第2話 兵隊たちのうろつく空港

 

 4人それぞれが鞄1つだけの軽装だった。なにかあったときに、パッと荷物を手に取って逃げられるようにだ。暴力に対抗して重装備を持ち込んでも、真っ向からぶつかったのではひとたまりもないだろう。対抗措置より逃げ足を重要視した。

 

 軽装だから税関はなんなくパスするはずだった。だが、そうはいかなかった。税関でも兵隊がいて、税関職員のうしろに2人、ぼくたちの左右に各1人、立った。

 

 彼らの乾いた視線が不気味だった。ぼくたちに興味を示すでもなく、さりとて強い敵意を見せるわけでもない。まるで、この建物内を縦横無尽に飛び回る蠅に向けているような視線だった。単純にぼくたちが厄介で、目障りなのだ。彼ら兵隊が、面倒だから撃っちまおうと思い立ったとしても、なんら不思議ではなかった。

 

 職員はぼくたちの鞄を調査した。いや、調査というよりも、漁ると言った方が的確だった。ガチャガチャと中を搔きまわし、気に入った物があると没収した。おしぼりウェッティ、懐中電灯、ライトペン、スキットルなどが職員の持ち物になった。

 

 しかしそれも一瞬のことだった。すぐさま職員の持ち物を兵隊たちが取り上げた。

 

 ぼくたちのうしろにも、いつの間にか兵隊が寄ってきていた。威嚇のためだろう、ときおり背負った銃を前に持つ。異様な静けさが支配する部屋の中で、彼らがぼくたちから奪い取った硬貨の音だけがカチャカチャ鳴っていた。

 

 あらかた物色が終わると、税関職員は兵隊たちを見まわしてから、ぼくたちに行っていいと出口を示した。手のひらでやさしく、というわけもなく、出入り口を人差し指でさしたにすぎない。

 

 通路でもぽつりぽつりと兵隊がいて、ぼくたちは彼らを刺激しないよう無言で歩いた。兵隊の誰もが、だらしなく通路に座り込み、その乾いた目でぼくたちを見ていた。

 

 空港内の建物から出たぼくは、大きくため息をついた。張り詰めどおしだった気持ちが、そこでようやく一息つけた。

 

 広場にポツンと停まるタクシーに、4人で乗り込んだ。助手席に乗ったイチカワが、この国にただ1軒だけあるホテル、プロスパーに向かってくれと伝えた。

 

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