#3
「俺、何でモテないんだろう。」
学校からの帰り道、瑠衣が突然言い出した。
「それが受験生の台詞かよ。」
「他の奴にモテなくてもいいけど姉貴にはモテたい。」
「典型的なシスコンだな。お前のモテたいっていうのは姉弟としてもっと仲良くなりたいってことなのか?それともあれか、その。恋愛対象として。ってことなのか?」
「後者に決まってるだろ。」
即答で返されて面食らう。
「あ、そ、そうか。お大事にな。」
「うるさい。ドン引きしたように言うんじゃない。全体的に色素が薄くて茶髪がかっていて、彫が深めでまるで妖精のようなクォーター美少女に言い寄られても付き合わない枯れた奴に何も言われたくない。」
「お前その美少女と遺伝子ほぼ変わらないじゃん。」
「言うて二卵性だし。優衣は母親似で俺は父親似のがっつり日本人顔って感じだし。」
「彫りは深いじゃん。黒髪だけど良い感じにふわっと天パで色白で目がぱっちり。おまけに175センチというそこそこ長身。見てくれは良いじゃん、お前。サブカルが似合う。」
「サブカルって褒めてんのか、それ。」
「褒めてる褒めてる、俺の元カノ全員サブカル女子。」
「メンヘラとかヤンデレをサブカル女子って言ってないか?」
「へへっ。」
「それとよう、俺が優衣褒めるたびに何で一々蒼は俺のこと褒めてくるわけ。俺のこと大好きかよ。」
「嫌いって言ったら嘘になるな。」
「くそ、かわいいなこの野郎。俺も173センチで黒髪サラサラ、目付きがキリッとしたイケメン蒼くん大好きだぜ。」
「もっとお前、ノーマルな恋愛しようぜ。」
*
ふう、疲れた。家に帰り制服のズボンを脱いだ僕はパンツ一丁にTシャツ、その上から長袖のワイシャツという格好でベッドに仰向けにダイブする。
昼ごはんは母親が作っていった焼きうどんが冷蔵庫に眠っている。チンして鰹節をかけて紅生姜を添えて食べよう。ああ、でも横になったら眠くなってきた。昨日もロクに寝てないし良い感じに布団が温いからか。お昼ご飯は後で食べたらいいや。
寝返りを打ち枕元に置いてあった携帯を手に取りメッセージアプリを開く。どこかの企業の公式アカウントからのメッセージは大量に受信しているが、知り合いからのメッセージは無さそうだ。それを確認するとまた枕元に戻す。
瑠衣に寝不足なことの相談をするの忘れたな、そんな雰囲気でもなかったし。明日でいいやなんて思いつつうとうと眠りに落ちていく。
TRRRRRRRR…
うるさい。電話の音が圧倒的にうるさい。階下から聞こえてくる親機の呼び出し音は良いとして、隣にある両親の寝室の子機の呼び出し音がかれこれ10分は鳴り続けている。留守電に繋がったら掛け直すということを続けているようだ。
俺宛の電話は基本的に携帯にかかってくるから家電にかけてくるなんて、この時間は迷惑電話くらいなのだが、随分と粘り強い迷惑電話だ。うるさくて居留守作戦も限界だ。電話を取って内容確認したらコンセントを抜いてしまおうと親の寝室に向かう。
「はい、如月です。」
「やっと出てくれたね、如月くん。私、佐藤さん。如月くんがなかなか電話に出てくれないから今如月くんの部屋にいるの。」
「えっと、どちら様ですか。おかけ間違いだと思います。」
「そんなことないよ。早く戻って来てよ。」
電話が切れた。電話相手はクスクス笑っていた。一体どんな迷惑電話だよ。ただもう、かかっては来ない気がする。コンセントを抜くのはやめて放置しよう。
通話を終えた子機は今15時30分だということを示している。もうこんな時間か、1時間ちょっと寝たようだ。電話のせいで眠くもない。焼きうどんを食べに下に降りるか。あ、でもまずは着替えるかと部屋に戻る。
「おっかえり〜」
部屋に戻ると見知らぬ女が勉強机の椅子に座って回転して遊んでいた。不審者だ、とか警察に通報しなきゃとかと考える前に、ちょっと部屋を離れたうちに入って来れるもんなんだな、と感心してしまった自分が不思議だ。
「あの、どちら様ですか。」
