第20話 ジランジアに行くことの条件
何日か考えさせてくれと言って、ぼくは田名瀬食品をあとにした。
しかし答は決まっていた。行きたい!! チョコに関する場所であれば、とにかく行きたい!! それだけだった。
だからあとはぼくが、その独裁国家に行く恐怖に打ち勝てばいいだけだった。それだけで、計画を進められた。単純なことなのだ。でも単純なだけに、その気持ちの引っかかりが取れなければ一向に前に進まない。
一度死んだ人生、と割り切って考えようとしても、なかなか踏み出せない。現に今、生き返って普通に暮らしているのだ。ジランジアで何かあれば、この再人生を棒に振らなければならない。それもおそろしい苦痛とともに。
しかし翌日、ぼくは社長に連絡を取った。行ってみましょう、と。
その代わり、行くにあたっての条件を一つ付けた。その条件を飲んでくれれば行きましょうと伝えた。
条件とは、今回の視察は軽めのものに留めるということだ。数日程度の小旅行とする、という条件だった。
出資者としては、1回の旅で詳細に視察してほしいところだろう。再び行かせるのは、費用がかかりすぎる。しかしぼくは、今回は単に様子見で、それで安全かどうかを判断してから、再度本格的に行くという手順にしてくれと言ったのだ。
これでダメと言われたら諦めよう。安全よりも費用を重視するのであれば、ぼくたちにトラブルが起こった場合の対応も分かるというものだ。だからこの条件は、相手の気持ちに対するいい判断にもなると思った。
それを聞いた社長の返答は、意外なものだった。
「そう言ってくると思っていたよ」
軽い笑い声に続いての返答だった。
「予想していたのですか?」
ぼくは聞き返した。
「予想もしていたし、そう言ってきてほしいとも思っていた」
「言ってきてほしい?」
「そう。君もいろいろ悩んだだろうけど、これが、行きたい好奇心と危険に対する防御とを考慮した、最も優れた策だと思っているはずだ。私もそう思っている。さらに言えば、その前段階として隣接する国に一度行ってみるという手もあると思うくらいだ。昨日のみんなとの話し合いでさらりと言ってしまってもよかったんだが、君がどういう考えに至るか、ちょっと試させてもらったんだよ」
そして、一拍置いて社長は付け足した。
「費用の面は、気にしないでほしい。安全に視察することに繋がるのであれば、惜しまないよ」
社長は心配するなとばかりに、また軽く笑った。
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