第4話 産
左目がジリジリと痛む。視界に広がるのは大きなライト。光が直接目の中に侵入し、とても眩しい。しかし、目を閉じることが出来ない。なんだか瞼が多方向に引っ張られるような感覚がする。強制的に目を開かせているのか。それにしても左目が痛い。イタい。いたイ。イたイ。イタイ。
「あ゛・・・ア゛」
「おはよう!♡リン・ストークスちゃん♡ちょっと痛むかもしれないけど、もう少しの辛抱だからね♡」
目の中に鋭い針を入れられてそれを全力でグリグリと抉り取られているような痛みを感じる。グチャグチャと気味の悪い音だけが響く。段々と焦点が定まり、痛みが鮮明に感じられてくる。この痛みを感じなければいけないのであれば、死んだ方がマシだとさえ思ってしまう。早く死にたい、早く。
「ン゛ん゛ン゛ん゛!!あ゛!ア゛!!!」
「ほらほら暴れない~♡これ以上麻酔打つと馬鹿になるってKさん言ってたしなぁ~。」
どれだけ藻掻いても、手足が縛られていて身動きがとれない。死にたいと思っている割には痛みに対して抵抗してしまう。生きたいのか?仮に生きたとしよう。私に残されたものはなんだ?またこうやって痛みを耐え抜く人生が待っているに違いない。そんなのは嫌だ。そんなのは嫌だ!
揺れる寝台。あんなに可愛いと思っていたメアリの顔も今は悪魔が微笑む顔にしか見えない。私をそちらの方へ連れて行ってほしい。今すぐこの痛みから私を解放して!
「そうだ!今から言う言葉をゆっくり耳に流し入れてほしいの♡私が言う言葉をちゃんと聞いていてくれれば、痛みは自然になくなるはずだよ♡分かった?♡」
カチャカチャという医療器具の擦れる音と、メアリの声が混ざり合ってそれはとても気持ち悪い音色が奏でられる。全身に力が入る。指の関節という関節が砕けそうだ。足の筋肉が千切れそうだ。力を入れないと、自分が壊れてしまいそうだ。
彼女は笑っていて、私は苦しんでいて、なんでこうも同じ人間であるはずなのに、一緒の空間で一緒に息をしているはずなのに、同じ表情になれないのかと、そんなことまで考えてしまう。
もう、耐えられない。
身体が冷たい。
死ぬのか?
私は、死ぬのか?
何か、温かいものがほしい。
「貴方はこれからご主人様のもとで幸せに暮らすの♡ご主人様は貴方に無償の愛をくれる。素晴らしいことじゃない?貴方にしか愛を捧げないのよ。つまりね、貴方さえいればご主人様は生きていけるの。」
「ヴしょぅノ・・・あ゛イ゛・・・???」
「そうだよ。それは優しくて温かい。これからは新しい貴方として生きるの。リン・ストークスは死んだ。もう、死んだの。」
「・・・死ンだ・・・?」
「うん。死ンだ。」
「わ゛だ・・・シは、だ・・・・・・レ゛」
「貴方は、この世に産まれる前の、小さな命、小さな赤子」
「あ゛か・・・・・・ゴ」
「良い子ね。落ち着いてきた。偉い偉い。」
これが、アい。頬を撫でるママの手が温かくて気持ちいい。ママ。ママ。ママ。
「ほーら出来た♡」
新しい私、こんにちは。
過去の私、さようなら。
?
今誰にさようならって言ったんだろう?
過去?
振り向いても何もないよ。
アハハ!
何やってるんだろう!
「お化粧して、このキラキラドレス着たら完成♡リーダーにも褒めて貰えちゃうかもね~♡」
愛がほしいの。
褒めて。
褒めて。
褒めて。
愛がほしいの。包んで。抱いて。撫でて。褒めて。捧げて。ほしいの。もっと。もっと!!!!
「ばぶー」
ブチン、と切れた音がした。
新しい私が産まれた音だった。
アハハ!
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