目の前の女に尋ねる。見た目から推測するに20代前半、紺を基調とした浴衣に黄色い帯、色白で長いストレートの赤毛に近い茶髪をアップにして簪を挿している。「夏祭りにでも行って来た?」と訊きたくなる格好であるが普段から浴衣を着る人もいない事もないし、ここはスルーだ。
悠長に尋ねずに追い出しにかかる方が良いかと思う自分もいたが、出来るだけ刺激せずに穏便に出て行っていただくことが先決だ。
「うーん。かぼちゃの馬車に乗って来たお姉さん?」
「俺に訊かないでください。自称シンデレラが勝手に家に入って来たと言って警察呼びます。」
「自称シンデレラじゃないわよ。魔法使いの方よ。」
「シンデレラのお話の中で魔法使いは、かぼちゃの馬車に乗って来たのではなく、シンデレラの家にあったかぼちゃを魔法で馬車に変えたのですが。」
「えっ、そうなの。勉強不足だったわ。」
「俺暇じゃないんで。相手していられないんで警察呼びますね。」
この自称魔法使いから目を離すのは危険だと判断し、部屋の奥にあるベッドに携帯を取りに行こうと瞬間。
『チリン』
小気味良い鈴の音と共に枕元に置いてあったはずの携帯が消えた。
「消えたんじゃないわよ。よく見て。移動したのよ。」
部屋を見回すと何も無かったはずの机の上に金属の塊とガラスの結晶のようなものが大小いくつか転がっている。もしかして。いや、でもあり得ないことが起きたという嫌な予感がする。
「最近エコがブームらしいから乗ってみた♪簡単リサイクル形態!」
「ということは、やはりあれは。」
「元・如月くんの携帯、ってことだね。」
ベッドの方から新たな人物の声がする。
「やだな。今日学校でも会ったし、さっきだって電話した仲じゃない。私、佐藤さん。今は如月くんのベッドの上で寝ているの。」
「佐藤さん……。」
僕は布団に丸まってリラックスした様子の佐藤さんを見て言葉を失う。
佐藤さんは前の学校の制服なのか、白地に紺の襟、赤いスカーフが付いたいかにも、という型のセーラー服を着ている。短いソックスで、ついでにスカートも短い。つまり、すらりとした色白の足が剥き出しで、動いたらスカートの中身見えてしまいそうだ。佐藤さんは別に身長が高いわけでは無いが華奢だから結構需要のありそうな脚をしている。目のやり場にとても困る。
そして何より急な展開に頭がついていけない。寝起きだし仕方ないか。
「寝起きじゃなくても、如月くんの理解力じゃ無理なんじゃない?」
そうかもしれない。って、それが携帯を理不尽に破壊された人間に言うことかよ!怒りを込めた眼差しを自称魔法使いと佐藤さんに向ける。
「そんなに怒らないの、少年。カルシウム不足なの?」
「余計なお世話です。」
お前が俺の携帯を壊したから怒っているんだ。何で理不尽に僕が貶められないといけないんだ。さっさと通報しよう。携帯は壊されてしまったから家電で。そう思い、部屋を出ようとする。
開かない。鍵がかかっているならガチャガチャ出来るくらいドアノブは動くものだが、ビクともしないのだ。嘘だろう。そう思い後ろの2人を振り返る。相変わらずクスクス笑っている。
「簡単なことだよ、空間を固定する魔法だと思ってくれればいいの。少年、兎に角君はここから出られないの。良い子だから私達の話を大人しく聞いて。」
「話があるなんて初耳です。」
「そりゃ身分は訊かれたけど要件は訊かれなかったし?」
相変わらず脱力感のある回答が返って来る。取り敢えず話させるだけ話させてお引き取り頂こう。携帯については佐藤さん経由で最悪請求だ。
「話って何ですか。」
「おっ、ようやく訊いてくれる気になった?」
「やりましたね、舞さん。」
「いいんで続けてください。」
「はいはい、それじゃ先ず少年には眠ってもらいます♪」
「えっ、眠るって?」
『チリン』
またあの忌々しい鈴の音がした。
そう思った瞬間、意識が遠のいた。
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