独裁国ジランジア

第1話 グバン空港に降り立つ

 

 ジランジアの首都、コダゲにあるグバン空港に着いた4人は、その日差しの強さに一様に顔をしかめた。

 

 チャーター機と見紛うばかりのプロペラ機が、西アフリカの強烈な日差しを受けて鈍く光っていた。こんな頼りないものに乗ってきたのかと、ぼくはこの日差しの中、ちょっと背筋を寒くさせた。

 

 プロペラ機は、隣国のゼグニアから出ている便だ。ぼくたちは日本でポートガンナという国のビザを取り、そこでホテルに入った。ポートガンナは先進国に大使館を置き、欧州に定期便のあるまともな国だ。そこで一泊したぼくたち一行は次にジランジアの隣国のゼグニアに飛ぶ。そこでも一泊。その滞在中に領事館でジランジアのビザを取り、そして連絡便の航空券を買った。

 

 領事館ではパスポートを見せるとき、イチカワの指示でパスポートに紙幣をはさんで差し出した。あからさまな賄賂だが、この国では今もってそれが通用する。領事は日本という国など知らないようで、鷹揚に紙幣をポケットにしまいながら「チャイニーズか」と呟いた。たいしてチェックなどされず、なにか機嫌の悪そうな表情を浮かべていた。イチカワは領事を部屋の隅に引っ張っていき、なにごとかを伝えて何か渡した。それから10分程度でビザが発給された。のちにイチカワから聞いたところでは、ドルとユーロを制服の内ポケットに押し込んだということだった。

 

 日本のバックパッカーたちは世界各国隈なく足を伸ばし、情報を発信しているが、ジランジアに言及したブログやネット記事は極端に少なかった。おそらくそういった自由な旅人たちがちょっと賄いきれないほどの額をビザ発給に要求されるのだろう。イチカワから額を聞かなかったが、ぼくはそのように見当をつけた。

 

 大統領の名前が付いた空港に降り立ったぼくたちは、崩壊寸前と言ってもいいくらい古びたビルに入った。冷房はなく、大量に飛び交う蠅がときおりぶつかってくる。軍服を着た男が数名立っていた。

 

 ぼくたちはその兵隊に突っつかれ、一つの部屋に入った。早くも恐怖が襲ってくる。その部屋は狭く、記載台には入国証が置かれていた。それに書き込め、とばかりに台の奥にいる兵隊が顎をしゃくった。

 

 ひとりひとり、入国証を差し出してパスポートのチェックを受ける。その間も兵隊はまったくの無言。チェックする男も見張りの男も。観光客を歓迎する態度は微塵もない。威圧的にぼくたちを睨みつけている。

 

 結局4人ともチェックを終えたのは、部屋に入って1時間後だった。恐怖と蒸し暑さで、ぼくたちはすでに汗だくだった。

 

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