第三話 憧れの世界と小さな不満

「それにしても……ここって、ほんとにあの『アンティロ―ぺの青い庭』の中の世界なんだよね。すごい。夢じゃないよね」

 試しにほおを引っ張ってみる。

 じわじわと痛みを感じる。

 

 夢じゃないとわかって、テンションがもっと上がる。


 エルには、安静にしてろと言われたが、居てもたってもいられず、私は起き上がって、リーリエの部屋を散策する。


「きれい。……でも、自分がリーリエっていうのは、少しだけ不満だなぁ。せっかくなら、アンティロ―ぺがよかったなぁ。それに、ここって、物語が終わった、その後の世界なんだよね。もう少し前に階段から落っこちたかった」


 とはいっても、あこがれの漫画の世界であるということには変わりはない。

 だから、嬉しいことにはかわりない。

「そういえば、結局、音沙汰なしだったなぁ」


 読者から、批判殺到だった、リーリエの最後。

 それは、ここでも同じで、王子であるカトレアから、少し注意を受けたぐらいで、罰を受けることはなかった。

 どうやら、アンティロ―ペの気遣いかららしい。

 本当に心優しい人だ。

 キャラクターランキング一位なのには頷ける。


 ちなみにそんな出来事があったのは、今から三年前だ。

 当時、リーリエ、十四歳、アンティロ―ペ、十六歳、カトレア、十七歳。


 アンティロ―ペとカトレアは、三年前に漫画の最終話と同じように結婚し、アンティロ―ペは、今では、カトレアに仕える侍女ではなく、王太子カトレアの妃、王太子妃だ。


「ああ、そっか。それじゃあ、呼び捨てだと不敬罪に当たるのか。アンティロ―ペ妃殿下にカトレア殿下ってお呼びしなくちゃいけないのか」

 私は、再び、この世界に来れたことの喜びを実感し、小さく笑いをこぼす。


 しばらくして、扉をたたく音が部屋中に響きわたる。


「お嬢様。失礼いたします」

 この声は、エルだ。


 お医者さんを連れてきてくれたのだろうか。

 私は「はい」と返事をしながら、身支度を整える。


「お嬢様……安静にしてくださいと申しましたのに……」


 心配げに言われると、少し罪悪感がある。

 だから、私は素直に詫び、ベッドに戻る。。


「ごめんなさい。少し、体を動かしたくなってしまったんです」

「……そうですか」

 一瞬、驚いたように目を見開いたいるだが、すぐに気をとりなおしたように相槌を打つ。


「……リーリエ様、お加減はいかがでございますか?」


 その後、一時間ほど検査や包帯のまき直しなどを行った。

 特に異常はないそうだ。

 激しい運動をしては悪化してしまう可能性があるとも言われたが、激しい運動は、そもそも健康体であれだめだろうから、日常的に困ることはないだろう。

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悪役令嬢は洗い足りない ~洗濯マニアな転生令嬢~ ラルム @20060515

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