第10話:殺人鬼の悪魔『ハナ』のこと

「他に質問はある?」


 女性は私に問うてくる。

 確かにこのままではあからさまな情報不足である。

 断片的に説明されたところで、情報を把握するのは難しい。


「色々と気になることは多い……多いけど、せめて、優先度が高い質問がしたい」

「……ハナのことですか?」

「そう、ハナのこと」


 やはり私の疑問は向こうに把握されていたようだ。


「ハナ・シューリット。悪魔の血を受けて生まれた完全純度の悪魔。この戦争時代に狂乱の戦士として人を何百人単位で殺害してきた要注意人物」

「ハナが……悪魔で、殺害を……?」

「彼はこの時代、人間の間でも危険視されています。人を見つけたら最後、地の果てまで追いかけズタズタになるまで切り刻む模様です」

「うわぁ……」


 純粋にハナという存在を恐ろしいと思ってしまった。

 あの表情の中に、あんな死を求める思考を持ち合わせていたなんて。


「悪魔は我々人間の超循環士のように組成する力を持ち合わせていませんが、人よりも圧倒的な身体能力を持ち合わせています。ハナもありとあらゆる方法で殺害を試みましたが、残念ながら……」

「太刀打ちできなかった」

「ええ……超循環士たちは、血液の一滴でも残っていれば、蘇生させることができますので、戦力の減少に至ることは滅多にありませんでしたが……」

「恐怖で戦闘意識が減退していってしまった……?」

「いくら蘇生で生き返ろうとも、切り刻まれたときは人並みに痛いのです。その痛みと狂気に恐怖を覚えてしまう」

「戦争が悪魔側に優勢となっていったと」


 不死身と超人。

 確かに、屈服させるには合理的と言った戦略だ。

 しかし、ハナの場合、そういう戦略など持ち合わせておらず、ただ純粋に殺害を求めているようにも聞こえるが。


「未来で私の銅像に会ったということは、私は近い将来、ハナを封印するために、銅像となって道連れをする予定なのですね」

「まだ銅像になるということを決断をしていない?」

「銅像というのは、私達にとっての防衛行為です。一度悪魔に捕まってしまえば、殺害と蘇生を永遠に繰り返され、殺しのおもちゃになってしまうでしょう。だから、私達は自らを生から開放する『銅像化』という最後の手法を持っているのです」

「安楽死みたいなものなのかな……」

「近いでしょうね。一度銅像化してしまえば、永遠に元に戻ることはできないですから」


 不死身という前提は、なんとも恐怖に溢れたことだ。

 死の恐怖と痛みは、たしかに耐え難い絶望だろう。


「状況はある程度理解できましたか?」

「ま、まあ……ハナに関してでいうなら」

「はい。では、次にこの時代の背景と情勢について説明します。ついてきてください」

「ついてきてくださいって、どこに……?」

「外にです。もう歩くことはできますよね?」


 ついさっき心臓をえぐられるような刺殺をされたというのに、もう歩けるという聞き方は、なんとも強引だと思った限りだが、確かに先程目覚めたときに比べれば、表面のチクチクとした痛覚の反応は残りつつも、内臓的な苦痛は一切感じなくなっている。

 抜け出た血もすっかりと元に戻ったかのように、体全体に力が入る。

 これが超循環の蘇生法……とんでもない力を持っているものだ。


「行きましょう、リヌリラ。私の名前はルーミル。戦争を終わらせたいと願う、普通の女の子です」

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