第64話:メルボルンを探索

 はぁ、合理的とか言われちゃったよ。

 私の家事スキルが相当なめられている模様だ。

 野生時代を生きた同居人を舐めるなど言いたいところだが、あいにく家事スキルは本当にゼロだ。

 うむ、哀しいね。


 邪魔をするよりは家を空けた方が、ルーミルも家事に勤しめるし、私も外で気分転換ができる。

 昼間から室内にこもるのは、どうも気質的に苦手だ。


「とりあえず、今まで歩いたことのない場所でも歩いてみようかな」


 メルボルンという都市は、数十万という人間が住む場所だ。

 私が過去に来て、約三週間ほどだろうか。

 意識しなければ、全てを回るのは至難の業と言える。

 なんやかんやで、土地に慣れること、戦いに慣れること、イデンシの蛸壺を使って土地の開拓を覚えること、サンドボアを倒すこと。

 おまけで付けるなら、夢の中で仮想戦闘訓練をすること。


 全てが新しいことばかりで、自身にルールを馴染ませることだけに精一杯だった。


「随分と忙しい毎日を送っていたものだなぁ……時間の過ぎ方が光のように速かった気がする」


 ハナから刺された部分は、何事もなかったように綺麗に回復している。

 むしろ、ここ最近にできた傷を蓄積して一撃にした方が、多分痛いんじゃないかというくらい、多くの怪我をしてきた。

 それくらい、ここでの生活に十分馴染めたのだろう。


 ……

 ……


 ルーミルの家の近くを散歩すれば、周りの人たちが当たり前のように挨拶してくれる。

 突然現れた存在だというのに、寛容的な人たちが多くて助かったと思ってる。


「リヌリラ、今日はルーミルと一緒にいないんだな。けんかでもしたか?」

「特別な関係でも不仲ってあるのね」

「ねーちゃん、リヌリラとルーミルはどーせーこんってかーちゃんが言ってたけど、どういう意味?」


 うーむ、この曲がりくねった浸透具合。

 監視社会って、恐ろしいね。


「そうだ。メルボルンの地図を開いてみよう。ルーミルに買ってもらってから、全然開いてないし」


 メルボルンの広さは約一万平方キロメートル。

 プラス、悪魔から土地を開拓したエリアが数百万平方キロメートル。


 とてもではないが、生きている間に自分の足で全てを回りきるのには無理がある。

 体を浮かせ、素早く走れる旅路草を使ったとしても、横断には数週間要するレベルだ。

 地図コンプなんて目指そうものなら、孫の世代まで必要になる。


「う~ん、なんか楽に移動することが出来る乗り物とかあれば良いんだけどなぁ……」


 そんな独り言を呟いていると、一人の幼女が私の方へと近づいてきて、


「リヌリラはロング・スローラーに乗らないの?」

「ロング・スローラー?」


 と、背中に背負っていた板切れを差し出して私の話しかけてくる。


「これは板に車輪をくっつけたシンプルな移動器具なの。オーストラリアで馬車に乗らない人たちは、皆これを使うんだよ」

「へぇ、そうなんだ。どうやって使うの?」

「片足でボードに乗って、もう片足で地面を蹴るの。そうすると車輪が回ってすいーって動くから、あとは好きな方向へスイスイ進めばいいよ」

「なるほど……妙な理屈が無くて解りやすい」


 幼女からロング・スローラーを受け取り、地面に置き、乗ってみる。言われたとおりに片方の足で地面を蹴り、公園広場内で移動速度を上げて駆けてみる。


「うはぁ、これは楽しい。ちょっと蹴るだけで一気に進む。快適快適♪」

「あとね、ロング・スローラーの端についているレバーを踏めば、車輪が左右に旋回するモードになるから、大きく曲がりたいときには、その機能でUターンすることだってできちゃうんだよ」


 言われたとおりに足元のレバーを踏むと、確かに車輪の旋回機能が一時的に開放されて、斜めに地面を蹴ると、一気に横へと曲がることができる。

 そのかわり、車輪がふらふらと方向が不安定になるので、常に押し続けてしまえば危険となってしまうので注意が必要そうだ。


「でも、街の平坦な道以外は流石に使えなそうだね。極端な話、ぬかるんだ泥の道とか通ることは出来ないでしょ?」

「普通は確かに使えないね。でも、リヌリラは超循環士でしょ?」

「まあ、超循環士ですわ。おほほ」


 ロング・スローラーの端を蹴り上げ、回転させながら右手でキャッチ。

 なんか、未来のスポーツで流行りそうな気がする移動ツールって感じ。


「超循環士の場合、超循環の力をロング・スローラーに込めることができるから、泥道でも泥をはじく超循環の力を使えばいいし、工夫すれば、水の上だって走ることができるんだ」

「へぇ、すごい。要は、考え方によってポテンシャルが拡張されるわけだ」

「レボアやロボアも使っているんだよ。移動する以外にも、あくろばてぃっく? っていうので楽しんでいるらしいし」

「うっ、レボアロボア……」


 鼓膜クラッシャーのデスボイスクソ兄弟。

 会話をする時は、まず百メートル離れていないと危険な要注意ブラザーズも使っているのね……


「体幹が安定して、身体能力が高い人ほど上手に使えるんだ」

「なるほど、身体能力の良さが長所の私には、使い勝手が良さそうだね」


 前転後転側転はもちろんのこと、前宙バク宙側宙も簡単にできる。

 車輪の慣性を利用して、回転しながら移動とかも楽しそうかも。

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