第5話 独裁政権のナンバー2

 

「それにしても、そのランスさん、独裁政権の軍に楯突くなんて無鉄砲すぎますよ。こんなところにいて、自分のプライドを押し通すなんて無理だって分かるでしょう」

 

 静まり返った空気を嫌って、ぼくは喋った。

 

「いや、プライドだけではないと思います」

 

 楊さんはぽつりぽつりと話した。軍の実力者にズワ大佐という者がいて、最初、グバンの忠実な僕だったものが徐々に溝ができてきた。ようは、前支配人のランスはその大佐に付いたのだという。それで現政権と距離を取り始めたのだ。

 

「そのズワ大佐って男は、今もいるのですか?」

 

「いや、これも2年前に、行方不明になりましたよ」

 

「ようは、前支配人は大佐側の人間だったから消えたということなのですかね?」

 

「そう考えて間違いないでしょうな。大佐とつながりの深かった者がことごとくいなくなってますから」

 

「粛清、ですか?」

 

「粛清ね。そう、まさにそのレベルですよ」

 

 街で暮らす何人もの人間が消えたとのことだった。グバン大統領はちょっとでも暗殺やクーデターの噂があると、街の中のすべてをひっくり返して、疑いのある者を次々ひっ捕らえるという。ときには、大統領がそういった夢を見た、というだけでそういったことをするらしい。市民にとってはおそろしく迷惑な話だ。

 

「そのズワ大佐というのは、どういう男なのですか?」

 

 そこで楊さんは、チラリと入り口を見た。誰かに聞かれることを極端に恐れているのだ。そして前にのめり込んだ。

 

「大統領と変わらない、残忍な野蛮人ですよ。2年前の揉め事も、強権政治に反旗を翻したなんてことではないですから。ようは大統領の信頼を得ていることを利用して、横領して私腹を肥やしたんです。おそらくクーデターでグバンを転覆させたとしても、ただ椅子が挿げ替えられるだけで、ジランジアという国はなにも変わらなかったでしょう」

 

「でも、そこまで出世した男なら、呪術師を公言するグバン大統領より「理」は通じるんじゃないですか?」

 

「とんでもないです」

 

 楊さんは両の手のひらをぼくたちに向けて振った。

 

「単に、大統領と同じ村の出身だから出世しただけです。むしろ大統領に忠誠を示すため、より残虐な行為を行ってましたよ。ズワがナンバー2になってから、拷問による不具者をよく街で見かけるようになりましたから」

 

 話の中に拷問などという言葉が出てくると、ドキリとする。ぼくたちは顔を見合わせた。

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