第14話:チュートリアル戦闘(後半)

「四つ目、薬指、フィンガーブレイク。素材の力を活かして物理で殴る超接近技。さっきのフィンガーソードよりも直感的に使うことが出来る格闘技で、使用者本人の肉体能力をそのまま力として押し出すことが出来るので、筋力がある男たちが使うと、非常に効果的な才能を発揮する脳筋性能」


 私は改めて岩に接近する。手をグーにし、薬指に力を入れ、足を踏ん張り、腰に力を入れ、岩を思い切り正拳突きでぶん殴る。


 ズガァン……!!!!!


 岩を殴った衝撃で大きな土煙が発生し、一瞬自身が覆われてしまった。


「けほ、けほ……ったく、強く殴りすぎた」

「ずいぶんと強力な殴りをするのですね。力自慢の男性並みなんじゃないかと」


 ルーミルは、おぉ……と驚きながら私を見る。

 岩には直径四十センチほどの大きなへこみと、岩全体を覆う巨大な亀裂が発生している。


「まあ、狩ったイノシシを持ち帰るときにも力は必要だったから、必要最低限の生活をしていたら、いつの間にか実践で使えるレベルの性能に化けていたって感じ。岩場を探索するときに、余計な岩を破壊することも出来るからね」


 右手に付着した大量の岩の破片を振り払いながら。


「そして最後に小指、フィンガーパワー。普通の超循環師がよく使う基本系。素材の力を純粋に生成する。持っている武器に力を注いで戦うことも出来れば、力自体投げて攻撃するとか、とにかく変に加工して使いたくない場合は、基本これだね」


 私は右手に生成した力を右足に触れさせ、力の源を足に移行させる。

 光が足に写ったことを確認し、私は一気にジャンプする。


「でぇい……!!」


 空中回し蹴りで岩の中央をめがけて蹴り、脆くなっていた岩に最後のトドメを刺しにいく。

 ズドォン……と大きな音と土煙に覆われる。

 流石に二度目は土煙で涙しないようにと、すぐにバックで下がって回避する。


 数秒掛けて土煙が消える。

 そこにあったのは、バラバラに砕け散った岩。

 私が超循環の力を説明するに当たって攻撃した後に、破壊された哀れな実験台だ。


「さすが超循環士。時代を超えても基本形を抑える辺り、私も安心できますね」

「あ、ありがとう。はは……」


 ルーミルはニッコリとしながら小さく拍手する。

 別段、私にとっては特別なことをしたわけでもないのだが、彼女にとっては褒めて伸ばすというのが性格的都合なのだろうか。


「超循環士はできれば今挙げた五つ全てをバランスよく使えれば一番の理想なのですけど、やはり得意不得意というのはありますから、どこかに有利不利というのが集中してしまいがちなのが現状です」

「……ちなみに、訊くまでもないかもしれないけど、私ってどういうタイプだったと思う?」


 ルーミルはにっこりしながら。


「お察しの通り、近接で戦うことが得意な……脳筋といってしまうのは失礼かもしれないですけど、そういう近接パワーな感じがします」


 まあ、自身で脳筋なのは受け入れているけど、他人に改めて言われると、ちょっと傷つく。


「悪魔にも様々な性格がいます。近接でとにかくゴリ押そうとする人。援護射撃で姿を見せずに暗殺しようとする人、逃げてはせめて、逃げてはせめてを繰り返すヒットアンドアウェイのタイプ。分析したらキリがありません」


 話で思うに、悪魔も人間のような思考を持っているのだろう。

 一人ひとりを冷静に分析する必要があるのかもしれない。


「リヌリラの場合、敵が近くにさえいれば、優位になれる可能性は高そうです。身体能力も異様に高いですので、泥仕合を避けつつ、相手がどのような力を持とうとも、先手を取れれば構わず悪魔を倒せるところが強みかと思います」

「へへ、さすが私。狩猟生活も長いから」

「しかし一方で、弾丸攻撃が不慣れということは、遠距離の敵に対する対処の術に乏しいとも言えます」

「うぐっ……」

「遠距離から攻撃されても、敵がどこにいるかという分析が苦手な可能性がありますし、サポートしてくれる人がいないと状況を理解できぬままに瀕死になる可能性は高そうです」

「ひ、否定できない……」


 一度鳥の糞を落とされたとき、もう全部飛んでる鳥落ちろって小石を投げつけたのは良い思い……いや、悪い思い出だ。

 自分の中でも把握しつつも、改善方法がわからなく、ずっと見逃していたところだとも言える。


「大体リヌリラの戦い方についてよくわかりました。戦いという点では、ルーツは守られていて安心です」

「でしょう? さすわた(さすが私)」

「でも、私とこのあと手合わせをした際には、果たして勝つことは出来るでしょうかね」

「……え、手合わせ?」

「リヌリラがこの世界で最低限生きていける防衛能力をつける。最後はやはり私が直接調べなければ、力を把握できたとは言えませんし」


 ルーミルは体を私に向ける。

 特別な構えを見せるわけではないが、隙なく私の攻撃をカバーしようと身構える精神力を強く感じた。


「私と戦って二回、攻撃を当てられればリヌリラの勝ち。私はリヌリラが倒れるまで戦い続けて勝ち、こんなルールでいかがでしょうか?」

「……いかがでしょうかと言われても、そんな露骨に差のあるハンデを突きつけて大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫です。少なくとも、今のリヌリラには、必ず負けないということは把握できましたので」

「ぜ、絶対にって……そんな大胆な」

「戦ってみればわかると思いますよ。色々と、ね」

「……?」


 手玉に取られたような感じがして、なまじスッキリしないところもあるが、戦わないことにはどうとも言えない。

 悪魔を倒すプロ、ルーミル。

 彼女を納得させられない限りは、多分、この時代では生きていけない。


 勝てない?

 なら、向こうが嫌がるくらいにしつこく攻め上げるくらいなら出来るんじゃないかな。

 少なくとも、ただで倒れる私ではない。 


 私の力を、見せてみる……!


 ……

 ……

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