第16話:リヌリラVSルーミル02

「うぉわぉぉぉ……! と、飛んでくぅぅぅぅ…………!!!」

「旅路花(とらべるふらわー)を使ったのですか。それは自らの重力を極限まで軽くして、まるで宇宙遊泳しているような感覚になる素材です」

「こ、この素材って……何か意味あるのぉぉぉぉ……?」


 軽くジャンプしただけなのに、十メートル近く飛び上がれている。

 体がふわふわとしてしまい、自分の体じゃないみたいに、いうことをきかせにくい。


「素材の力を自らの思考で活用するのが超循環士の仕事です。私はリヌリラが落ちてくるまでの間、熱烈草の弾丸で的当てゲームでもしていますね♪」

「や、止めてぇぇぇぇ……!!!」


 ルーミルが弾丸で私のことをガチで狙いに来ているのがわかるので、急いで体を大きく回して軌道を変える。

 そのコンマ数秒後、連射された弾丸が一気に空へと駆け上がり、上空の方でボワッと小さく爆発した。


 マズい……偶然避けられたから良いものの、流石に連続で避けられるかは微妙。

 しかし、一つ言えることとしては、戦いの中で上を取った者は、確実に優位な状況にあるということ。


 奇襲、射撃、回避、全てをとっても下の人間より優位に立てる。

 なら、現状バランスが不安定な私であったとしても、その方程式は当てはまる。


「……それなら、これで一気に攻める!」


 体を横軸に回転させ、すばやく移動しながら落下していく。


「面白そうな動き。今度子供たちの前でやってみてもらえます?」

「まずはルーミルに最初に見てもらいたいな! ちょっと近すぎて痛い思いするかもしれないけど……ねっ!」


 ルーミルは先程からその場を動かず私に攻撃をしてくる。

 ある程度のハンデなのか、それが本人の戦闘スタイルなのかは知らないが、慣れぬ重力感である以上、留まってくれるにはありがたい。

 私は横軸の回転のままにルーミルに近づき、そして左足を出してルーミルに踵落としを仕掛けていく。


「これは当たったら痛そうですね。私も対策しなくちゃダメそう」


 私が攻撃を当てようとする直前、ルーミルは一言だけつぶやいた。

 そして、予め待っていたかのように、隠していた右手の光を強く光らせ、私の足の前に拳を突き出す。


「ぶつけ合いで対抗? さっきゴリ押しなら私が強そうっていっていたと思うけど」

「ええ……ですから」


 ヌルン……


「うわっ……!!! 何っ……!!!?」


 ルーミルの顔に蹴りを入れようとしたつもりが、突然体が更に回転し、ゴロンゴロンと転がりながら、ルーミルの前に倒れ込む。

 突然の出来事過ぎて、何が起きたのか理解できない私に、ルーミルが一言。


「中指のフィンガーシールド。素材はメヌリ樹液というものを使い防壁を展開しました」

「……な、名前的なところから分析するに、ヌメッと攻撃を受け流す系だったり……?」


 体をひっくり返したままに質問する私。

 めくれたスカートの中身をルーミルに見られたままの羞恥を継続させたままに。


「正解です。この素材は潤滑油として使われるものでして、よく工場とかで使われるものなのですよ。驚きました?」

「驚きました……。というか、ルーミル。いつまで私のパンツじっと眺めているの」

「ああ、ごめんなさい。黒なんだな~って思いまして」

「そうだよ、黒だよ。白、黒、赤のルーチンの内の今日は黒をチョイスした日なんだよぉ! で、私のを見せたんだから、今度はルーミルのパンツを見せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 逆さに倒れ込んだ状況から両手をつき、体を回転させ、そのまま両足を大きく広げてルーミルに回転蹴りを仕掛ける。

 しかし、向こうはシールドを展開したままなので、攻撃が滑り再びバランスを崩す。

 でも、これでいい。なぜなら。


「……なるほど、受け流すヌメリ性能を逆に利用し、自ら私を蹴ることで勢いをつけて間合いを取る。早速高速思考ができるようになってきましたね」

「ハァ……ハァ……ぱ、パンツ……みせ……ろ……」

「ヤダ怖い。年下の女の子にパンツ見せろって脅されてる。今日は気合入ったやつじゃないのに♪」


 ルーミルがおちょくった様子で私に笑いかける。

 ただ攻撃を仕掛けただけだというのに、あっちらこっちら転んだおかげで既に細かな擦り傷ができて痛い。


「傷口には海水の弾丸を打ち込んでも痛いらしいですよ。良かったですね、ここが海辺じゃなくて」

「どちらにせよ、今ある状況の中でエグい攻撃を仕掛けてくるのはわかっているから、そんなの関係ない……」

「まあ、そうなんですけどね」


 ルーミルは言いながら熱烈草を循環ポケットの中に補充して、改めて私を撃とうと準備している。

 銃弾自体はどこから撃っているのか分かれば別段怖くない。

 動体視力で追えるものは、全て超反射神経で避けてやる。

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