第6章:-夢想戦-
第57話:こんな夢を見た(夢想戦01)
その日の深夜――
こんな夢を見た。
草原。
果てしなく広がる広大な大地。
星の全てが草原に囲まれてしまったのではないかと思えるほどに、どこを見ても、木の一本ですら生えていない。
「……不気味なまでに夢という感じの空間だな……って、あっ……」
夢の中には、映画のようにひたすら観客視点から見続けるだけの場合と、自身が主人公となって妄想の世界を駆け巡る場合との二種類があるが、私は今回、後者の世界へと迷い込んでしまったようだ。
走ったり、しゃがんだり、手をうごかしたり。
気持ち感覚はふわふわとしているものの、ある程度は現実世界での動きと比較して不便ということはない。
ただし、走ったら疲れるし、ホッペをつねれば痛くなる。
闇雲にバク宙をして失敗しようものなら、首の骨を折って夢の中で死んでしまいそうな勢いだ。
……
……
……その、勢いだよね?
なんて下らないことを考えつつも、せっかく自由度の高い夢の世界へとやってきたのだから、何をしようか考えてみる。
「ただ広くて何もないだけというのも退屈なんだよね。せめて、街並みでも広がってくれれば、適当に散歩でもするのに」
いくら土地が広くても、何もなければ価値がない。
そこに何時間と居られる機会を設けられようとも、ただ時間を下手に潰しておしまいになってしまっては、単純に時間の無駄である。
オープンワールドは、ただ純粋に広ければ楽しいわけではないということを、この世界の創造神に物申したい。
……構築したのは、誰と疑うまでもなく、私なのだけれど。
「…………」
なんというか、随分と簡素な性格をしているな、私は。
普通、夢というのは、現実から離れたような右脳を活用する芸術的世界観を大体の人が創造するのだろうけど、この夢の場合、キャンパスを用意して、さて何を描いていこうか悩み続けて二十時間くらい経過した人並みに、スッキリとした味わいになっているぞ。
一言で言うなら、芸術の才能が無い。
もう少し世界に積極的になれと言いたい。
……つまり、私にね。
「うーん、まあ。メルボルンの都市を夢に見られれば、もう少し楽しい冒険が出来るのかもしれないけど、私、なんやかんやでこの時代の都市を隅々まで回ったことがないから、創造に掛ける部分が相当多いんだよね」
見たこともなければ夢の中に創造することは出来ない。
多分、出来たとしても世界の穴はどっぷりと大きく、物寂しい奇形なものとなってしまうだろう。
まあ、次にこんな感じの夢を見られる機会を想定して、今度メルボルンの都市を隅々まで回ってみるのも良いかもしれない。
躍動花を使えば都市を隅々まで冒険できる。
映写機器を使って記録を残せば、私の脳内にはしっかりとメルボルンという都市が焼き付くだろう。
「じゃあ、今回はどんなものを創造すれば良いんだろう……」
身体の体力や神経はどうやら感じる設定らしい。
肉体自身に影響はないだろうが、脳が怪我や体力の判定をしているので、夢の中でも身体に対するアクションは、精神面で影響するのだろう。
しかし、いうてもここは夢の中。
死までは行くことは……多分、ない。多分。
それは夢の終わりと世界の終わりで、私の目覚めが多少不快な状況で始まる程度だ。
なら、一つ試してみたいことがある。
「昼間見た、レボアとロボアを夢の中に構築したい。二人と夢の中でシミュレーションの戦いをしてみたいんだ」
人と人との戦いをする。
本来なら、互いに仲間であるので、特別な事情、特別な状況が万一にでも生まれぬ限りは武器をぶつけ合うことは無いだろう。
互いに悪魔を倒す戦力。
そして私じゃないにしても、長くメルボルンで戦い合った仲間同士では、どうにも本気でぶつかり合うことは難しい。
でも、夢の中で、私が見た人間の動きをトレースするだけならば、それは私の中で完結するいざこざだ。
夢と現実の区別さえ付けておけば、何ら影響も問題も無い。
「二人の動きは連携が強くて素早かった。もしかしたら、悪魔もそのような類似の敵がいてもおかしくはないからね」
人並みの知恵を持つ悪魔のことだ。
待ち伏せや連携という人間がよく考えるプレーは、確実に彼らにとっての選択肢の一つとなっているだろう。
もしも、彼らの動きを読み切ることが出来るなら、接近で戦う私にとっては、とてもプラスになる成長だろう。
――私は、レボアとロボアの動きを強く予測しながら創造をする。
――夢の中の創造神『私』、記憶に眠る二人の姿を具現化しなさい。
私が強く想いを込めて、強く念じて具現化を望むと。
「……………………」
「……………………」
そこには、多少ノイズが発生しつつも、昼間見たときと同じレボアロボア兄弟の姿が、私の目の前へと召喚される。
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