(10) 銀行入り口の兵士
港を小一時間歩き回ったぼくたちは、メインストリートに戻った。
凶器とも言っていい日差しが、赤道直下らしく頭の真上から照らしている。汗びっしょりなところに、港で受けた潮の微粒が顔や腕に張り付いて不快だった。まだ昼過ぎだが、初日から目いっぱい動くのでは体力を消耗してしまうということで、ホテルに戻ることにした。
銀行の入り口に2人の兵士が座り込んでいる。おそらく冷房が効かないであろう建物の中より、表の方がまだ過ごしやすいということで出てきたのだろう。日陰を求めて、入り口の、一段奥まったところに陣取っていた。入ろうとする客にとって最も邪魔になる場所だ。営業のことなど、これっぽっちも考えていないにちがいない。
一人は、飯を食べている。粗末な容器に入った芋を、無表情に口に運んでいる。その男は容器に目を落としているので問題ない。問題は、もう一人の兵士だった。
じっとこちらを見ている。じっと、だ。ぼくたちは行きと同じく2人ずつに分かれて歩いていたが、専ら兵士はぼくたちの方を見つめている。
「あまり見つめ返さない方がいい」
イチカワが言った。徐原たちもそう思っているのか、横を見ることなく進んでいる。
それでも気になるものは気になる。しばらく前を向いていたが、真横にきたときにちらりと見た。ここから先は、振り返らないと見れなくなる。
そこでぼくはぎゅっと心臓が縮まる。兵士がぼくたちにライフルを構えていたからだ。
「大丈夫です。同じ速度、同じ歩調で」
イチカワが言う。冷静な行動を、というのは分かるが、しかし銃口がこちらを向いているのだ。しかも兵士の側にいるのが、ぼくの方ときている。
「弾は?」
短く聞く。イチカワの能力は、他人が武器を所持していることが分かるというものだ。それならば、銃に弾が込められているか分かるというものだ。
「入っていません。ですので、落ち着いて行きましょう」
その返答にホッとするが、それを先に言ってくれればいいのにと軽く憤慨する。
それでも、自分の背後に銃口が向いているのかと思うとゾッとする。ぼくは角を曲がるまで生きた心地がしなかった。
ホテルにが見えて、今日の疲れが少し和らいでいくような感じがする。
「ホテルのシャワー、出ますかね?」
イチカワのその言葉に、またドッと疲れが伸し掛かってきた。
チョコっと変わった世界 勒野 宇流 (ろくの うる) @hiro-kkym
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