(9) ジランジアの港

 

 交通手段のない土地では歩くしか移動の方法がない。ぼくたちは1時間かけて港まで歩いた。

 

 体中のぜい肉が削げたイチカワはいかにも体力がありそうだが、他の2人も見た目は普通なものの、人一倍の体力を備えているようだった。赤道付近の容赦ない暑さの中、4人ともバテることなく港に着いた。

 

 飛行機の窓からチラリと見たが、歩くと印象がちがった。一面コンクリートというわけではなく、斜陽の港らしく雑草地が多い。コンクリートには至るところにひびが入っていて、決まって雑草が首を覗かせている。空から見るよりも緑が多い港だった。

 

 穏やかな水面は、透明度が高い。ほとんど船が出入りしていないので海水が汚れないのだろう。倉庫群があったが、中は空っぽだろうと想像がついた。

 

 消波ブロックはなく、堤防も欠けている。外洋からの波を遮るものはほとんどない状態だ。

 

 ずっと先は砂浜になっている。徐原が双眼鏡で見るが、人影はない。暑さか、恐怖政治か、なにかは分からないが人々は表に出たがらないらしい。

 

 倉庫の間を通って、裏にまわる。コンクリートが切れ、一面雑草地帯だ。進もうと思うと、イチカワに腕を掴まれた。

 

「蛇がいるかも知れませんので」

 

 たしかにそうだ。こんなところで噛まれたら、血清も入手できず死んでしまう。蛇だけではなくサソリも心配だ。

 

 道の少なさも、特徴的だった。車がほとんどないのだから、当然といえば当然だ。最も広い道は、大統領官邸の方角に延びている。物資のいちばんの運び先があの建物なのだろう。

 

 きらびやかな水面に、くすんだコンクリートは対比をより鮮明にする。そこに持ってきて、人がいないとくる。底知れぬ薄気味悪さを覚えた。

 

 自然が手つかずで残っているようで、堤防から見る水面は、さまざまな魚の宝庫だった。アカエイに、小型のサメもいる。手前はかなり浅く、ウツボが張り付いてじっとしていた。

 

「ここにひっ捕らえた人間を放り込んだら、骨も残らなそうだな」

 

 凛香が言い、ぼくを含めた3人で薄く笑った。

 


 

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