気に、イオタは表面上だけは平静を取り繕う。
高圧的な態度を前にしても、取り乱してはいけない。
ただ、まずはバトルしたいのだ。
そして、立証したい……
リトナの心の傷は消えないかも知れない。
でも、彼女に寄り添うためにも、イオタはバトルをする必要があった。
「あァ!?
「偽物だあ? おうコラ、寝言は寝て言えよ? それともなんだ、寝るか? 永眠しちゃうか?」
「どこのガキだか知らねえが、天下のチャンプが率いるギルド、我らがスカイライナーズに喧嘩売ったんだ……ただで帰れると思うなよ?」
――スカイライナーズ。
それがここ、神代ノ巨人城を不法に専有する男達のギルドだ。そして、その頭目は
だが、それはもう嘘だとわかっている。
正体不明の一匹狼、決して名乗らず顔も見せないチャンプ……そんな孤高の
それでも、誰もが誇れる最強の
そして、そんな彼の名を
その時、背後で
「いいから、ほら! 偽チャンプを出せって言ってるの。それともなに? 実際は似てないから、見せられない? 同じ
振り向くとそこには、相変わらず白い肌も
だが、彼女は言葉を切る都度饅頭を頬張りながら、言葉を続けた。
「いいからこの子をチャンプに会わせなさい? アンタ達じゃ話にならないわ」
カレラの手に、バチバチと青い
彼女は
彼女のあどけない童顔に、鋭いナイフのような眼光が
イオタは隣に立つカレラへと、わずかに声を
「カレラさん、強硬手段はまだいいです……自重してくださいよ」
「単なる
「それでもです、カレラさん。まともじゃない連中のために、カレラさんまでまともじゃなくなる必要はないですから」
「……言うわね、フン。ま、いいわ。キミの言う通りだし」
少し照れたように、カレラは魔法の術式処理をやめた。その
ギルド名をスカイライナーズと名乗った連中は、いよいよ
白々しい拍手が響いたのは、まさにそんな時だった。
「お前等、いいじゃねえか……俺ぁ勇気ある奴は嫌いじゃないぜ。世間の勇者様より、よっぽど勇気がいることだからな。このオレに逆らうことは」
誰もが道を譲る中、奥から黒い
確かに黒いGT-Rだ。
その圧倒的な存在感は、偽物とわかっていてもイオタを圧してくる。
そして、やはり
眼の前で唸る
そして、R35はスカイラインの名を脱ぎ捨てた、全く新しいGT-Rである。
そのポテンシャルは、カタログスペックを思い出すだけでも身震いものだ。
イオタがゴクリと緊張に
「小僧……ワシを悪魔王サタンと知っての挑戦かぁ?
しゃがれた声で、腰の曲がった老人のような悪魔だ。しかし、その背には左右に大きな翼が広がっている。
そして、サタンを自称するこの悪魔の正体を、イオタの相棒が看破する。
CR-Zの中から浮かび上がったルシファーは、真っ直ぐ自称サタンを
「お久しぶりですね、メフィストフェレス。私のことを覚えていますか?」
「っ……! な、なな、なっ、なんの話だ? ワシはサタン、そう……お前の、ルシファーの半身たるサタンだ」
「マスター、あの
「ちっ、違う! ワシは……ワシはサタン! この男、カイエンの
黒いGT-Rの龍操者は、恰幅のいいバンダナ頭の男だ。背格好は巨漢といっていい逞しさで、舌打ちを零す顔つきは肉食獣のような野性味に溢れている。
そして、イオタはギラつく眼光を受け止め驚いた。
「あ……俺と同じ、日本人? だよね?」
「ああァ!? それがどうしたよ。今どき珍しくねーだろ、転移させられた奴なんざよ」
「
「そうだよ! そして断った。なんで見ず知らずの時代にきて、命がけで戦わなきゃいけねえんだよ。……こんな
顔つきや、バンダナから覗く黒い髪……間違いない、同じ日本人だ。それも、同じ時代から来た人間である。カイエンと呼ばれた青年もまた、イオタと同じ『勇者としての第二の人生を選ばなかった男』のようである。
型式の違うGT-R、自称サタンの
やはり、彼はチャンプの名を騙る偽物で間違いない。
カイエンが一睨みすると、怯えたようにメフィストフェレスは消えてしまった。
相棒、仲間と言う者もいれば、魔力供給の道具、
イオタは慎重に言葉を選びつつ、真っ直ぐカイエンの目を見て問い質した。
「
「はぁ? お前……バッ、カじゃねぇの!」
「バカ、ですかね」
「ああ! ……ここは剣と魔法のファンタジーなんだぜ? そう、言うなれば……力こそが、パワー! 弱肉強食の野蛮な世界なんだ。やりたい放題やって、なにが悪い!」
完全に開き直っている。
そして、周囲のギルドメンバーから「そうだそうだ!」「俺等の勝手だぜ!」と声があがる。集団に鳴ると声が大きくなる、主張が強くなるタイプの人間ばかり集まっているようだ。
同じ時代、同じ国から来た人間として、イオタは恥ずかしかった。
確かにこの時代は、魔王と戦う百年戦争の真っ只中だ。だが、皆が平和を夢見ているし、そのために戦っている勇者や軍隊、騎士団がいる。突然訳もなく召喚されたイオタ達には、選択肢が与えられた。勇者になるか
「ふぅん、言うじゃない……悪かったわね、野蛮な時代で」
鋭く
振り向けば、フラットな表情を凍らせたカレラが歩み出ていた。その目は、凛々しい
決然とした怒りが見て取れた。
遠い過去、旧世紀からの異邦人であるカイエンに、彼女は侮辱されたのだ。
自分の住む世界、必死で魔王に
それは、誇り高いハイエルフのカレラには、許しがたい言葉だったに違いない。
彼女は
「その野蛮な時代に来て、野蛮極まる暴走行為を繰り返してるのは誰かしら?」
「ん? お前……ま、まさか本当に
「そうよ、私はカレラ。チャンプの顔は見たことないけど、貴方じゃないことだけは確かね。そうでしょ? 偽物さん」
「……へへ、
その上で、イオタに変わって挑戦状を叩き付けた。
「カイエン、だっけ? バトルしてもらうわ。こっちの彼……イオタと」
「はぁ? 俺がか? Rで? ……このCR-Zとか?」
「そうよ。彼は、そう……家族。家族のために、貴方に勝たなきゃいけないの。貴方の走りを、真正面から走りで否定しなきゃ、前に進めない子がいるんだから」
意外にも、カレラは全てを察してくれていた。
そのことが純粋に驚きで、同時に何故か少し嬉しい。
同じスピードの領域を走る者同士、どこか気心置けない親しみを感じてはいた。だが、相手は
そのカレラは、言葉を失うカイエンをよそに振り返る。
「やるでしょ? イオタ。……私達には法も
イオタは大きく
だが……バトルを了承したカイエンは、とんでもない条件をつけてきた。
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