第3話
「え?なんで。」
そこにいたのは、中学の時に1番と言っていいほど仲の良かった田中景太だった。高校では別々になってしまったが、確かにこの桜ノ上高校ではなかった。僕の反応は間違ってはなかった。景太のほうは、驚いた表情に加え、見られてはいけないものを見られた感じの態度をとっていた。それもそうだ。景太は中学の時、バスケ部のキャプテンのスポーツマンだった。たしかに仲は良かったが僕とは対照的な人間でもあった。それだけにここにいることは全く僕には想像なんてできなかった。
「草汰…久しぶり…」
「久しぶり。」
やはり、気まずそうだ。ケンカしたとかは全くないのだが、気まずそうな景太につられて僕もつい気まずそうに返事をしてしまった。そのため、他人からは2人の間に何かあったかのようにしか見えなかっただろう。まずは、その誤解を解くために僕は景太の隣の席に座った。
「まさか、景太がここにきてるなんてね。」
「うっせぇー。草汰には言っていなかったが、俺は中学の時からいわゆるアニメオタクだったんだ。」
「え?僕は景太とそのジャンルの話はしても伝わらないって思って触れなかったんだよ。」
「俺をオタクの道に示したのは紛れもなく草汰。お前だよ。」
景太は語った。僕の知らなかった景太の努力と苦難を。
「俺は草汰といい友達関係を築いていたと思っている。だか、いつも草汰は俺の話を聞いているだけで自分から話すことはあんまりなかった。特に草汰の好きなものに関しては。だから、俺はお前と楽しく語り合えるようになるために、草汰の好きそうなアニメを見始めたんだよ。だけど、草汰は受験に集中するためと言って俺と離れた。それが原因でアニメを見ることをやめたんだ。」
「そうだったんだ。」
「だか、高校に入ってまたアニメを見始めたらアニメを作りたいと思い始めてこの高校に転校することにしたんだ。」
僕は本当に知らなかった。わかってあげたかった。ずっと景太を苦しめてたのか。過去の自分への怒りを持ちながらも、景太はそんな感情を抱いていた訳ではないようだった。
「それにしても、ここは草汰にとってとても良いところだよな。」
「そうかなー。ありがとうとでも言っておくよ。」
昔話を終えふつうの会話を始めた途端チャイムが鳴って授業が始まった。この桜ノ上高校での初の授業。しかし、僕たちの会話は止むことを知らなかった。
「秋原!田中!静かにしろ!!」
「すいませーん。」「すいませーん。」
こんな最悪な初授業ではあったが、その後は楽しい授業を受けることができた。そして僕は下校時間になり数時間ぶりにあの沙耶と会うことができる。校門前で1人で待ってないかなーという願望を持って帰ろうとしたとき、僕は先生を呼ばれた。
「おーい、秋原。申し訳ないんだけど、このプリントを隣の家のやつに渡してくれないか?」
「隣の人…」
「あー、桜井ってやつだ。あいつ去年の卒業式後から休んでてさ。」
「春音のことですか?あ、わかりました。」
僕は驚いた。今日はいつにも増して驚いていることが多い日だよな。まさか、春音までこの高校だったとは。
「ごめん。沙耶。」
「大丈夫だよ。それにしても何してたの?」
「このプリントを春音にだってさ。それにしても春音もこの高校だったんだな。」
「そうなんだけど…」
「?」
沙耶の反応を見ても何かを抱えて学校に来れなくなったことを僕は察した。
「春音のことは、帰ってから詳しく話すわね。彼女と共に。」
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