第一話 前世の私

 わたくしの名はリーリエ・イーリス・カメーリエ。

 由緒正しきカメーリエ公爵家の令嬢よ。

 わたくしから自己紹介を聞けたこと、死ぬまで自慢してくれて構わないわよ!

 おーほっほっほっほっほ。


 自己紹介しろと言われたとき、数分前の私だったら、こう言うのだろうか。

 いや、そもそも、やれと言われて素直にやるような性格じゃないから、自己紹介自体しなかったかもしれない。


 いまの私だったら……。

 リーリエ・イーリス・カメーリエです。実家はカメーリエ公爵家です。よろしくお願いします。

 と、前者と比べれば、少し……いや、かなり控えめにこう言う。


 数分前の私、いまの私……どうしてそんなこと言うのか。

 

『頭を打ってバカになったんじゃないか?』


 そう思った人!

 最後までよーく聞いてください!


 数分前の私だったら

『あなた、死ぬ覚悟ができているようね』

 と、静かに笑いながら、氷よりも冷たくそう言っただろう。


 でも、今の私だったら

『勘が鋭いですね。案外、間違っていませんよ』

 と、言う。


「痛っ……」


 実は、私、今、物凄くピンチな状態です。

 このままだと最悪死ぬかも。


 いまどんな状況なのか、説明すると……。


 誰かに背中を押されて自分の屋敷の階段から派手に落っこちた。


 ということです。

 一体、誰がこんなことをするのだろう。

 こんなの痛いに決まっているじゃないか。


 とはいっても、こんなことされるような心当たりは、スゴくある。

 さっきまでは、全然わからなかったが、いまとなってはとてもわかる。


 なぜなら、階段から落っこちて頭を打った衝撃で前世の記憶を取り戻したからだ。

 数分前の私、いまの私……と言っていた理由もこれだ。


前世の私の名前は、浅野美雪あさのみゆき、ごく普通の女子高生だった。


『あれ? 高校生? それって……?』


 勘の鋭い人は気づいたかもしれないが、そう 実は前世の私は、高校生にして、死んでしまったのだ。


取り戻した記憶だと……。


どうやら私は、交通事故で死んだらしい。


大好きだったマンガを一通り読んだ私は、することがなく、散歩に行くことにした。


横断歩道を渡ろうと信号が青なのを確認してから、歩き出すと、暴走した黒色の車がぶつかってきて……その後、間もなく死んでしまったらしい。


(なんか普通だな……)

と、感じた。

ぶっちゃけた話、それぐらいだ。

あとは特に何もない。

(それよりこれをどうにかしないとなぁ)


頭が割れるように痛い。

頭に手を当ててみると、赤い血が手についた。

「うわ……」

一度死んだことがあるからか、至って冷静だが、焦っていない訳でもない。


(やばいな……)

とりあえず、人を呼ばなければいけないのだが、不幸なことにここは屋敷の中で、一番、人通りの少ない場所だ。

 使用人が気づくのはかなり、時間がかかってしまうだろう。


「どう……しよ、う……」

心は冷静でも体力の限界で、人を呼ぶことも出来ずに私の意識は途切れてしまった。

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