★第7話:狂気の真実(1話〜6話を読んでから推奨)
【※注意】
第7話〜8話はプロローグの中で特に強烈なオチが待ち受けています。
1話〜6話を予めお楽しみいただくことで、物語の展開の強烈さを体験することが出来ます。
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洞窟の中、数百メートルを再び歩く。
ランタンの光を照らしながら、再び先ほどの銅像の場所へと到着する。
「……あった」
銅像はジジイサマたちとのやりとりの後のままに取り残されていた。
数時間は経過しているというのに、何ともな処遇ともいえるが、模造品に対してなら、このような温度間でも致し方ないともいえよう。
再び目にした槍を持つ女性の銅像。
間違いなく、戦争の惨禍に見舞われた被害者。
この世界には王という存在は今も昔もない。
過去の戦争は誰かに指示されて行われたものではなく、個々の意識が殺意に芽生えていたのか、何かしらの集団、宗教によって意識的意見の一致が当てはめられた可能性がある。
だが、この銅像は違う。
何かに追われているように、自らの意思の優先度を下ろされた上での表情。
気になったきっかけはそれ。
本能的に、自身の考えとの矛盾を感じたが故の疑問。
だから、確かめたくなった。
彼女は当時、何を感じ、どうなったのかを。
腑に落ちない私のモヤモヤを払拭させるために、銅像の言葉を聞きに来た。
「ずるいよリヌリラ、俺を置いていくなんて。気になって、夜も寝たフリしちゃったじゃないか」
「……はぁ。ハナ、いつから気づいていたの?」
いつものニッコリとした表情のまま、私の後ろにハナがいる。
ランタンを右手に、左手には水筒を持って。
ピクニックにでも来たかのようなゆる~いゆる~いテンションだ。
「気づくも何も、帰宅後にあんなにモヤモヤとした表情をされれば、俺だって何か色々と予測しちゃうよ」
「洞窟の中を歩くもう一人の気配が気になっていたけど、ハナだったのは予想外」
「さすがリヌリラ! 強盗の方がよかった?」
「ハナじゃなきゃよかった」
「うわー、しょっくー、かなしー」
「リアクションが適当だってのは、絶対にツッコまないぞ」
「ははっ、残念」
私の言葉を軽く受け流すのは流石といったところか。
ハナの闇は、世界の何処かに埋められているのだろう。
世界が崩壊しつつあるというのに、心に陽しかない存在なんて、希少種もいいところだ。
むしろ、陽が紙一重に闇を見せずにいられているという可能性もあるが。
「そんなことよりリヌリラ、早く銅像様の声を聞いてみたいんだけど」
「ああ……はいはい。あんたは好きでここに来たんだもんね」
「深夜のテンションも含まれて、更にワクワクが止まらないよ」
「もしかして先祖は冒険家? それとも考古学者?」
「雪山から紐なしバンジーをしたり、海外から輸入された火縄銃を改造したものを片手に虎に突っ込んでいくじいちゃんがいたんだけど、それは職業的になんて呼べば良いのかな?」
「バカ、もしくは作戦を忘れたバカな特攻兵だな」
ハナのじいちゃんの話は初めて聞いたが、さらりと狂気的な行動をする変な男だったようだ。
その血筋をすべて引き継がなかったのは、ハナにとっては不幸中の幸いと言えよう。
鉄骨の骨組みまでは染め直すことはできなかったようだけどね。
「じいちゃんは何にでも興味持って、考える間もなく探究心を満たそうとしていたからね。火山のマグマで家を作ってみたいと火口にダイブする七十二歳まで、よく生きていたと感心しているよ」
「ある意味、神に愛されまくったじいちゃんだな」
「少なくとも、俺が同じことをすれば、明日の朝食はリヌリラが作ることになるだろうね」
「頼むから、死ぬ前には肉の燻製を二年分くらいは先に作っておいてよ」
「はは、了解」
まあ、孫の時点で、歴史に少しだけ興味があります程度に落ち着けたのは改善の証拠だ。
父親がどんなやつか気になってしょうがなくなり始めているが、いまはともかく目の前の銅像だ。
「……それより、早く銅像の声を聞いてみてよ。伝導線をたんまりと持ってきているんでしょ?」
