寸劇(“もふもふと鋼鉄人形Ⅱ”の幕間の物語)

2機目のリナリア・シュヴァルツリッター

 ブレイバが旅立ってから二か月後。

 俺は、「ブレイバの12歳の誕生日プレゼント」をくれた人間に、会いに行く事になった。


「おや、来たのか。ようこそ、『黒騎士』の父親ことハーゲン少佐」

「お邪魔します、ドクター・ノイベルト」


 そう。

 かつての俺と同様の境遇を迎えている、この男――ドクター・ノイベルトの有するラボに。


「こんなところで立ち話もなんだ。ついてきたまえ」


 ドクターは俺の返事も待たず、カツカツと歩き始めた。


(やれやれ、せっかちだな)


 俺は内心で嘆息しながら、ドクターの後に続いた。


     *


「単刀直入に言おう。少佐が授かったリナリアを、ご子息の“誕生日プレゼント”と同じ仕様にしたい」

「それは……」


 驚愕するしかない申し出だった。


 ブレイバとの鍛錬で、あの機体化け物の性能は嫌という程味わわされたが、まさか――


「しかし、先代の皇帝陛下より賜ったものを――」

「まあ聞いてほしい、少佐」


 俺の意思にも構わず、ドクターは話を続ける。


「私はね、動乱の予感を感じているんだ。首都ラメルにいる私の知り合いが、『最近はいやに忙しい』との手紙を送ってきてね」


 確かに、帝国を襲うテロリズム自体は発生した。


 しかし……。


「それは18年前の話じゃ、ありませんか?」

「甘いよ少佐。帝国最強の操縦士ドールマスターともあろうお方が」


 ドクターの言葉に違和感を禁じ得なかったが、ぐっと堪える。まさか、ただ俺を怒らせる為だけに発言したとも思えない。


「それで私は、知り合いに探りを入れたのさ。するとこんな言葉が返って来た」


 ドクターが言葉を止めると同時に、空気が硬直する。俺は思わず、唾を飲み込んだ。


「『貼り付けられた菩提樹の葉の下の皮膚に、刃を突き立てられた』と」


 ……。

 一瞬、俺の思考は完全に硬直した。


「……!」


 しかし、言外の意味に気づいた。気づいてしまった。


「それは……!」


「ああ。帝国が危機に瀕しつつある、という事だ」


「……ッ」


 俺は逡巡した。

 俺の名誉を回復してくれた先帝と、ネーゼ様の微笑みが、同時に脳裏をよぎる。


 先帝の意思を無下には出来ない。

 しかし、ネーゼ様の治める今のアルマ帝国が踏みにじられようとするさまを、ただ見続けたくもない。


(俺は……)


 何故だろうか。

 無性に、リナリアを見たくなった。


「ドクター」

「何だ?」

「少しだけ、席を外させていただきたい」

「ああ」


 意外にも、ドクターはあっさりと俺の願いを叶えてくれた。


     *


 駐機場に来た俺は、リナリアの頭部をじっと見つめていた。


 細身な体に、女性を思わせる優雅な頭部。


(……)


 何故だか、ネーゼ様と重なって見えた。


(……!)


 俺はリナリアの目を見つめていた。


 その時、何かをリナリアから訴えられた気がした。


(そういう、事か)


 そう。


 リナリアは、リナリアの目は――


「帝国を助けて、ハーゲン」


 と訴えているように聞こえた。


 


