第十便 城壁にぶつからないでっ!
「え?」
オレが訊き返す前に、お兄ちゃんがハンドルを左に切った。
城に向かって一時停止。
それから、両サイドの窓を閉めた。
「火矢の勢いがさっきより弱まった。この女の子に当てたくないんだろう」
「でも、まだ飛んでくるよ」
「絶対当たりそうなのだけ教えて。それ以外は無視するから」
お兄ちゃんがどういうとドライブレコーダーを少し上向きにした。
あ、そうか!
このドラレコには、安全運転支援機能がついてる。
基本路上の障害物用だから、どこまで反応するかわからないけど。
火矢にどのくらい反応するかわからないけど。
『何をするつもりです?』
野良メスの不安そうな声。
お兄ちゃんは答えない。
「さて」
お兄ちゃんがヘッドライトのスイッチを入れた。更にハイビーム。
「行ってみよう!」
そしてアクセルを踏み込む。
エンジンが唸り、オレが走り出す。お兄ちゃんがギアをどんどん上げていく。
『撃てー!!』
隊長の合図とともに火矢がまた飛んでくる。
『下がりなさい! 魔獣から身を隠しなさい!』
ヒメスは相変わらず(オレにあてつけしながら)叫んでるけど、そのおかげか、火矢の数が少ない。
精度も、野良メスに当たることを恐れてか、いまいち。
「フッフ!」
「大丈夫! このまままっすぐ! ドラレコの安全機能もほとんど反応してない!」
「わかった!」
お兄ちゃんが更にアクセルを踏む。
門までざっと百メートルまで来た。
近づくにつれて火矢の狙いも正確になって来る。
「お兄ちゃん! 左に避けて!」
「今度は右!」
オレの的確な(!)指示と、お兄ちゃんの巧みな(!!)ハンドルさばきで、攻撃を躱していく。
まさしく、オレとお兄ちゃんのランデブー。
『みんな! お願い! 下がって! 隠れて!』
このヒメスさえいなければ。
『魔獣が城壁を突き破るつもりだぞ!』
『皆! 剣と槍を持て!』
なんて思ってるうちに城壁が迫った。
「お兄ちゃん!マジで門突き破るつもり!?」
お兄ちゃんは返事をしない。
『止めなさい! 城壁にぶつかる!』
野良メスも叫ぶ。今だけは同意してやる。
「お兄ちゃん!」
でも、後数秒でぶつかるってところで、お兄ちゃんはハンドルを右に切りながらサイドブレーキを引いた。
いわゆるサイドターンで、オレのケツが滑り、城壁から一メートルくらいのところで止まった。
『薬草!!』
車が停止すると同時に、お兄ちゃんが窓を開けて叫んだ。
『薬草ーっ!!』
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