第二話 いつもと違う理由

「お嬢様! お嬢様!」

 悲鳴に似た声で、名をを呼ばれる。


「……?」

 ゆっくりと目を開ける。

 のぞき込んで私の顔を伺っている侍女と目が合う。


「……エル……?」

 彼女の名前は、エルフィ・フロッケ。愛称は、『エル』で、リーリエわたしと同じ十七歳だ。


「お、お目覚めですか!? お嬢様!」

「ええ、エル。それにしても、大げさじゃなくて?」


 ゆっくりと起き上がる。


「失礼しました。……って、お嬢様。今は、安静にしていてください」

 案の定、頭に軽い痛みを感じる。


(痛っ……)

 思わず頭を押さえる。

 けがした部分には、どうやら包帯が巻かれているようだ。


「まだ、痛みますか?」

「ええ。少し……」

「そうですか……。他になにか変わったところはございまさせんか?」

「特に……あっ」

 小さく声を上げる。


(そうだった。私、確か、階段から落っこちた衝撃で、前世の記憶、思い出したんだよね)


 いつも通りに接していたが、前世の記憶を思い出した、ということを思い出した今では、いつものようにお嬢様のような接し方をするのには無理がある。


 何せ、前世の私は、ごくごく普通の一般庶民なのだから。


「どうかされましたか!?」

 私が小さく声を上げたことで、エルは、ものすごく心配そうな顔で私に詰め寄る。


「いや……何でもないです」

「……?」


 エルは、しばらく呆然とした後、首を傾げる。そして、何が起こっているんだ? とでもいうように目を真ん丸に見開く。

「……」


 私は、事情が読めずに無言で、エルを見守る。


「……お嬢様。どうかされましたか?」


 驚きすぎて、逆に冷静になったか、落ち着いた声音で尋ねられる。


「特にはありません。頭は、まだ少し痛みますが」

 エルと同じように、冷静に答えると、エルの顔がどんどん青くなっていくのがわかる。

 なぜだろうか。

 私は首をかしげる。

「エルこそ、どうかしましたか?」

「……い、いえ……なんでも、ございません。ご気分を悪くされましたのなら、大変申し訳ございません。……お医者様を呼んできますね」

 片言な口調に疑問を感じるもとりあえず礼を言う。


「? ……ありがとうございます」

 私に一礼してから、まるで逃げるように部屋を出ていくエルに私は首を傾げる。

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