「……ええ」


 リナリアの美しい、けれどもの哀しげな目を見た俺には、最早躊躇いは無かった。


「帝国に仕える一人の軍人として、かつての貴女の恋人として――その願い、聞き届けました」


 俺はリナリアの前で跪きながら、承服の言葉を告げた。


 そして立ち上がると、俺はドクターの元に戻った。


     *


「ドクター。お願いします」


 戻って早々、俺はドクターの申し出を受ける意思がある事を告げた。


「いいだろう。その間は、私のゼクローザスを貸与しよう」


 ドクターに案内される道すがら、漆黒の機体を見つめた。目の部分が盛り上がった機体だった。


「それじゃないさ。それを貸してもいいが、慣れた機体がいいだろう?」


 ドクターが優しく、俺を諭す。


「少佐、当分はこれに乗りなよ」


 そこには――純白のゼクローザスがいた。


「一か月で終えてみせるさ。少佐のリナリア、大切に預からせてもらうよ」

「はい、ドクター」


 こうして俺は、純白のゼクローザスでいるべき場所へと帰った。


     *


 一か月後。


 ドクターに呼ばれた俺は、純白のゼクローザスを駆って一目散にラボへ向かった。


「いよいよお前ともお別れだな。短い間だったけど、世話になった」


 俺はドクターのラボに到着すると、純白のゼクローザスに別れを告げた。


「少佐か。待っていたよ」


 ドクターの元に向かうと、巨大なカーテンを掛けられた機体の前に案内された。


「さあ、いよいよリナリアを返す時だ」


 ドクターがスイッチを押すと、カーテンがバサリと音を立てて床に落ちた。


「これは――」


 俺は生まれ変わったリナリアの姿に、驚愕していた。


「そうだ。これこそが少佐のご子息の愛機……“リナリア・シュヴァルツリッター”の二号機だよ」


 面構えこそリナリアの優美な面影を残していたが、姿は完全に変わっていた。


 純白だった機体は、漆黒の追加装甲に包まれていたのだ。


「外見をいくら言っても、私にとっては意味が無い。乗りなよ、少佐」


「ああ」


 俺はリナリア――いや、リナリア・シュヴァルツリッターに乗る。


(!? 何だ、このコクピットは……!)


 見える箇所だけではあるが、恐らく曲面を描いているコクピットブロックは……俺がかつて乗っていたゼクローザスとリナリアには、無いはずのものだった。


「それに……シンプル過ぎるデザインの座席部分……! 本当に、動くのか……!?」


 そう。


 コクピットには、ほとんど何も無かったのだ。


「黙ってそいつが動くイメージをするんだ、少佐!」


 と、ドクターが拡声器で俺に向かって叫んだ。


 俺は騙されたつもりで、シートに座る。


(動け……。動いてくれ、リナリア・シュヴァルツリッター!)


 そう俺が念じた瞬間。


 コクピットに光が走り、ラボ内部が映りだした。


「これは……!」

「そういう事だよ、少佐。“シートに座って機体の状態をイメージする”……簡単だろう?」


 ドクターが、喜色満面といった様子で俺に話しかける。


「ありがとうございます、ドクター!」

「おいおい、まだ終わっていないよ。武装にブースター使用の訓練……。あのゼクローザスで予習させてはいたけれど、まだまだ本格的にやってもらうよ?」

「はい!」


 こうして俺は、生まれ変わったリナリアを得たのであった。


     ***


 アルマ帝国がテロリズムを受けてから四か月後。


「翼を生やした異形の黒騎士、現る」との噂は、帝国全土に広まっていた。


 また、「黒騎士」の画像が映っていた情報も存在したが、何故かバイザーの色は「オレンジ」、そして「」と2種類存在していた。


 ハーゲン・クロイツ少佐……後のハーゲン・アルマ・ウェーバーとなる男もまた、リナリア・シュヴァルツリッターを駆り、テロリズムの鎮圧に奔走していた。


 そして彼は、養子であるブレイバ・クロイツと再開を果たすのであるが――それはまた、別の話である。



 余談


 はい、有原です。


「ハーゲンもリナリア・シュヴァルツリッターを駆っていた」という設定を、(有原の世界線では)公式設定にいたしました。

 それに伴い、“機体:リナリア・シュヴァルツリッター(ハーゲンモデル)”も、「おまけ機体」の項目から「鋼鉄人形設計図(案)」の一番最後の項目に移しました。


 寸劇どころではない長さとなりましたが、気に入っていただけたでしょうか?


 ちなみに、「ジニア・ノイモーント」がチラリと出演しております。

 どこにいるのか、気になったのであれば探してみてくださいませ。



 さて次に構想する魔改造なのですが、先にネタばらしします。


」。


 意味は公開されれば分かるでしょう。

 では、今回はここまで!

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