第32話:メルボルン開拓戦05
そして生産性のない会話を続けて二十分経過。
火柱は立ち上がり続け、私たちに悪魔が近づくことなく予定通り、事は運んでいったのだが。
「……さて、そろそろ警戒しなくてはいけませんね」
「警戒? 何を?」
ここまで安全に来られたのだから、あと数分守るだけでいいだろうに。
「悪魔からしたら、最初に壺が設置されたタイミングだろうが、残り時間十秒前だろうが、要は制限時間内に壺を壊せればいいだけなので、私たちの体力や素材が不足してきた頃を見て襲いかかってくる悪魔もいます」
「……なるほど、合理的」
「この火柱です。敵に居場所も割れていますし、時間が経つほど増援が来ます。この小さなタコ壺でも、数をこなせば悪魔の住めるエリアを狭める脅威となりますから」
確かに、長い目で見れば悪魔にとって不利益だろう。
大小かかわらず壊していくというのも理解できる。
どっばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!
「……んな、何っ……! この強烈な水……うぶっ……!」
「ぶくぶく……ぷはぁっ……こ、これは一体……うぷっ……」
私たちが陣取っていた場所に、突然大量の水が押し寄せてきた。
それはまるで、巨大なタライがひっくり返されたように、強烈で大量の水が降り注がれた。
「……くっ、ひ、火が……消えるっ……!!」
辺りを豪快に燃やし続けていた火柱は、この大量の水によって鎮火され、全てが無防備という状態へとリセットされる。
服が完全にびしょ濡れになる。下着や靴の中まで濡れて気持ち悪い。
「はぁ……はぁ……な、何だったの……これ……」
「ふぅ、けほ……悪魔の仕業でしょう。ここまで意図して鎮火してくるということは、私たちを妨害する以外に無いでしょう」
「あ、悪魔って、超循環使えたっけ……?」
「いえ……しかし、強い力と人並みの知恵はあります。工夫してきたのは間違いないでしょう」
ぴちっ……ぴちぴちっ……
「さ、魚……? どうしてここに?」
地面に注がれた水とともに連れてこられたのは、大量の藻と魚。
突然のことに驚いた魚が、呼吸できずにピチピチと暴れ回っている。
「……簡単なこと。近くにある池のど真ん中で、思い切り力拳を突いたまで。衝撃で池の水を全部抜く。ここは外来種が多いから、整理しようと思ってた」
「……だ、誰だ……!」
遠くからゆっくりと歩いてくる一人の生物の姿がある。
人の体より二倍近くあるサイズで、二の腕のたくましい筋肉、鋭い目つき、そして頭の上に触覚。
「あれは悪魔。先程の雑魚より圧倒的に強い悪魔です」
「名はデモディアという。筋力を鍛え、一瞬で人をつぶし、苦しませずに殺すのが心情」
「それは随分と紳士的な悪魔。その猟奇的思想さえなければ共存できそうですけどね」
ルーミルは落ちていた藻を超循環の力にし、フィンガーガンでデモディアという悪魔に撃ちつける。
しかし、ただの藻なので、攻撃性能は皆無に等しい。
ペシッと少々の勢いが付いただけの藻は、敵になんのダメージも与えることなく、ただ威嚇行為をしただけに終わった。
「……お前はあれか、ルーミルか。悪魔殺しの要危険人物」
「私は、おしゃれが好きな女の子。殺人鬼呼ばわりされる筋合いは無いですよ」
「ふん、女の子という年でもあるまい」
「童顔であり続ける限り、私は言い続けます。あなたに何を言われようと」
年齢についての指摘は否定しないのか。
「しかし予想外だった。タコ壺は小さいものだと聞いていたので、新人の超循環士が来たのだろうと思ったのだが」
「新人教育にはプロが付く。あなた、教育について知らないのですか?」
「悪魔は生まれた瞬間から実力主義の世界。ダメな奴は勝手に朽ちる」
「そうですか。人間並みの知恵をもつくせに、協力しないとか孤独感が強いですね」
「言ってろ。どうせ俺が殺すのはお前じゃなくて……」
「……っ!!!!」
ズガァァァ………ン!!!!
「そこの新人だからな……!!」
「うわぁぁぁぁ……!!」
「り、リヌリラ……!」
巨大な悪魔デモディアは、私目掛けて右手の拳を振り落とし、地面を一気に叩きつけた。
地面が大きく揺れると同時に、デモディアの拳から広がるように十メートル程の亀裂が入っていく。
ずごごごごごごごごご………
私はなんとかジャンプで避けて、宙を舞って体制を整える。
あんなの喰らったら、確かに一瞬の苦痛だけで脳みそグシャって潰されそう。
自分の運動神経の良さに改めて感謝しつつ、フィールドの状況を確認する。
「そ、そうだ、壺。壺はどこにあるの……?」
今の衝撃でタコ壺が壊れてしまったら、今回の作戦がすべて無に終わってしまう。
流石に初回で失敗するというのは避けたいところ。
一応は、タコ壺から離れて会話をしたので直撃は避けただろうが、果たして……
「……全く、リヌリラ。ダメですよ。イデンシのタコ壺はデリケートなんですから、ちゃんと自分の身を呈してでも守らなくては」
「えっ、ちょ、ルーミル」
「……な、なんだと?」
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