悪役令嬢は洗い足りない ~洗濯マニアな転生令嬢~
ラルム
王宮潜入編
プロローグ アンティローペの青い庭
その漫画の題名は『アンティローペの青い庭』。
主人公は、題名に書いてあるように『アンティローペ』という青髪の少女。
町の花屋で、きれいな花を売るのが彼女の日常だった。
しかし、彼女の花屋に隣国の王子が訪れ、その王子……カトレアが彼女を見初め、侍女として、彼女を城に連れて行った。
それをきっかけに、彼女の日常は一変する。
『彼女の運命の歯車が、動き出したのだった』
と、漫画では記されていた。
アンティロ―ペもカトレアに一目ぼれしていて、二人は両想いだった。
しかし、身分差を含め、二人が結ばれることはとても難しかった。
カトレアは、貴族の令嬢のほとんどが狙っているほどで、また、有力な貴族たちは、こぞって自信の娘を妃にしようとしていた。
それにより、アンティロ―ペを疎んじるものは、多かった。
カメーリエ公爵家令嬢のリーリエ・イーリス・カメーリエというアンティロ―ぺと同い年ぐらいのいわゆる悪役令嬢と呼ばれる少女は、彼女を直接的にいじめていた。
アンティローペとカトレアの一番の壁と言ってもいいほどだった。
本当に性悪の彼女は、読者には、もちろん不人気で、キャラクターランキングは、安定の最下位だった。
私も、彼女のことが好きではない。
そうして、アンティロ―ぺとカトリアは、いくつもの困難を乗り越え、ようやく結ばれたのだった。
そんな内容のこの漫画は、デビュー作にして、アニメ化や実写化など、社会現象になるほど、大ヒットしたのだったが、最終話だけは、不評だった。
それもあって、この漫画は、連載終了から一年もたたないうちに書店には並ばなくなってしまった。
一瞬にしてブームが去ったのだ。
その理由として、アンティロ―ぺとカトリアを散々苦しめた悪役令嬢であるリーリエが二人が結ばれた後も何も音沙汰なしだったからだ。
親の爵位が下がることも家が没落することも、牢にいれられることも。
何も音沙汰なしだったのだ。
そのメリハリのない終わりに読者は、激怒したという。
私からしたら、『そんなに?』だったが。
私は、連載当初からこの漫画を愛読している大ファンで、もちろん、単行本も全巻持っている。
マニアの中では、幻の漫画として、高値で取引されることもあるというこの漫画を私は、高校生になった今でも手放していない。
この漫画だけは、大事に保管している。
リーリエに対して、全く処罰がなかったのは、きっと作者がとてもやさしい人だからだろう。
みんな幸せで終わらせたい、という気持ちでこうしたのだろう。
それにリーリエは、きちんと反省している……はずだ。
ちゃんと足を洗ったのだ。それなら、それでいいじゃないか。
そんな思いを抱きながら、いつも私は、『アンティローペの青い庭』を読んでいる。
高校生になったというのにいまだに少女漫画を読んでいるということを周りは知らないが、特別、隠しているというわけではない。
言うタイミングがないだけで、『少女漫画、好き?』とか、『少女漫画って、読んでたりする?』とか、そう尋ねられれば、この漫画を読んでいることを明かすつもりだ。
好きなものを否定したり、隠したりするのは、おかしいと思うから。
その日、私は、いつものように『アンティローペの青い庭』を読み返していた。
そのあとの行動によって、自分の人生に大きな変化が訪れるということも知らずに。
アンティローペの青い庭風に言うとすれば……
私の運命の歯車が動き出したのだった。
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