第31話:メルボルン開拓戦04

「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 ダッシュで駆けて十五メートル。この辺なら、既存のセーフエリアと直結しつつ、新規開拓するセーフエリアの獲得も被らずに済みそう。

 私はそっと、タコ壺を地面に置き、もくもくと立ち込める煙を追って、空を見上げる。


 まるでゴキブリ駆除をする煙のようだなと一瞬思いつつ、今は一番危険な状況であるということも再確認し、気合を入れ直す。


「この小規模のエリア解放ですので、特別強い悪魔が来ることはありませんが、可能性はゼロではないというところだけ、一応念頭に置いておいてください」

「う、うん……分かった」


 壺を壊されてしまえば負け、それを守る私が殺されてしまっても負け。

 非常にしょぼい話だが、攻城戦で一人城を守る兵士のような気分になる。

 あまりのスケールに拍子抜けしてしまう限りだが。


「ちなみに、壺さえ壊さなければ周りに何を出しても問題ない?」

「ええ。大丈夫です。何かアイディアはありますか?」

「例えばね……昨日ルーミルと戦ったときに余らせておいた熱烈草。これを周りが枯れ草であることをうまく利用して……」


 シュッ……

 ボゥワァァァァァァァ…………!!!!!!!


「わお、大胆ですね」

「ルーミルが驚かないという点に、私はちょっと驚いているけどね」


 フィンガーガンで辺りの枯れ草に火を放ち、一気に炎を立ち上がらせる。

 これから悪魔が壺を壊しにくるというなら、来られないようにするのが一番。

 なら、一番近づきがたい火を放てば、奴らも簡単に近づくことは難しい。

 大胆ながら、確実性を上げるための戦略と言えよう。


「懐かしいですね。私も若かったときは、とにかく辺りに色んなものをぶちまけたものです」

「へぇ、ルーミルもこの戦法やってたんだ」

「踏めば死ぬまで切り刻まれる毒針や、ノコギリでゆっくりと関節を〇〇するもの、尖った岩で△△して××したり……他には」


 いや、これはエグいというよりグロいと言ったほうが正しい。

 というか、私そこまで残虐的なこと考えていなかったから、同類扱いされるの嫌だなぁ。


「と、ともかく、素材の活用方法を覚える一環としては、まずはスタンダードな方法を覚えていったほうが良いかなと思って」

「ええ。妙な癖が付いてしまうと後で厄介ですからね。良い選択だと思います」


 妙な癖はルーミルがついているんだろうなぁという発言は心の中にしまい込み、燃え上がる炎が私とルーミルにかからぬよう、渦巻状のキノコ『ストームマッシュ』を循環ポケットに入れて力を生成する。

 中指のフィンガーシールド、風の力で私達自身を覆えば、炎は風の内側に入ってくることはない。

 酸素を確保することも出来るので、気候に左右されず安全な位置にいられるだろう。


「ああ、どうやら近くに悪魔が数匹残っていたようですが、炎に怯えて逃げていったようです」

「まだ悪魔が隠れていたんだ。随分と上手に隠れていたもんだね」


 お尻に火がついた悪魔たちが熱そうにしながら炎から逃れるように外の方へと駆けていく。

 穴を掘って隠れていたのか、カモフラージュが上手かったのか。


 ともあれ、ステルス性を見破るという点については、もう少し感覚を掴んだほうが良さそうだ。

 長い目で見れば、生き延びられる確率は格段に上がるだろう。


「人の数倍の高さの火柱ですから、悪魔もこれ以上来ることはないでしょう」

「悪魔は死んでしまえばこれ以上増えない。だから、無駄死には控えているのかな?」

「ええ。彼らも最後は任務よりも自分の命を大事にしようとします。ハナのような特攻的思考を持ち合わせているのはレアケースですね」


 人と争うだけあって、やはり思想は人間と近いものだ。

 ある意味親近感を感じてしまう。

 というか、罪悪感?

 急に火あぶりの刑とか、逆の立場なら勘弁してほしいくらい。


「さてと、休憩しようかルーミル。残り二十五分位、のんびりできそうだから」

「ふふ、では残りの時間は女性ファッションについてでも語りますか?」

「マンモスの肉が取れる場所教えて欲しい」


 話の内容を決定するところから議論が必要そうだ。

 これはある意味、時間つぶしにはちょうどいい。

 慣れぬスカートが風でまくれたところをルーミルに直された羞恥も含め、話し合おうじゃないか。


 ……

 ……

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