第7章-悪魔暴走ノ殺戮-

第63話:数日後のこと

 数日後のこと。


「……………………」


 今日はなんだかメルボルンが騒がしい。

 いや。正確には、メルボルンの周りがと言った方が正しいのだろうか。

 新聞には、こんなことが書かれている。


『イデンシゲートの外、悪魔の数が膨大かつ暴走気味。超循環士は、しばらく戦うことを控えるように』と。


「へぇ、悪魔が暴走気味……こんな日もあるんだねぇ」

「発情期でしょうかね。朝から鬱陶しくてしょうがないです」

「えっ、なに……悪魔って、野外でそんなプレイしているの? すごいねぇ……」


 随分と大胆だな、悪魔よ。

 人間だって一部の特殊性癖の人しかやらないのに。


「発情期というのは比喩ですよ、比喩。悪魔がやたら集まって、イデンシゲートの壁を壊そうと躍起になることがあるのです。リヌリラには、この悪魔に対する皮肉は、まだ通じなかったんですね」

「ああ、比喩。比喩ね」


 世界がショッキングピンクモザイクに染まり上がるのかと心配してしまった。

 私は常に、全年齢対象ガールで生きていきたいつもりでいる。


「こういうのって、どのくらいの頻度で発生するの?」


 新聞の記事を眺めながらルーミルに質問をする。


「それが不定期でしてね。数ヶ月空くこともあれば、数日連続という場合もあります」

「あぁ……それは面倒くさい」


 せや、メルボルンへ行こか~的なノリが、唐突に生まれる感じだろうか。

 フットワークが軽いのか、やることがなくて暇なのか。


「今となっては悪魔の動向を瞬時に測れる機械があるので、どう動いてこようが我々が妙に惑わされることはありませんが、ただ……」

「ただ?」

「法則性が読めないというのは、むず痒いところですね」

「確かに……」


 ルーミルは、台所で野菜を切るリズムを崩すことなく返事をする。


「基本的に、こういう日はメルボルンの外に出ない方が良いのかな」

「新聞に書かれている通りです。わざわざリスクを冒すこともないですからね」

「ルーミルみたいに強い人でも?」

「より安全に、一歩ずつ殲滅できるように動くのが得策だと思っています。私も痛いのは嫌ですからね」

「……なるほど」


 非常に合理的な考えだ。

 悪魔は不死ではないし、新たに生まれることは無いと聞いた。

 不毛なチャンバラをするより、暗殺を繰り返す方が、時間は掛かるものの、被害は最小限に済むのだろう。


 となると、ここ最近、毎日悪魔を殺すことに勤しんでいた私は、手持ち無沙汰になってしまう。

 突発的フリーダムデイズを獲得してしまったということになる。


「そうしたら、今日、私は何をしようかな」

「……さあ? 裸で草原を駆け回ったら良いんじゃないですか?」


 とりあえず喫茶店に行こうのノリで、犯罪を推奨する畜生家主ルーミル。

 特殊な訓練を受けすぎたんじゃないですかねぇ……


「冗談ですよ。靴下は履いてて良いですから」


 うーむ、この人は芸術家か何かの思考を受け継いだ人かな?

 おかしい人だという酷評を超えて、普通にバカと言いたくなってきた。


「夜明け前の、人がいるか居ないかというギリギリのラインを攻めると、なんだか身体が熱くなってきますので、おすすめですよ」

 

 ほほぅ、具体的な情報だなぁ……なんでそんなこと知っているのかなぁ……?

 まるで、長らく体験しているかのような常連具合の訴求じゃないの。


「…………ふふふふふふ♪」


 だがともあれ、このまま冗談を続けてしまっていても、話が進行しない。

 無理矢理にでも話をブチ切ってしまう方が、私が気まずくならないで済む。


「り、料理の下ごしらえでも手伝う?」

「リヌリラは、肉に粗塩をかけて焼くことしかできないでしょう?」


 できないでしゅ……


「それとも、洗濯でも手伝う?」

「この前、高かった洋服を破きましたよね?」


 ビリッビリでしゅ……


「じゃあ……えーと、えーっと」

「はい」

「…………」

「………………」

「……………………」

「…………………………」

「……散歩行ってくる」

「はーい♪ 合理的行ってらっしゃい♪ 夕食までには帰ってきてくださいね」


 これが家に居場所を無くした旦那の心境というやつだろうか。

 心臓がキュッなったんだけど。


 ……

 ……

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