第15話:リヌリラVSルーミル01

 メルボルン郊外、荒野。

 ルーミルとの手合わせを開始した直後のこと。


「まずはこれでさようなら」


 ヒュ……


「……え?」


 ルーミルが右手の群青色のようなオーラの光を私の方へと投げてくる。

 直径は三十センチ位だろうか。

 超循環の力として使うとなると、割と大きめな性能の部類だ。


「うわっ、と。危ない……」


 思いの外、ルーミルの投てき精度が高く、その場にいたら私に直撃していただろう。

 数回バク転で下がった後に、地面に手を付きバランスを整える。


 ボゥム……!


 着弾した超循環の力は粉塵爆発のように三メートル規模の爆散を起こす。

 青白く輝く光景はきれいではあるが。


「ちなみに、これってなんの素材を使ったの?」

「ふふ……サバククラゲという、地上で生活するクラゲの素材です。すべての神経に激痛が走る猛毒です」

「ひぃぃぃぃぃ……!」


 思わず爆散から更に離れて猛毒を吸わぬよう外側の空気で深呼吸する。

 ルーミルの表情を見てみる。

 いつもの笑顔で安心する。

 ……いや、これを正確な位置に投げて笑顔のままというのは、逆に怖くて漏れそうになる。


「悪魔に使えば簡単に足止めできるので、後は脳天ぶちかますだけで良いんですよ」

「その看護師さんのような穏やかな表情のままで、極刑に等しい行為を説明するルーミルさん怖い」


 うーむ、もう少しきれいな形で敵を倒せられると思ったけど、思いの外リアル志向のグロ表現であることに動揺する。


「いちいち戦場で使用した素材を説明する人なんていませんよ。ほら、次いきます」


 ルーミルは駆けながら木の幹に付いていた何かの素材をちぎり取り、循環ポケットの中に入れる。

 今度は何が来るのだろうか。

 警戒するため間合いをとっていると。


「……ほら、そんな逃げ腰じゃ戦いになりませんよ」

「えっ……?」


 先程十メートルほどは距離をとっていたはずのルーミルだったが、いつの間にか私の顔二十センチのところまで迫っている。

 思わず顔だけでも避けようとするも、そのままルーミルに追尾され。


「はむっ……」

「へぁっ……!???」


 噛まれた。

 耳たぶをはむって優しく噛まれた。

 裏声で普段出さないようなちょっと音程外れた感じの叫び声出しちゃった。


「うわぁ、リヌリラってずいぶん可愛らしい声を出すんですね。ちょっとキュンときちゃいました」

「こ、こ、この……」

「……ちなみに、今悪魔が相手だったら、のど仏にナイフをグリッと突き刺していたところですけどね」

「うっ……!」


 耳元で囁かれた言葉に恐怖を覚え、ルーミルから即座に距離をとって逃げる。

 怖いのか怖くないのかよくわからない感じが総じて怖い。

 先程から敵を確実に始末するための行動しか取っていないところに、効率さしか感じない。


「リヌリラは過程が見えないと状況判断が出来ないタイプと見えます。これではすぐにやられてしまいますよ」

「わ、分かってるって……」


 今回は、なんの素材を使ったのだろうか。

 力の説明をしてくれなかったところを見るに、いちいち説明はしないということを意味しているのかもしれない。

 なら、次も今とは違うような形で私に対して攻撃のアピールをしてくるはず。

 次は一方的に攻めて来られないように、私も何か急襲できる素材を見つけないと。


 辺りを見渡し荒野の中に何があるのか探していく。

 サボテン、昆虫、砂、枯れ木、枯れ草……素材としてはこの程度だろうか。

 つまり、今回は限られた素材の中で戦うということで、初心者の私でも対策方法を見出しやすくしたということなのかもしれない。


「なら、その優しいモードで勝てるように、私もとりあえず素材を駆使する……!」

「その意気です。数度の急襲で恐れをなすようでは、超循環士失格ですから」


 ルーミルから一定距離を保ちつつサイドに走って素材を探す。

 とりあえず、この枯れたたんぽぽのような花を使ってみようか。

 私は根本から枯れて時間の経った花を丁寧に摘み取り、循環ポケットの中に入れていく。


 ヒュン……


「うっ……あぶなっ……!」

「ちゃんと私の攻撃も避けながら素材を集めてくださいね」


 ルーミルは人差し指のフィンガーガンを私に向けて指しており、真っ赤な弾丸を発射してくる。


「せっかくですので説明しますと、これは熱烈草(ねつれつそう)という砂漠に生えやすい草で、弾丸として使用すると超高熱を帯びて飛んでいきます。命中しても致命傷にはなりませんが、体内に唐辛子を刷り込まれたような激痛が走るので注意してくださいね」


 ヒュン……

 ヒュン……


 バク転しながら木の裏に隠れて弾丸攻撃をやり過ごす。

 いちいち性能がエグいものをチョイスしてくるあたり、戦いに徹底している感がすごい。


 だけど、うまく避けられたおかげで無事に素材の循環が完了できた。

 私の右手には、先ほど拾った花の力が薄水色に輝いている。


「見たこと無い素材を使うのは正直ギャンブルだけど、今は試しながら状況を改善していくしか無い」


 素材の純粋な力を見るためには、小指に力を入れるフィンガーパワーを使うと良い。

 私は力を吐き出し手のひらに溜める。


 フィンガーパワーで溜めた素材は大きく二つの種類に分かれる。

 自分で使うか、相手に投げるか。

 その使い道は、手のひらの感覚から直感的に把握できるようになっている。

 それが、今まで見たことがない素材であったとしても。


 普通の人間でありつつも、超循環士としての数少ないアドバンテージと言えよう。


「この素材は自分で使う。なら……!」


 素材の力を両手に塗布し、私は一気にジャンプする。

 自分で使うものには、何かしらの肉体強化があるから、色々と動いてみるのが一番理解できる。

 結果……!

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