〜万引き〜

小学生時代、俺はやんちゃなガキだった。

よくいう悪ガキというやつだった。


今でこそなんであんなことしたんだと思うこともあるが大半のことは子供のいたずらで済ましてもらっていた。しかし、自分の中で悔やんでも悔やんでも忘れられない出来事が1つだけある。


俺には同じクラスのナオキという友達がいた。こいつがまた性質の悪いガキなのだ。


仲がいいときは遊びまくるが、なにかと癇癪持ちですぐにキレてきて喧嘩もよくした。俺も負けじと対抗していたがナオキは小5にしては体が中学生並みにでかくてなかなか勝てなかった。

だがお互いよくつるんでいたのも事実だった。


ある日ナオキに放課後誘われて、遊びに行った。

待ち合わせの公園は団地とスーパーの間にはあるが遊具が少なく狭いため、ほとんど人が来ない俺たちだけが知る穴場だった。


ナオキは先に公園にいた。


「おせーよ」


「わりい。親家にいてな」


俺が遅れてきたことにナオキは苦言を呈すが顔はニヤニヤしている。こういうときはなにかあるときだ。


「ほら、コレ」


ナオキが手渡してくる。ガムや飴などの小さなお菓子が五、六個あった。手から溢れそうになる。


「なんだよ、コレ。あ!お前!」


そこで俺は気付く。



「うん。盗った。」


ナオキはどうだと自慢するかのようにニヤニヤしながらスーパーを親指で指差しながら言った。


ナオキは笑っているが対照的に俺は焦っていた。


「お前これはダメだって!前もやってお前大変だったじゃん。」


「あんときは連れが先生にチクったからだよ。お前が言わなきゃバレない。」


「んなこと言ったって。あ!」


俺はスーパーの裏手から出てきた店員と目が合った。

店員も最初からなにか察してたらしくどんどんこっちに来る。


「やべっ!逃げんぞ」


ナオキの言葉に従って俺も走って公園を出た。

店員がなにか叫んでいるが俺たちは団地から大通りに出る道に飛び出て逃げた。

店員が大きな声をあげているが知ったことではない。

捕まったら俺まで共犯になってしまうのだ。


大通りからまた小さな路地に入る、振り返らず走ったが店員はもういないようだった。

俺らは息を切らしながら膝に手をついた。


「はぁはぁ、お、お前のせいでもうあの公園使えねーよ。」


「う、うるせーよ。でも楽しかったろ?」


ナオキはこんなことをしておいてまだ笑っている。


「スリルってやつだよ。ってぇ!」


ナオキが間抜けな声を上げる。俺に話しかけながらゆっくり歩いていたため前から来てた人とぶつかったのだ。


「んだよ。前見て歩けよ、な」


ナオキは悪態をつくが最後まで威勢が持たなかった。それもこのぶつかった人が見るからに隣の塀と同じぐらいの身長をした大男だったのだ。


大男は身長こそあるが腕なんか細くてガリガリで全身真っ黒な服を着ていた。年齢は30から40ぐらいだろうか、あまり歳のわからない無表情な顔をしていた。



大男はナオキの言葉には何も言わずただ前に立っているだけだったので俺たちは通り過ぎようとしたが大男は道を譲らなかった。そして



「 名前 は?」


くぐもった声できかれた。地に響くような低い声だ。

大男の目は俺らから離れることなく見ている。


「「は?」」


2人して拍子抜けた答えを返すが大男は表情を変えずにまた言う。



「 名前 は?」


なんだかさっきしたことを咎められているような気がして、俺は答えられずいたが


「ケント。俺ヤマダ ケントっていうんだ。」


ナオキは平然と嘘をついた。どうやら彼も俺と同じことを感じて本名を言うのが憚られたのだろう。


にしてもすぐさま嘘を言うとは。慣れているのか即答だった。


「家はどこ?」


また質問をしてくる。この時点で俺らは警察かスーパーの関係者なんじゃないかと感づいていた。



「三丁目の団地だよ」


これも嘘だ。



「お母さんの名前は?」


「ヤマダ ハナコ!」



ナオキは笑いを堪えながら言う。

おちょくっているのだ。

だが大男は納得したように頷き



「君は?」


突然俺の方に話をふられた。



俺は少し黙っていたが

ナオキが嘘をずっとついているのを見てなんだか胸が痛くて



「俺、サトウ リョウタって言います。家は一丁目の社宅です。」



と正直に答えた。

ナオキがチッという顔をしているのがわかった。

でも俺はもう本当のことを言ったほうがいい気がして



「さっきスーパーで万引きして逃げてきたんです。すいません。これから謝りにいきます。」



と聞かれてもないことまで言った。



「あっ!おい!」

ナオキが慌てて俺の口をふさぐ。




「悪いことしたの?」



大男はこちらにそのでかい体を曲げて顔を近づけてきく。



「しっ、してない!こいつが言ったのは冗談だよ!」



今更ナオキが訂正する。




すると大男は急に笑いだした。



えへ、えへへへへ、はーっはっはっはっはっ!




「ぜんぶ嘘だね、ナオキ君。」




そして急に両手で俺らの首を掴み、持ち上げた。



あの細腕からは考えられない力で振りほどけない。



大男は笑うのをやめ持ち上げたナオキを見ている。



「痛っ、いてて!やめろやめろやめろいたいいたいたたい!!!いたぁぁああヴァアあぁあ!!」



ナオキがどんどん首を絞められ叫ぶ。俺も暴れるがびくともしない。



そして ボギッ という乾いた音がして、ナオキは叫ぶのをやめた。口から赤い泡が出ていた。




俺は声にならない声を出すが男は俺のほうは見ない。



「お前も報いは受けなければならない」



最初に聞いた地の底から響く声がした。そして言い終わるや否や、俺は地面に叩きつけられた。



背中を強打して息が出来ない。


苦しみながら横を見ると白目を剥いたナオキも地面に転がっていた。





気がつくと、俺は病院のベットの上にいた。


全身痛くて動かすことが出来ない。いろんなところが固定されている。唯一なにもはめられていない右手を母親が涙をためて握っていた。



俺はあの日公園から出た大通りでトラックにはねられたらしい。当然ナオキもだ。



2人とも大量の血を流していて完全に気を失っていたが搬送中の救急車で一度だけ意識を取り戻したらしい。


救急隊員の受け答えにも辛うじて応じて

すぐに家族に連絡がいき、輸血も滞りなく行われた結果一命を取り留めたのだそうだ。



しかし、ナオキは救急隊員の質問に対して

全く違う名前を名乗り、その後も存在しない住所や人物を笑いながら答え搬送先の病院で死んだそうだ。


とくに首の損傷がひどかったらしい。


病院の関係者はナオキはショックで混乱していたのだろうと言っていた。



俺はベットでその話を聞き、あのときの夢と質問はなんだったのか、痛みで動かない体を震わせながら考えていた。



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