「なんで知っているんだ」
「俺は倉庫番の仕事も頼まれているからね♪ 細かな変化に敏感なんだぜ♪」
「これが我が家を支配した男の実力か……」
家事を任せすぎてはいけないと皆々はよく言うが、まさかここでその処遇を受けることになるとはな。
今度から料理くらいは自分でやってみようか。
……うむ、来週から検討しよう。卵焼きとかね。
「さあさあ早く、言葉を聞かせておくれよ」
「ちょっと待ってて、今素材を循環ポケットの中に入れて力を蓄えているところだから」
素材を力にするには少々の時間がかかる。
量が多ければ多いほど、素材が加工ししづらければしづらいほど時間がかかる。
今回の場合は、ダブルコンボで遅延が発生する要因となる素材なので、十メートルサイズの電動線だと二分程の時間を要する。
「じゃあ、その間に休憩をしようか。喉乾いたでしょ?」
「ん、ああ……気が利くね」
ハナはいうと、左手に持っていた水筒をテーブルの上に置き、用意した木のコップに液体を注いでいく。
「カモミールティー。リラックス効果があるらしいから、普段血の気が盛んなリヌリラにおすすめだよ」
「まあ、その最初の一杯は、今の発言に対するストレスを落ち着かせる部分にあてられそうだけどね」
ズズッとハナの言葉を消し去ることを願いながら、カモミールティーを口にする。
ほのかに感じるフルーティな香りがなんともリラックス効果を与えてくれる。
しつこくなく優しい味わいで私を楽しませてくれる。
一口、もう一口とのんびり飲んでいる最中に、入れた伝導線の加工が終わったようで、背中のカバン型循環機器に力が蓄積されていた。
「ちなみにハナは、この銅像がなんて言うと思う? もしも当たったら今度鶏肉取ってきてあげる」
「香辛料が良いな。最近辛いスパイスにハマってて」
「はいはい、何でも良いから」
「うーん、多分だけどね、この銅像。彼女はきっと、一緒に住む同居人のために準備していた夕食の邪魔をしてきた悪魔を殺すべく、偶然台所にあった槍を突き刺したんじゃないかなって思う。ほら、悪魔って急襲して人を殺すのが好きだったらしいし」
「……随分と具体的な内容を語るね。もしかして、創作欲は持っている方?」
「的確に内容を言ったほうが、あとでごまかしがききにくいでしょ?」
考え方の思考はハナのじいちゃんから受け継いでいるようで何より。
出来れば私以外の人には話さないようにして欲しい限りだ。
「まあいいよ。香辛料を買いに行く手間が省けそうだから」
「ふふふ。さぁて、どうかな?」
気持ち悪い笑みを浮かべて私の言葉に笑いを返す。
まるでクイズの答えを予め知っているかのように。
だけど、そんな具体的すぎる答えは流石に外れるだろうという前提のもとで、私は右手に電動線の力を注ぎ込み、銅像の心臓に手を当てて、中の声を聞き出そうと、そっと目を閉じ集中する。
『……ザザッ、ザザザッ……』
やはり最初は電波が悪い。
言葉を聞き出すには、ある程度の時間がかかる模様。
しかし一分ほど経過したタイミングでノイズが少しずつ晴れていき、かすれた言葉が私の骨髄を通じて脳へと流れ込む。
『きさm……器……だろう……未来n……託し……たま…か……』
『……悪m……私を殺し…も……器……』
器? 未来?
断片的な言葉しか聞こえてこずに、何やら女性と誰かがやり取りをしている模様。
かいつまんででしか単語が聞こえてこないので、その内容までは把握できないが。
『殺され……なら、お前と共に……銅像……』
『止め……俺が…と……』
『貴様は悪魔の……だ! ……私と共に……ば……未来に……を……』
『くっ……覚えて……何年……が、貴様の血筋を……殺……』
『出来るも……ら……やっ……みろ……悪魔の子として生まれ……た』
断片的言葉の中で状況を把握しつつある中、私は最後の言葉に人生最大級の驚愕を体験した。
『悪魔の子として生まれ……た……ハナ……!』
グザァッ……!!!
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