レスポンスの向上
スマホのメッセージアプリを起動して、友達リストを眺める。下にスクロールして、それから上にスクロールして、暇そうなやつを探す。こいつにしようと決めて、メッセージを送る。
――久しぶり、元気?
しばらく待ってみるが反応がない。アプリを切り替えてメールを開いてみるが、新着はない。ニュースアプリを見ても、とくに気になるニュースはない。メッセージアプリに戻ってくるが、まだ返事がない。とろい奴だ。続けてメッセージを送る。
――新しいスマホを買ったんだけど、カメラがヤバイ! 夜景の画像を添付する。
そう書いて、さっき外に出て撮った画像を添付する。圧縮アルゴリズムも改善されていて、一瞬で送信が完了した。
続いてソーシャル系のアプリを開くと、いろんな話題でごった返している。飼っている猫の写真、ハロウィンパーティの写真、出会い系の広告、異業種交流会という名の飲み会の写真。適当にいいねをつけていく。広告にいいねしてしまった。後で同じ広告を見るはめになるだろう。
メッセージアプリに戻ってくると、既読マークがついている。返信はきていない。だが、相手が何か入力している途中だと示すアニメーションが動いている。もうずいぶんと待っていが返事がこない。じれったくなって、音声通話ボタンをタップする。八回目の呼び出し音で、相手が通話に出た。
「もしもし」
「久しぶり!あのさ、さっき画像さ、すげぇ綺麗だろ?」
「ああ、はぁ」
「ちょっとは感激しろよ。ちゃんと見たのか?」
「そっちの画面では綺麗なんですか?」
「ああ、お前の機種は古いから、綺麗に見えないのかもな。悪い悪い。画像以外にも色々あってさ。音声がハイレゾ対応だから、めっちゃいい音が出る。あと自動応答があってさ。人工知能が声色を真似て、適当にセールス電話とかの相手してくれたりさ」
気が弱い人なんかは、ついセールス電話なんかに付き合ってしまう。この機能があれば、ずるずるとセールスに付き合わなくてよくなるかも知れない。
「へぇ、そんな機能があるんですね。簡単に使えるんですか?」
ちょっと興味を持ったようだ。さっと画面をスワイプして、2回ほどタップするだけだと教えてやった。
ああ、それから、内部の部品のことも教えてやろう。
「この新機種は、見た目だけじゃなくて、中身も違うんだ。前の機種と同じだけの性能が、これまでの半分だけの面積で実現できてる。それで残り半分はどうなってるかっていうと、行列計算が得意な演算装置が入ってる。まあ、つまり、機械学習系の処理は、こっちに割り振られるってことだ」
「さすが、よく知ってますね」
やっぱり教えてやってよかった。なんだかんだで、こいつも聞きたいんじゃないか。
「あたらしい測地衛星にも対応してるから、精度いいんだ。知ってた? みちびきっていう日本の人工衛星なんだけど」
「知らなかったです、よく知ってますね」
「ちょっとネットを調べれば分かるだんけど、まあ、なれてないと分からないかもな。俺は、ほら、こういうのにアンテナはってるから」
「すごいですね」
「まあ、なんていうかさ、こういうリテラシーがあるとさ、いろいろ世界の見え方が違ってるくって感じなんだよ」
「センスありますね」
「それから、さっきも言ったけど、カメラで撮った画像が綺麗なんだよ。もうぜんぜん違う」
「そうなんですね」
やっぱりカメラが、この機種一番の目玉だと思う。通話しながら、さっき撮った写真のアルバムを表示する。
「見たいか?」
画像アルバムを眺めて、どれがいいかなと考えながら、尋ねる。
「なあ、見たいか?」
返事がない。画面を確認するが、通話は切れていない。
「もしもし?聞いてるか?もしもし?」
だが返事はない。代わりにポーンという電子音。続いて、無機質な音声が聞こえた。
「お客様のご希望により、この通話を終了します」
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